陸上・駅伝

中央大・中野翔太 箱根駅伝で得た自信、最終シーズンは「三つとも区間賞はマスト」

吉居大和との「両エース」として駅伝で期待される中野翔太(箱根駅伝以外、すべて撮影・井上翔太)

中央大学は今年1月の箱根駅伝で往路を走った選手たちが全員残り、今季は総合優勝、そして学生3大駅伝での「三冠」を目標に掲げる。昨年度の全日本大学駅伝で6区の区間記録を打ち立て、年明けの箱根は「花の2区」で区間賞をつかんだ吉居大和(4年、仙台育英)と並ぶエースと目されるのが、箱根で3区区間賞を獲得した中野翔太(4年、世羅)だ。今季はどんなトラックシーズンを送り、それらを最後の駅伝シーズンにどうつなげていこうとしているのか、9月中旬に行われた夏合宿で尋ねた。

中央大・吉居大和 良い悪いの差が減ったトラックシーズン、武器の「爆発力」は駅伝で

雪辱を期した箱根路で「自信になった」

「あんまり目立ちはしなかったので、周囲の環境はそんなに変わってないですね。ただ、自信にはなりました。それまでロードの結果が良くなかったので、ようやくチームにいい影響を与えられましたし、貢献できました」。中野は年始の箱根駅伝をそう振り返る。

昨シーズン、箱根以外では悔しい思いをした。出雲駅伝は3区を任されたが、1秒差で襷(たすき)を受けた青山学院大学の近藤幸太郎(現・SGホールディングス)との勝負に敗れ区間7位。全日本はけがの影響で出走することができなかった。「出雲は僕が一番区間順位が低くて……。僕のところで勝負しないといけなかったんですけど、順位を落とす結果になってしまった。全日本も迷惑をかけた部分があったので、『しっかり貢献したい』という思いで箱根を迎えました」。箱根はいわば雪辱の舞台だった。

今年1月の箱根で、出雲と全日本で味わった悔しさをぶつけた(撮影・藤井みさ)

初めての海外レースで5000m自己ベストを更新

最上級生となり、上半期のトラックシーズンに定めた目標は5000mで日本選手権の参加標準記録(13分36秒)を切ることだった。それは中野にとって、それまでの自己ベスト13分39秒94の更新をめざすことでもあり、目標としてきた13分20秒台をマークすることも意味していた。

4月の学生個人選手権は、調整がうまくいかなかった影響で出場を見送り、タイムを狙って出場したのは5月の「ゴールデンゲームズ in のべおか」。しかしここで、思わぬ事態に見舞われた。「転倒に巻き込まれてしまって……」

集団の最後尾につけていたところ、前を走っていた選手が転倒し、体が中野の足にも引っかかってしまった。少しつまずいた形となり、数秒間その場に止まってしまったという。「集団から数秒離れてしまって、そこから少しずつ詰めようとは思ったんですけど、焦りもあって、そこから体と心がかみ合わず、リズムが崩れてしまいました」。タイムは14分05秒95。不完全燃焼だった。

トラックシーズンでは日本選手権の参加標準記録、そして13分20秒台をめざした

転機となったのは、藤原正和監督から「ウィーン行くか」と勧められたことだった。「もともと大和が行く予定だったので、『一緒に行ってこい』みたいな感じで送り出されました」。初めての海外レースで「極力日本にいるときと同じように過ごしました」。13分24秒11の自己ベストをマークし「知らないことばかりで、純粋にレースと楽しむというか、動じず、気にせず、ただ5000mを全力で走ろうという気持ちでした」と手応えを得た。

帰国してからは「けがをしそうな雰囲気が出た」ことから練習量を落とした。ホクレン・ディスタンスチャレンジ2023網走大会で10000mに出場したが、7000m付近で棄権。その後は夏合宿に入り、駅伝シーズンに向けた強化に励んだ。「8月から駅伝シーズンに向けて『積み上げていく』ような強化をしてきました。最初の方は(朝、午前、午後の)3部練習をやってましたね。9月になると少しトラックレースが入ってくるので、そこに向けてスピードを『研いでいく』ような合宿になっています」

夏合宿の終盤、ポイント練習に参加した中野(手前のサングラス姿)

まとまり始めた「キャラが濃い」仲間たち

藤原監督は、駅伝で結果を残すためには「4年生の力」が最も大事だと説く。「4年生のカラーが結果に対して非常に強く出るというのは、年を追うごとに思っています。今年も『4年生力』に期待して強化してきました」。今の4年生は吉居と中野の両エースを筆頭に、入学してきたときから期待されてきた世代だ。「主要大会で活躍してきたメンバーが非常に多いので、経験値も高い。一方で3年生の今ぐらいまでは『あんまりまとまる学年じゃないのかな』と思っていたんですが、やっぱり4年生になって『自分たちで引っ張ろう』ってなると、まとまる雰囲気がかなり出てきました」

中野は同学年の仲間たちを「みんな我が強くて、キャラが濃い」と評する。「1年の頃はそんなにお互いに干渉し合わず、一人ひとりが好きなことをやっている感じでした。上級生になってから、チームのことを意識して話をするようになってきました」。これは彼らが入学した直後の2020年4月、コロナ禍で最初の緊急事態宣言が発令されたことも影響しているのかもしれない。「彼らが入ってきたときは先が見えず、一番しんどい時期でした。授業もオンラインですし、入学式もないですし、大変な4年間を過ごしてきた世代です」と藤原監督は言う。

最後の3大駅伝では、すべてで区間賞獲得を狙う

今の4年生たちは、1年生時の出雲駅伝が新型コロナウイルスの影響で中止となった。その後の駅伝も沿道での観戦自粛が呼びかけられたり、選手たちにとっては開閉会式がなかったり、通常とは異なる方式で大会をつないできた。

ようやく本来の姿となってきている3大駅伝で、どんな走りを見せたいか。中野に尋ねると「三つとも区間賞はマストです。前後にいる大学をしっかりと突き放して、僕の区間でアドバンテージを取りたい」。チームを勢いづけるだけでなく、世代のトップランナーの一人として、見る者までをもわくわくさせるような走りを期待したい。

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