陸上・駅伝

特集:第99回箱根駅伝

箱根駅伝で中央大学が「目標達成」の2位 藤原正和監督「4年生が泥臭く引っ張った」

2位でフィニッシュした中央大の助川(撮影・藤井みさ)

第99回箱根駅伝

1月2・3日@東京・大手町~箱根・芦ノ湖間往復の217.1km
総合優勝 駒澤大(2年ぶり8度目)10時間47分11秒
2位 中央大   10時間48分53秒
3位 青山学院大 10時間54分25秒
4位 國學院大  10時間55分01秒
5位 順天堂大  10時間55分18秒
6位 早稲田大  10時間55分21秒
7位 法政大   10時間55分28秒
8位 創価大   10時間55分55秒
9位 城西大   10時間58分22秒
10位 東洋大   10時間58分26秒
ーーーーーーーーーーーー
11位 東京国際大 10時間59分58秒

1月2日・3日の第99回箱根駅伝で「往路優勝」と「総合3位以内」をめざしていた中央大学が2位に入った。3位以内に入るのは第77回大会以来、22年ぶり。藤原正和監督は「うれしさが半分、頂点を取れなかった悔しさが半分。4年生にエース格がいない学年でしたので、練習と私生活で泥臭いことをして引っ張ってくれました。4年生がそういう仕事を買って出てくれたところが、今年のチームの強み」と総括した。

「攻めのオーダー」を組んだ往路

今大会の中央大は、往路で「攻めのオーダー」を組んだ。各大学のエース級が集まる「花の2区」に1区の区間記録を持つ吉居大和(3年、仙台育英)、続く3区に10000mで吉居大和より速い自己記録を持つ中野翔太(3年、世羅)といったチームを代表する選手を配置した。

2区では吉居大和が青山学院大学の近藤幸太郎(4年、豊川工)や駒澤大学の田澤廉(4年、青森山田)に競り勝って、トップで戸塚中継所へ。襷(たすき)を受けた中野は「先頭で来たのはすごくうれしかったし、勢いがついた」。下り基調の3区序盤でしっかりとリズムに乗り、区間賞を獲得した。次点の駒澤大と10秒差をつけて、平塚中継所で待つ吉居駿恭(1年、仙台育英)に襷を渡した。

2区の吉居大和は田澤や近藤に競り勝ち区間賞(撮影・藤井みさ)

吉居駿恭は、後ろから駒澤大の鈴木芽吹(3年、佐久長聖)が迫ってくることに気付いていた。7km手前で前に出られたが、「ここは絶対につかないといけない」と追走。引き離されても立て直し、数kmは一緒についていった。藤原監督からは「追いつかれてからは15kmまで対応して、ラスト5kmで勝負」と言われていたという。「最低限(の走り)かなと。でも、きつい場面での応援が力になりました」と初の箱根路を振り返った。往路はトップの駒澤大と30秒差の2位。優勝には届かなかったものの、総合3位以内は十分に狙える位置で、翌日の復路に入った。

2区の吉居大和に続いて3区の中野も区間賞の走りを披露(撮影・藤井みさ)

復路で4年生が多くを占めた理由

中央大は6区で主将の若林陽大(4年、倉敷)、7区千守倫央(4年、松山商業)、8区中澤雄大(4年、学法石川)、10区助川拓海(4年、水城)と復路の5区間中、4区間を4年生が占めた。藤原監督がその意図を明かした。「基本的に近年の箱根は1~3位が単独走で、4位以下は団子になってシード権争いになることが多い。その通りにいけば単独走で追い上げることになるだろうから、まずはしっかり距離を踏んでいる子たち、暑さ対策ができている子たちということで、4年生と3年生の湯浅(仁、3年、宮崎日大)を配置したら、1人でも区間上位で来られるだろうと」。今の4年生たちは、1年生の頃の第96回箱根駅伝予選会で10位に滑り込み、ぎりぎりで本大会出場をつかんだ世代。過去につらい思いもたくさんしている上級生たちの経験にかけた。

復路のエントリー全体を眺めると、駒澤大はルーキーの佐藤圭汰(1年、洛南)や全日本でアンカーを務めた花尾恭輔(3年、鎮西学院)、青山学院大は中村唯翔(4年、流通経済大柏)が出走しないことが決まった。藤原監督は「力通りに発揮すれば(総合優勝も)ゼロではないからチャレンジしていこう」と伝え、選手たちを送り出した。

頂点をつかみ取るならば、4年連続で山下りの6区を任された若林のところで、前との差を詰めたかった。この区間をトップで走りきったのは、駅伝デビュー戦となった駒澤大の伊藤蒼唯(1年、出雲工)。若林も自身4度目の中では最もいい58分39秒をマークしたが、区間2位だった。藤原監督は「欲を言えば、若林には区間賞を取らせて終わらせてあげたかった。主将ですし、1年間苦労してきた人間なので。千守、中澤、助川もしんどかったと思う。苦しい中でも成長してくれたのが、今年のチームでした。そこは感謝しています」

主将の若林は4年連続で山下りを担った(撮影・吉田耕一郎)

優勝したいという「圧」を上げるために

総合記録での駒澤大とのタイム差は、1分42秒。この結果について藤原監督は、「『3位をめざす』と言ってスタートしたチームと、『三冠しよう』といってスタートしたチームの1年間の積み重ねの差」だと感じている。監督は毎年、新チームになるたびに前年を振り返って「何がよくて、何が悪かったのか」を整理する。今回最も明確になった課題については、「優勝を狙うマインドを作ってあげられなかった」ことを挙げた。続いて「吉居大和を5人作ろうと思ったが、5人では足りなかった」「新型コロナウイルスの感染状況を踏まえると走れる選手を20人用意しなければいけない」

監督に就任して箱根駅伝予選会を突破できなかった2016年から、選手に接する方法も変わってきた。当初は「ドラスティックにチームを変えて、嫌われ役にならないといけない」と主将に1年生を指名。スリッパをそろえること、あいさつをすること、目の前のごみを拾うことなど、練習だけでなく日常生活の細かいところまで口を出していた。

2022年10月の練習後、選手と話し合う藤原監督(撮影・加藤秀彬)

今はもう藤原監督からは言わなくなった。選手たちが「当たり前のレベルをどんどん上げていこう」と言わなくても実践するようになったからだ。すると選手に自主性だけでなく、「勝ちたい」「トップを取りたい」と競技に対する欲も芽生えてきた。「意識が低い選手がいたとしても、それが許されないことが分かって、強いチームのマインドに流されていくんです」

そこへ吉居大和や中野の世代が入り、「負けられない」「やばい1年生が入ってきた」と突き上げが起こった。吉居大和の競技に対する意識に引きずられ、周囲のレベルも上がってきた。

来年の100回大会に向けては、現在の3年生が入部してきたときから「優勝」を狙っている。今回の往路を走ったメンバーは全員が残り、順調に成長すれば充実の布陣となりそうだ。ポイントは「チーム内の『優勝したい』という圧を上げるために、吉居より下のレベルの選手たちに『めざせないんじゃないか』と思わせず、モチベーションを保ってもらうこと」と藤原監督。節目の大会で72回大会以来となる優勝を成し遂げるためのチーム作りは、もう始まっている。

in Additionあわせて読みたい