帝京大学・奥井章仁 高校からの盟友・江良颯とつかんだ日本一「もっと泣くと思った」
1月13日、東京・国立競技場で第60回全国大学ラグビー選手権大会の決勝が行われた。開始早々から雹(ひょう)や雷に見舞われて55分間中断し、再開されても吹雪の中での試合だった。困難な環境、さらに3連覇のプレッシャーをはねのけて「紅き旋風」こと帝京大学ラグビー部が、創部100周年の明治大学に34-15で勝ち3連覇。通算12度目の優勝を達成した。2度目の3連覇は史上初だ。
後半に接点やスクラムで優位に立って快勝
前半は明治大に2トライを奪われて14-12と2点差で折り返したが、後半は武器である接点やスクラムで優位に立ち、試合をコントロール。PGとトライで得点を重ね、相手を1PGに抑えて快勝した。
優勝を決めた直後、目を赤くしていた就任2年目の相馬朋和監督は「とにかくうれしかった。昨季は空回りしていた部分もあり、優勝してもホッとしただけでしたが、今季は(選手たちと)一緒にやれた自負があります。少しは彼らのためになったのかな。江良(颯)も奥井(章仁、ともに4年、大阪桐蔭)もすごかった。2人とも頑張りましたし、みんな成長しました」と目を細めた。
キャプテンのHO江良は「帝京の真紅のジャージーを着ている選手が常に仲間のために体を張り続けよう、走り続けようと。それが80分、出続けた試合でした。1年間『ONE HEART(ワンハート)』というスローガンを掲げてやってきました。最後に全員が観客席から降りて喜んでいる姿を見て、『1年間積み上げてきたものは間違いない』という実感が湧いて、自分の中で涙が出てきた」とほおを緩めた。
ノーサイドの直後、江良は目を赤くしながら高校時代からの盟友・FL奥井と強く抱き合った。「章仁から『よう頑張った!』と言われました。高校から親友だけどライバルであり、お互いに『あいつには負けたくない』と思って、2人でチームを引っ張ってきて一緒に勝ててうれしかった!」
勝ち続ける難しさ、チャレンジャー精神で払拭
2人は大阪桐蔭の中心選手として2年生のとき、「花園」こと全国高校ラグビー大会で初優勝。ともに高校日本代表にも選出された。高校3年時の花園は準々決勝で敗退。当時は奥井が主将、江良が副将という関係だった。
岩出雅之前監督の誘いもあり、2人そろって帝京大に進学し、ともに1年時から主力となって試合に出続けてきた。最終学年となった今季、高校時代とは逆に江良がキャプテン、奥井が副キャプテンとなった。
奥井には大学でもキャプテンになりたいという意向があった。シーズンの最初こそもどかしい思いはあったようだが、すぐに切り替えたという。「キャプテンが江良に決まった以上、サポートして『リーダーとして一緒に頑張るのは変わらない』という思いで1年間やってきた。自分の代で優勝できて、今までで一番うれしい優勝です!」と声を弾ませた。
奥井と江良は遊びにいくのも常に一緒で、お酒もよく一緒に飲んでいた。そのため奥井は、江良から相談を受けることもあったという。「勝っている集団を勝ち続けさせる難しさに対して、(江良は)自分で考えながら頑張ってやっていました。チームの方向性はリーダー陣で話し合って決めてきました」
大学2、3年時にも優勝を経験しているため、奥井自身も勝ち続ける難しさを感じてきた。「常にチャレンジャーでいるようにしました。マインド一つで変わってくるし、勝つために何ができるかを考えてプレーしていました」と話す。今季は関東大学対抗戦の立教大学戦こそ出場しなかったが、その他の全試合で7番を背負って80分間のフル出場を果たした。明治大との決勝ではトライこそ挙げられなかったものの、スクラムやボールキャリーで存在感を示し続けた。
リーグワンでは江良と別のチームに「タックルで止める」
奥井は大阪桐蔭時代から負けては大泣きし、勝っても大粒の涙を流していた。決勝もノーサイド後は目を赤くし「もっと泣くと思っていました(苦笑)。4年生で試合に出られなかったのに、裏方としてチームが勝つために動いてくれていた人もいた。2、3年ではあまり感じていなかったが、4年生では周りを見られるようになったからこそ、4年生と一緒に勝てたことがうれしかった」としみじみ語った。
高校時代から「帝京大で優勝したい!」と話していた奥井。2年生で有言実行の優勝を経験し、3、4年は無敗で大学王者に輝いた。大学入学当初はHOへの転向も視野に入れていたが、今のところはバックローでのプレーを続ける。
奥井の次なる目標はもちろん日本代表、桜のジャージーに袖を通すことだ。「帝京大では7番として信頼される存在としてゲームに出続けられたので、社会人になっても試合に出続けることが一つ大切。その後は日本代表になりたい! 帝京大でいろんなことに挑戦する大切さを学べたので、社会人でもしっかり挑戦して自分をもっと高いところに持っていきたい」と目を輝かせた。
リーグワンでは、7年間一緒にプレーした江良と別のチームに所属する予定だ。奥井は「しっかり試合に出てタックルに行って(江良を)止めたいと思います!」。トレードマークの大きな笑顔を見せて、国立競技場を後にした。