ラグビー

江良颯「もう一度、強い帝京大に」 セットプレーの中心から見据える王座奪還

帝京大学のHO江良颯。2年生になり突破力などに磨きがかかる(撮影・斉藤健仁)

「赤き旋風」の勢いが増している。関東大学ラグビー対抗戦で帝京大学は11月20日、東京・秩父宮ラグビー場で明治大学との大一番を迎える。3日には夏の練習試合では24-40で敗れていた早稲田大学をスクラムで圧倒して、29-22で開幕から5連勝。対抗戦3連覇を狙う明大と優勝の行方を占う全勝対決となった。

奥井章仁とルーキーから存在感

今季の帝京大の大きな武器となっているのがスクラム、ラインアウトのセットプレーだ。その要となっているのが身長170cm、体重106kgの2年生HO(フッカー)江良颯(大阪桐蔭)である。ルーキーの昨シーズンから高校の同級生であるNo.8奥井章仁とともにFW を引っ張っている。

昨年は対抗戦初戦でデビュー。2試合目の筑波大戦では早くもマン・オブ・ザ・マッチに(撮影・斉藤健仁)
早稲田・伊藤大祐や帝京・奥井章仁ら大物続々 期待のルーキー関東対抗戦

3シーズンぶりに早大に勝利した試合を振り返って江良は「FW勝負だと思っていたので、FWで勝ち続けられたのが大きかった」と胸を張った。特にスクラムで優位に立ったことが試合の趨勢(すうせい)を決めた。最初のヒットだけでなく、第2波で相手の8人を押し込んで反則を誘った。また相手ゴール前ではプレッシャーをかけて、SH(スクラムハーフ)李錦寿(1年、大阪朝鮮)がトライにつなげた。

江良は「スクラムは本当に自信があって、練習を重ねるごとによくなっている。フロントロー(FWの前3人)だけで勝つのではなく、後ろの5人を合わせて8人で押せるようにフッカーとしてまとめている」と語気を強める。FWコーチや元ヤマハ発動機の田村義和氏が指導するスクラムを「1年間を通してやってきた成果が出ている」と破顔した。

早大を圧倒したスクラムで明大に挑む

帝京大は春から夏にかけて明大を下すなど連勝街道を突き進んでいた。しかし、夏合宿で早大に敗れたことがチームを変えるきっかけになったという。「夏までは自分たちは結構強いという感覚がありましたが、自分たちはまだまだ甘かった。未熟さをもう1回、改善しよう、マインドを変えられた敗戦でした」と振り返る。

開幕から5戦全勝同士の明大と対戦でも当然、スクラムが勝敗の鍵を握ることになろう。明大も伝統的にスクラムこだわっており、32-28で4年ぶりに勝利した6月の招待試合ではほぼ互角の内容だった。「受け身にならず自分たちのスクラムで勝負しにいきたい。3番の細木康太郎キャプテン(4年、桐蔭学園)が強いのでメインになる。僕はフッカーなのでコミュニケーションを取って、1番の照内寿明(4年、國學院栃木)さんとともに細木さんを助けていきたい」(江良)

細木、江良、照内(左から)の帝京大フロントローは強力だ(撮影・斉藤健仁)

フッカーとして江良は、相手のラインアウトからのアタックも警戒し「分析していい準備ができたら」。また個人としては「苦しいときに、自分の強みであるコンタクトでアタックに勢いをつけたい。大学生になって相手の嫌なところにアタックできるように成長できているし、マークをはねのけるくらいの強さを見せられれば」と静かに腕を撫(ぶ)した。

大阪桐蔭高で日本一

江良は父の一也さんが大阪桐蔭高ラグビー部のPR(プロップ)だったこともあり、兄(SO楓/立命館大4年)が4歳のときに東大阪ラグビースクールに通い始めたときに一緒にはじめた。まだ、2歳だったという。後に大阪桐蔭で一緒にプレーするFB(フルバック)芦塚仁(同志社大2年)とはスクール時代からの幼なじみで、実家は東大阪市花園ラグビー場から自転車で5分ほどの距離にある。

