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特集:New Leaders2024

帝京大学・青木恵斗主将 日本代表への夢はいったん封印、主将として大学4連覇めざす

「最後までハードワークして体を当て続けよう」と臨んだ早稲田戦に大勝し、優勝を決めた(すべて撮影・斉藤健仁)

高校時代に桐蔭学園で「花園」こと全国高校ラグビー大会で連覇を達成し、大学入学後は大学選手権で勝ち続けて今季4連覇を狙う選手がいる。それが帝京大学主将のFL青木恵斗(4年、桐蔭学園)だ。「ラグビー人生でキャプテンは初めて」という青木だが、「プレーでチームを引っ張って全部のタイトルを取りに行きたい」と意気込んでいる。

早稲田戦でハットトリック 春季大会3連覇

6月16日、関東大学春季大会Aグループの最終戦で、3勝1分けの帝京大は4連勝の早稲田大学と激突。勝った方が優勝という一戦で、帝京大はFL青木のハットトリックを含む9トライを挙げて60-7で大勝。3年連続10回目の春のタイトルを手にした。

春季大会の早稲田大戦で青木はハットトリック。チームも9トライを挙げ、優勝した

帝京大は前週行われた試合の前半、明治大学のアタックに後手に回り24-24と引き分けていた。青木は、「(明治大戦から)ブレークダウン、コンタクトを修正しようと『気持ちと根性』をテーマに掲げて、最後までハードワークして体を当て続けようというマインドセットで(早稲田大戦に)臨んだ。グラウンドに立った選手は帝京のプライドを背負って一生懸命戦い続けることができて、優勝で春を締めることができた」と破顔した。

身長187cm、体重110kgと恵まれた体格の青木は、大学1年からレギュラーとして試合に出場していた。そして今季、同期と話し合った後、投票の末にキャプテンに就いた。「キャプテンなので、僕がブレてしまったらチームがブレると思うので、ブレずに良い影響を与えたい。まだまだ足りないと思うが、言葉でもメンバーに響くようなスピーチをしていきたい」

「人見知り」というが、今季は言葉でもチームを引っ張っていく

「人見知り」という青木は、昨季までは決まった選手と話すことが多かったが、今季は分け隔てなく、いろんな選手とコミュニケーションを取るようになったという。

相馬朋和監督は「青木は昨季、3年生の学年リーダーを務めていたし、キャプテンになるという気持ちで準備していたはず。スピードもサイズもありピカイチですごい選手です。我慢強く仲間たちと向き合っていけば、彼もチームも成長すると思います」と期待を寄せた。

早大戦を見守る相馬監督。青木を「ピカイチのすごい選手」と評する

代表落選を糧に、プレーの質向上

キャプテンに就いた青木だが、今春は帝京大の練習、試合だけでなく、忙しい毎日を過ごしていた。4月はU20日本代表選手たちと一緒に、オーバーエージ3人のうちの1人として、サモアで開催された「パシフィック・チャレンジ」に参戦し、優勝に寄与した。また日本代表のエディー・ジョーンズHC肝いりで始まった「JAPAN TALENT SQUAD」プログラムや、5月に菅平で10日間行われた日本代表につながるトレーニングキャンプにも参加した。

菅平でのトレーニングキャンプ。「フィジカルが通用したことは自信になった」と話す

しかし5月30日に発表されたラグビー日本代表には、高校の同級生である早稲田大キャプテンHO佐藤健次(4年)、帝京大の後輩PR森山飛翔(2年、京都成章)の名前はあったものの、青木の名前はなかった。

早稲田大学・佐藤健次新主将 気負わずワクワク楽しく、でも貪欲に日本一を追い求める

「(トレーニングキャンプで)フィジカルが通用したことは自信になったが、ゲームフィットネスやチョップタックルの精度など、細かいスキルが足らなかった。まだまだ仕上がっていない自分がいたので、日本代表に入れなかったのは実力不足かな。大学4年生は1回だけだし、同期と結果を残したいので、大学ラグビーにフォーカスしたい」

