帝京大・江良颯 「ライバルで親友」との投票と話し合いで決まった主将、めざす3連覇
かつてのV9を達成した時を彷彿(ほうふつ)とさせる強さを見せつけて、今年1月に大学選手権で2連覇を達成した「紅い旋風」こと帝京大学ラグビー部。3連覇がかかる今季のリーダー陣が決まり、キャプテンには1年から中軸として活躍してきた新4年生のHO江良颯(大阪桐蔭)が選出された。
奥井が副将、大阪桐蔭時代とは立場が反対に
3月18日、帝京大八王子キャンパスで、帝京スポーツサポーターの会が「ラグビー部講演会~強さの秘訣~」を開催した。部の関係者やファンが集まり、講演会の中でリーダー陣が発表された。
帝京大には江良だけでなくもう一人、キャプテン候補がいた。江良と同じ大阪桐蔭出身で、高校2年のときに「花園」こと全国高校ラグビー大会初制覇に貢献し、ともに高校日本代表にも選出されたFL/NO8奥井章仁だ。江良が「ライバルであり親友」と話す存在で、江良同様に大学1年時から活躍。2023年度のキャプテンは2人のどちらかと予想されていた。
1月8日に大学選手権決勝が終わった後、新4年生による投票と話し合いの末、キャプテン候補に奥井と江良の2人の名前が挙がった。江良によると「僕たちの考えやみんなに対する思いなどを話した」。その後、再び話し合いと投票が行われ、セットプレーのリーダー的な役割を果たしてきた江良が選ばれた。
大阪桐蔭では奥井が主将を務め、江良は副将だった。ただ大学では立場が反対となった。もう一人の副将にはFB山口泰輝(長崎北陽台)、さらにBKリーダーにはWTB高本とむ(東福岡)が選出された。
「グラウンドに立ち続けろ。絶対仲間を裏切るな」
大学1年から2番を背負い、学年リーダーの一人を務めていた江良は、選ばれる前からキャプテンになる覚悟をしていた。「大学1年から試合に出て、成長させていただいて、リーダー陣としてチームを引っ張っていかないといけない。やりたいというより、やらなければいけないと思っていた」と振り返る。
副将となった奥井は「どっちがなってもいいと思っていました。(江良は)影響力が強い存在なので、キャプテンとしてしっかりと示し続けてほしい」と言えば、山口は「(江良と奥井の)2人は1年生から試合に出ていて、リーダーシップには絶対的な信頼がある。3人で先頭に立って頑張っていきたい」と話した。
少し完璧主義の一面があるという江良はキャプテンに決まった後、相馬朋和監督に「チームがいい状態だったとしても、僕が結構、細かいところまで直そうとして、細かいことまで言い続ける」と言われた。そこで「まずチームを俯瞰(ふかん)して、今の状況を見て、言うべきか考えたほうがいい」とアドバイスを受けた。
また岩出雅之・前監督から言われた「グラウンドに立ち続けろ。絶対、仲間を裏切るな、裏切らせるな。もし(仲間が)裏切ったとしても常に仲間に向き合ってチームを作っていけ、それが仲間であり家族だ」という言葉が心に響いた。
日本一になる難しさを伝える立場に
江良は父が大阪桐蔭のPRだったこともあり、兄の楓(立命館大学出身)とともに、2歳から東大阪ラグビースクールに通い始めた。小学校時代はスキルの高いSOだったが、中学卒業時には体重が100kgだった。日本代表で帝京大OBのHO堀江翔太(埼玉ワイルドナイツ)に憧れ、高校からFWの第1列に転向。1年目から左PRのレギュラーとなり、2年時は奥井とともに花園初優勝に大きく貢献。3年からHOに定着した。
大学は「早稲田大、明治大といった伝統校を倒したい」という理由から帝京大に進んだ。これまでの3年間で一番印象に残っている試合は2年の6月、32-28で4年ぶりに勝った明治大学との招待試合を挙げる。「大学1年時、明治、慶應義塾大、早稲田大に負けていて、全員でいい準備して、向かっていって勝って(そのシーズンは)優勝にもっていけました」と振り返る。
キャプテンになった江良は、一つ上のキャプテンを務めたCTB松山千大(現・トヨタヴェルブリッツ)や司令塔だったSO高本幹也(現・東京サンゴリアス)と同じく、「下の学年からの意見が言いやすい環境作り」を意識している。「全員が深い関係になれるように、今まであまりしゃべったことがない選手とコミュニケーションしたりして、いろんな人と向き合っていきたい」
上級生は優勝できなかった悔しさを知っているが、新2年生や1年生はそれを経験していない。江良は「大学選手権で連覇することはできましたが、日本一になる難しさを伝えていかないといけない。(他の選手に)常に日本一の行動をしてもらえるようにアプローチしてやっていかないといけない」とも話した。
チャレンジャーであることには変わらない
ラグビーについては昨季同様、「帝京大の強みはどのチームに対しても80分間、ハードワークし続けること。仲間のために体を張り続けることがキーとなる。そこをぶらさずにやっていきたい」と意気込む。昨季の大学選手権決勝はFWで先発した選手のうち6人が3年生以下で、今季も江良や奥井らFW陣のセットプレーが中心となるのは明白だ。「FWにこだわりたい。FWが前に出て、BKにいい球を出してトライを取りきる。またFWでもトライを取り切りたい!」と強みを存分に生かす考えだ。
他の大学は当然「打倒・帝京大」を掲げ、3連覇をめざすにはプレッシャーも想像される。ただ優勝を果たせなかった時期を知っている江良は「僕らはチャレンジャーであることには変わりなく、受けて立つのではなく、僕らが挑んでいく気持ちでないとハードワークできない。3連覇するためにチャレンジャーになってひたむきにやっていくしかない」と自身に言い聞かせるように言った。
江良は大学シーズンを終えたらリーグワンのチームに所属する予定で、その先には日本代表の桜のジャージーも視野に入れる。「大学生の中で敵がいない圧倒的な2番になる。そして、次のステージを見据えて、考えやスキルをいろいろ身につけていきたい」
改めて今季の目標を聞くと、「僕たちのゴールは大学日本一だけでなく、周りから認められる『チャンピオンチーム』になることです。選手、スタッフ全員がこのチームを愛して、このチームのために動けるようにやっていきたい」とまっすぐ前を向いた。江良が深紅のジャージーの「2番」を背負い、先頭に立って体を張り続けた先にこそ、3連覇が待っている。