ラグビー

全国2連覇の帝京大・松山千大主将 仲間のため全ての瞬間に全力を尽くす勇気の塊

大学選手権の決勝で突破を図る松山(すべて撮影・斉藤健仁)

V9の時のような強さが戻ってきた。関東大学ラグビー対抗戦を全勝で制し、大学選手権決勝でも早稲田大に73-20で圧勝し連覇を達成した、「紅い旋風」こと帝京大ラグビー部。その中心に立ち、1年間、体を張り続けたのが、相馬朋和監督が「全ての瞬間、全力でプレーができる、勇気の塊のような素晴らしいキャプテン」と信頼を置いていたCTB(センター)松山千大(ちひろ、4年、大阪桐蔭)だ。

メンバー外の部員にも感謝の涙

キャプテンとなって「アタックでもディフェンスでもチームを引っ張れる12番になりたい」と話していた松山だが、決勝でも「1回タックルすればリラックスできます」と攻守に前に出続けて、後半19分までプレーし勝利に貢献した。

連覇を達成した瞬間、「試合に出たメンバーだけでなくメンバー外も全員が戦ったので、このような結果が生まれた。今まで自分たちのことを支えてくれたたくさんの方々に感謝したい」と涙を流した。

大学選手権の決勝で、早稲田大の選手の中、前進を図る松山

昨季はFWの強みが全面に出たチームだったが、「今季はスクラム以外でも強みを作り、FWでもBKでも点が取れるチーム」を目指し、春から組織的なアタックにも取り組んできた。それを証明するかのように、11トライ、73得点は、59回目を迎えた大学選手権決勝の最多記録だった。

松山は、1~2年時はけがの影響もあり1試合ずつしか公式戦に出場することができず、3年時も主に控えからの出場で、大学選手権決勝も最後の1分の出場にとどまった。だが今季の決勝は12番をつけて先発出場した。

「攻守でチームを引っ張れる12番になりたい」と話していた松山

「昨季は自分の力で優勝に貢献できたかと言われるとそうではなく、うれしさの半面、悔しさもありました。そこから1年間、その部分をエネルギーに変えて、自分が何ができるかを考え、チームを引っ張る立場としてハードワークしてきて、その結果優勝できたことが、とてもうれしい!」と破顔した。

高校でも主将で花園V

大阪市出身の松山は3人兄弟の三男。小学校まで野球をやっていたが、長男元太(WTB、大阪体育大出身)、次男将輝(SH、近畿大→中部電力)の影響で、大池中からラグビーを始めた。高校は兄2人と同じく大阪桐蔭に進学し、キャプテンを務めた3年時は、帝京大でもチームメートとなるSO高本幹也(4年)、HO江良颯、FL奥井章仁(ともに3年)と、「花園」こと全国高校ラグビー大会で同校の初優勝に大きく貢献した。

大阪桐蔭高でもキャプテンを務め、花園で胴上げされた松山

関西の大学に進学した兄2人とは違って、「大学でも日本一になりたい」と帝京大に進学した。花園優勝キャプテンだった松山は、SO高本、現在は日本代表として定着しつつあるSO/CTB李承信(現神戸スティーラーズ)らとともに、大学1年時から学年リーダーを務めるなど存在感を示していた。

ベンチプレスで高校時代より50kg増の160kgが上がるようになるなどフィジカルを強化。「今でも課題です」というハンドリングスキルの向上にも努めた。2年時までは13番としてプレーしたが、3年時からは12番として主にプレーするようになった。

部員の一体感のためチャーハン作りも

今季、「意志はあった」という松山は、同期投票と話し合いの末、キャプテンに就任した。だが、指揮官も岩出雅之前監督から相馬新監督へと交代した昨年5月の春の公式戦、実戦の初戦でいきなりつまずく。前年度の大学選手権決勝では勝利した明治大に、26-35で敗れたのだ。