小学生時代はヒーローズカップで全国5位に、枚岡中学では常に大阪府の上位に入る成績を収めていた。「はやて(颯)という名前に反して小学2年生から太り始めた」という江良は、スキルが高かったため、当時はFWではなく、バックスのSO(スタンドオフ)を任されていたという。江良が「いまでもライバルであり親友で、負けられない」と意識している奥井との出会いは中学3年で大阪の選抜チームだった。

奥井(右)とは大阪桐蔭高時代からFWを引っ張ってきた(撮影・斉藤健仁)

中学卒業時にすでに体重が100kgあった江良は「バックスのスタミナではなかった」こと、さらに2015年ワールドカップで南アフリカ代表を破るなど活躍していた日本代表HO堀江翔太(埼玉ワイルドナイツ)の姿に憧れて、高校からFW第1列へ転向。「中学時代から体も大きかったし堀江選手のように器用なフロントローの選手になりたいと思いました!」

芦塚、奥井らともに「白いジャージーを着たかった」という江良は、父、兄の後を追うように大阪桐蔭高に進学。1年生から左PRとしてレギュラーとなり、2年生の時は花園(全国高校大会)初優勝に大きく貢献、奥井とともに早くも高校日本代表に選出されるなど中軸として全国にその名を轟(とどろ)かせた。3年からチーム事情もありHOに定着してプレーを続けている。

大阪桐蔭で初優勝した第98回全国高校大会決勝ではトライも挙げた(撮影・内田光)

帝京大の名HOの系譜へ続く

江良は「試合に出場できるようになれば選手としても人間としても成長できる。早稲田大学、明治大学、慶應義塾大学といった伝統校を倒したい!」と帝京大に進学。奥井と同じ大学になったのは偶然だったという。

堀江もそうであり、今秋の日本代表に選ばれているHOの坂手淳史(埼玉パナソニック)、堀越康介(東京サンゴリアス)も帝京大出身で、江良は「絶対に上のレベルでプレーして、小さい頃からの夢である日本代表になりたい」と先輩たちに続き追い越すことを目標に掲げている。そのためにも「帝京大の2番を着させてもらっている以上は、他の大学のHOには誰にも絶対負けたくない。大学一番のHOになりたい」と語気を強める。

もちろん帝京大が目指すのは17年度以来の大学王者である。江良も「みんな、強い帝京大学を見て入学していますし、もう一度、強い帝京大学に戻したいという思いはある」と話す。ただ全国大学選手権で9連覇していた当時の話題は、岩出雅之監督らコーチ陣から特段、出ることもなく「優勝という言葉はミーティングで必ず出てくるし、自分たちのチーム、自分たちのプレーで優勝しろと言われています」(江良)

ラインアウトでも江良は欠かせない(撮影・斉藤健仁)

この1年でベンチプレスは40kg増の170kgを上げられるようになった江良は、岩出監督に「1年生から試合に出ていて余裕があると思うので、そこを出してほしい」と言われている。またHOとして昨シーズン以上に声でもチームを引っ張っている。「昨季から試合に出してもらって経験があるので、一番前で話し続けないといけない責任がある。そういった部分は社会人になっても生かせる部分だと思ってやっています」とリーダーとしての自覚も芽生えている。

江良のリラックス方法は洋楽を聴くことで、普段はジェレミー・ザッカーの音楽を聴いて気持ちを落ち着かせている。また試合前はファボラスの「My Time」を聞いて気持ちを高めている。

帝京大は関東対抗戦で明大、さらに、昨季敗れた慶應義塾大学との対戦があり、すでに出場を決めている大学選手権へと続いていく。王座奪還の鍵を聞くと江良は「早稲田大学を越えて、自分たちの力はわかったと思うので、絶対慢心せずに、自分たちはチャレンジャーという気持ちを持ってやり続けたい」と自らに言い聞かせるように言った。

深紅のジャージーの背番号「2」の輝きが増せば増すほど、帝京大は王座奪還へと近づくはずだ。

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