陸上・駅伝

特集:New Leaders2024

中大・佐野拓実 新主将は3大駅伝未出走「一番尊敬している」井上大輝の影響を受けて

伝統ある中央大の主将を任された佐野(撮影・井上翔太)

今年1月の箱根駅伝で優勝候補の一角に挙げられていた中央大学だったが、大会直前に主力の多くが体調不良に陥り、まさかの13位でシード権を失った。決意を新たに始動したチームの駅伝主将には、佐野拓実(3年、洛南)が就任。これまで3大駅伝や関東インカレなどの主要大会に一度も出場していないが、それでもリーダーに選ばれるのはチームメートからの信頼が厚いということだろう。箱根駅伝3位、全日本大学駅伝5位という目標を掲げた2024年度の中大を佐野はどのようにまとめていくのか。

【新主将特集】New Leaders2024

中高時代もキャプテン、大切にした「全員で戦うこと」

「本格的に全国を目指して駅伝に取り組み始めた」という京都市立桂中時代も、洛南高に進んでからも、3年生の時にキャプテンを任された。駅伝強豪校のリーダーとして大切にしたのは、「全員で戦うこと」だった。

「走る6人とか7人だけじゃなく、チーム全員が本気で駅伝で戦っているんだと思えないと、いい結果はついてきません。走るメンバーも、外れてしまった仲間の分を背負って戦うのが駅伝。口では簡単に『襷(たすき)に思いが詰まっている』とか言えますが、それを日頃の練習からどれだけ本気で感じられるか、当日スタートラインに立てるか。そういう意識で1年間、チームをまとめていました」

そんな思いにいたったのは、中学1、2年の駅伝でうまく走れなかったとき、メンバーを外れた先輩から「次はお前らがやってくれよ」と励まされたのがうれしかったからだ。中学や高校の恩師の指導を通じて「陸上は走る時は1人でもチームスポーツである」ことも実感していたという。

中学高校でもキャプテンを務め「全員で戦うこと」を大切にしてきた(提供・中央大学陸上競技部)

2017年の全国中学駅伝は5位に入り、洛南高校では2年連続で全国高校駅伝に出場。佐野は3年生だった2020年、前年に続いて6区を担い、中大でもチームメートになる溜池一太(2年)や若林宏樹(青山学院大学3年)、佐藤圭汰(駒澤大学2年)らとともに堂々の3位入賞を果たした。フィニッシュタイムの2時間2分07秒は、当時の日本高校最高記録だった。

あこがれだった中央大学で新生活をスタート

2021年春、佐野は中大に進んだ。決め手となったのは「強豪校で伝統もあること」だった。「伝統校のプライドを背負って戦っている姿にあこがれていて、その一員として僕も走りたいなと。中央大学のユニホームもすごく好きで、ずっと白地に赤字のCがかっこいいと思っていました」

佐野が中高生だった頃、中大は大学駅伝の舞台で苦戦を強いられていた。しかし、「1個上に強い先輩方も入られ、絶対に復活する」と気持ちが揺らぐことはなかった。

いざ大学生活が始まると、「高校と比べてレベルの高さを感じました」と当時を振り返る。「走る距離やペースも全然違いますし、トレーニングもハイレベルでした。最初はついていくのが精いっぱいで、1年目は先輩のマネばかりしていた感じです。寮生活も初めてで最初は不安でしたが、たくさんの先輩方に可愛がってもらって、寮生活はこんなに楽しいんだと思えるようになりました」

秋には10000mで初めて30分を切り、12月には5000mで14分13秒04の自己ベスト。2年目のシーズンは、「心の持っていき方はだいぶ慣れました。25km走や30km走も余裕を持ってこなすことができるようになった」と、佐野はゆっくりながらも着実に力をつけていった。ただ、強いチームメートがしのぎを削る中、主要大会に出場する機会は訪れなかった。

高校と比べてレベルの高さを感じたが、着実に力を伸ばした(撮影・藤井みさ)

給水係を通じて、より強くした箱根への思い

その間、チームは箱根駅伝で22年ぶりのトップ3となる準優勝に輝くなど躍進を続けた。佐野も駅伝メンバー入りを目指して3年目をスタートさせ、4月のシーズン1本目の10000mで29分18秒86の自己ベスト。大きな手応えをつかんだ。

「その月、1500mや3000mに連戦で出た中でベストを出せたことで、地力がついてきていると実感できました。疲労がない状態で臨めば、ハーフでも通用する。このまま1年通せば、もっと行けると自信になりました」

生活面でも就寝前のケアを欠かさず、睡眠を十分に取ることを心掛けた。「常に体を柔らかくしておく意識を持った」ことは状態の安定につながった。ただ、それでもレギュラーの座は届きそうで届かず、ボーダーライン付近での落選が多かった。スタッフ陣からはたびたび、「お前はもったいない。最後の最後に思い切ったレースができないから、こっちも選ぶのに迷うんだ」と言われたという。

今年の箱根では3区と9区で給水係を担った。ほんの数十メートルという短い距離ではあったが、実際に箱根のコースを走った佐野は「1年目や2年目はあこがれの舞台でしたが、来年はここで絶対に走ってやる」。改めて本戦での出走を誓った。

就任の覚悟が決まった同期たちからの言葉

これまで学年リーダーを務めてきた佐野は、昨年の秋頃、自然な流れで2024年度の駅伝主将に就任することが決まった。しかし「僕は主要大会に出たこともなく、いいタイムも持っていません。同期に強い選手がたくさんいる中で、僕が前に出て主将になることが不安でした。自信もなかった」と明かす。

夏合宿のミーティングで本心を打ち明けると、同期からは「佐野についていきたい」「お前なりの引っ張り方があるはず」「1人で背負わないで、同期で支え合ってチームを引っ張っていったらいい」といった声をもらえた。佐野はそれをきっかけに、前向きに「覚悟を決めた」と話す。

主将就任にあたって不安はあったが、同期の後押しで「覚悟を決めた」(撮影・井上翔太)

思えば佐野が中大に入学し、初めての寮生活で同部屋になったのが当時駅伝主将の井上大輝(現・大阪ガス)だった。井上も3年生まで3大駅伝の出走がなく、今の佐野と同じような状況で主将を任された。「一番尊敬している」という井上からは多くの影響を受けた。

「キャプテンとして引っ張っている姿を一番間近で見て、かっこいいなと思いましたし、同時にこんなに苦労するんだという場面も見てきました。中大のキャプテンはこれほど背負うものがあって、でも誇りになるものなんだと感じました」

チームの和を大事に、1日1日を悔いなく

井上をはじめ、歴代主将の姿や自身の中高時代の経験をもとに、加えて副将となった山平怜生(3年、仙台育英)と一緒に佐野は「チームの和を大切にしていきたい」と考えている。

「一丸となって戦っていきたいです。まず僕たち4年生の代が団結力を作ることで、チームに一体感が生まれると思います。駅伝はチームスポーツですので、メンバーから外れた者こそ、『自分の走りがチームの結果につながる』と思えるかが大切。そういう雰囲気やムード作りをしていきたいです」

「チームの和を大切に」4年生を中心に団結力を作りたいと語る(提供・中央大学陸上競技部)

佐野個人としても、3月10日の日本学生ハーフマラソンでは、自己記録を1分近く更新する1時間3分25秒で走破。「冬の鍛錬期の成果を出せましたし、やっとハーフで思った通りの走りができました」と大きな自信を手にした。

「箱根駅伝に絶対に出走する」という入学当初からの目標を達成するために、佐野は大学ラストイヤーの1日1日を悔いなく過ごすつもりだ。

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