「(昨年度の)大学選手権で優勝して、その流れでいって釘を刺された。この負けがあったからハングリー精神をもって臨めたし、成長させてくれた」

大学選手権の決勝で、チームを率いて入場する松山

高校時代に続いて帝京大でもキャプテンとなった松山だが、部員数は倍以上の150人。「いつも頭を抱えていました。それぞれの選手の背景が違うため、どうつながっていくか、どうまとめていくか難しかった」と吐露する。同期部員に客観的な意見をもらったり、岩出前監督にも相談に乗ってもらったりした。前監督には「もっと部員と関わることが大事。常に考えて行動しろ」などとアドバイスを受けた。

松山は、ミーティングや練習だけでなく、普段の生活でもコミュニケーションを取り、意見を聞くよう努めた。また、小さい頃からの趣味である料理で、得意のチャーハンを作って振る舞い、部員との距離を縮めていった。「普段の生活から関わることで、関わっていないときとは、自分の伝える言葉が全然違う。関わることで自分の言葉がその人に刺さる」と実感した。

オフグラウンドで一体感が醸成されたことで、グラウンドでも徐々に組織的にプレーすることへとつながっていった。「同じ画を見て、自分たちが個々に何をするかがわかっていれば、つながることができる」というわけだ。

高校からのチームメートの支え

高校時代に続いて大学でもともに頂点に立った

ラグビー面では、高校時代からのチームメートで、大学3年時からゲームキャプテンを務めていたSO高本の存在が大きかった。「高校時代から頼もしかったんですが、より一層たくましくなった。ラグビー面で、アタックの戦術、シェイプ(立ち位置)のところで、『ああした方がいい』『こうした方がいい』と幹也がやってくれて、下級生へのアプローチも含めて、よりチームが強くなるための行動をしてくれました」

また、「今までずっとやってきた岩出監督から相馬監督になって、変化はありました」と話す。ラグビーの指導面では大きな影響はなかったが、「相馬監督から聞かれることが多く、つながってきてくれて、やりやすかったです。相馬監督がわからないことがたくさんあったと思うので、聞かれたら『これまではこうしていました』と言うのがリーダー陣の役目でした」。

2連覇を果たし、抱き合う相馬監督と松山主将

昨季の苦戦を糧に、盤石の連覇

昨季の大学選手権準決勝、37-30と苦戦した京都産業大戦について、松山は「心に隙があった」と振り返る。だが、今季の関東大学対抗戦はもちろん、「一戦一戦の重みが違う」と話した大学選手権で、帝京大は、昨季の経験を糧にほとんど隙を見せることはなかった。

「試合終了の笛が鳴るまで、フィジカルと接点で強みを出すことにフォーカスして、自分たちのラグビーをしっかりやろうと仲間に声をかけていた。点差はあまり気にしていませんでした。結果に走ってしまうと一つ一つのプレーがおろそかになるので、プロセスの部分をしっかり大事にして戦った」と胸を張った。

新チームで松山がハードワークを託した3年のHO江良

3連覇を目指す後輩たちへのエールをお願いすると、松山は「1年間、僕が一番重要だと感じたのは、準備の段階から、試合中も含めて、相手よりどれだけハードワークできるかでした。その部分は3年生のHO江良やFL奥井がしっかりわかっていると思うので、大丈夫だと思います!」と語気を強めた。

松山が新チームのハードワークを引っ張ってくれると期待するFL奥井

リーグワン 旧友との対戦を心待ちに

松山は今春からリーグワンのディビジョン1のチームでプレーする予定だ。「ハンドリングスキルは大学で少しは成長したかな。コンタクトするだけじゃ務まらないので、自分のプレーの幅を広げていきたい」。好きな選手は帝京大OBの日本代表CTB中村亮土選手(東京サンゴリアス)だ。また、大学2年までのチームメートであるSO李との対戦も心待ちにしており、「リーグワンで対戦できたらしっかりやりたい」と先を見据えた。

圧倒的な強さで2季連続頂点に立った帝京大。その中心には「仲間のためチームのために全力でプレーする」ことを実行し続けたスキッパーがいた。

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