念願だった日本代表から落選してしまったが、マインドセットを帝京大にしっかりと切り替えて臨むことができたのが早稲田大戦だったという。タックル、接点の回数を増やすため、今季、青木は6番ではなく7番を背負っている。

「仕事人が多い日本のフランカーとはかぶらないのが僕の強みだと思うので、タックル、接点のスキルを身につけて、強みのボールキャリーもできるようになりたい。(佐藤)健次に後れを取っているので、日本代表に呼ばれるように頑張ります」

菅平でのキャンプで、帝京大出身で日本代表のSO李承信とマッチアップ

相馬監督も「(代表に落選し)青木は本当に練習の質が変わりました。今までだったら雑に済ませていたが、一つ一つ丁寧にプレーするようになった。今までは力で何とかしようとしていたが、タックルも低く、ブレークダウンも頭から行くなどスキルでプレーしようと変化した」と、大学1年から指導している青木の成長に目を細めた。

高校連覇、大学3連覇 個人5連覇中

青木は小学校1年のときに幼なじみのSH久富汐希(國學院大学4年、石見智翠館)に誘われ、神奈川・藤沢ラグビースクールでラグビーを始めた。小学校時代はCTB、中学校時代はPRとしてプレーした。高校は東海大相模、石見智翠館と悩んだ末に、桐蔭学園に進学した。

高校1年時はメンバー外で、花園準優勝をスタンドから見守ったが、2年と3年時はLOとして花園の連覇に大きく貢献した。そして、「設備が整っていて、ラグビーに専念できる環境があった」と帝京大への進学を決めた。

高校2年生から日本一になり続けていることに関して青木は「運が良かったのかな。連覇に対してプレッシャーはないですが、キャプテンとしてチームを勝たせないといけないというプレッシャーはあります」と正直に吐露した。

「キャプテンとしてチームを勝たせないとというプレッシャーはあります」と青木

また早稲田大のキャプテン佐藤(HO)、慶應義塾大学のキャプテン中山大暉(4年、HO)、立教大学のキャプテン伊藤光希(4年、SH)、明治大の副キャプテン秋濱悠太(4年、CTB)と、今季は桐蔭学園の同級生の多くが関東対抗戦に所属するチームの主将または副将を務めている。

「桐蔭学園、すごいなと思います! 高校時代に一番仲が良かった健次に負けたくないし、対戦相手にいたりコイントスをしたりと同期と試合するのは楽しみですが、負けるつもりはない」とキッパリと言った。

慶應義塾大・中山大暉主将 創部125年「慶應らしさ」の原点に戻り、攻守とも攻める

4年生になり、オフは買い物やカラオケなどに出かけることは少なくなり、大学の同期とカフェでゆっくりすることが多くなったという。もちろん、来春からはリーグワンのディビジョン1の強豪でプレーする予定だ。

今季は帝京の主将に集中「僕が引っ張る」

東日本大学セブンズ、関東春季大会とすでに今季2冠を達成した帝京大。今季の目標は対抗戦全勝優勝、そして大学選手権優勝を掲げている。「まだまだ甘いところがあるので、対抗戦、大学選手権に向けてチームをしっかり仕上げていきたい。今季、みんなの力が一つになったときは、昨季と同じくらい強い。夏から秋に、みんなの考えをクリアにして、同じ画、景色が見られるようにしていきたい」(青木)

悪天候の中での戦いとなった昨季の大学選手権決勝で明治大を破った

今季、ファンに帝京大、青木個人のどんなところを見てほしいかと聞くと、「一歩ずつ成長するので見守ってほしいし、ファンのみなさんと大学選手権の優勝の瞬間を分かち合いたい。そして個人としてはチームの絶対的存在になるしかないし、ならないと優勝できない。僕がプレーで引っ張る姿を見てほしいですね」と語気を強めた。

桜のジャージーへの思いは一度、心の奥底にしまって、帝京大に集中することに決めた。今季は6番ではなく7番の深紅のジャージーを背負ったスキッパーが先頭に立って4連覇に挑む。

昨季の大学選手権決勝で明治を破り3連覇。今年は主将として4連覇をめざす

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