ラグビー

帝京大学SO井上陽公 自分を信じ続ければ4年生からだって遅くない「信は力なり」

帝京大SOの井上(中)。同じ4年生の高本とむ(右)によくアドバイスをもらっているという(すべて撮影・斉藤健仁)

関東大学ラグビー対抗戦、そして大学選手権を連覇している帝京大学ラグビー部。昨季まで、その中心にはSO(スタンドオフ)高本幹也(東京サントリーサンゴリアス)がいた。その高本に代わり、3連覇を目指す「紅(あか)き旋風」の司令塔を今季から任されているのが、SO井上陽公(ひたか/京都工学院、4年)だ。

3年間公式戦出場ゼロでも、今秋はずっと10番

井上は身長175cm、体重80kg。3年時まで1試合も公式戦に出場したことはなかったが、昨季の関東ジュニア選手権では優勝に寄与し、4年になった今季、春季大会初戦の東洋大学戦で途中出場を果たすと、その後の3試合では10番を背負った。

Aチームでのデビュー戦となった春の東洋大戦

「高本さんは周りを見る力、状況判断がすごい。できるところはまねして、できないことは自分自身、違った良さを作れるように努力している。自分としても試合を重ねるたびに少しずつ自信が出てきた」(井上)

帝京大学のSO高本幹也、負けない安定感あるゲームメイクで4大会ぶりの王座へ

帝京大を率いる相馬朋和監督は、春の時点で「井上はすごく安定したゲーム運びが特徴です。(10番でもプレーできる15番の)FB(フルバック)小村(真也/3年)はワクワクするプレーをする。そんな2人がグラウンドにいることがチームにとってプラスになる。井上が成長すれば、このまま10番を着ていくでしょう」と期待を寄せていた。

今季の対抗戦は開幕戦からSOで連続出場し、早大戦で5連勝

監督の期待に応えるかのように、井上は夏合宿を経て秋の対抗戦では開幕戦から10番を背負い続けて、5連勝に貢献した。ただ、11月5日の早稲田大学戦では、試合には36-21で勝利したものの、前半に2度のタッチキックミスをしてしまい、その一つは失トライにつながってしまった。

「(前半)自分のキックでチームに迷惑かけてしまったが、ハーフタイム、チームは悲観的に考えていなくて、『ミスは全員でカバーする』と温かい言葉をかけてくれて、自分がプレーしやすい環境を作ってくれた。最終的に勝ち切れてよかった」(井上)

3年まで公式戦出場がゼロだった井上は、東京・秩父宮ラグビー場でプレーするのも初めてだった。「(対抗戦になって)初めてヒリヒリした試合だったし、初の秩父宮でミスにつながったが、いい経験ができた。明治戦に向けてチームが成長できるいいきっかけになった。(秩父宮ラグビー場が)初だったということは言い訳にはならない。10番を着させてもらっている以上、重圧の中でプレーしないといけないので、自分を見つめ直して明日から練習していきたい」と前を向いた。

中1からSO、高校では花園に届かず

井上は、親はラグビーをやっていなかったものの、京都・勧修小学校でタグラグビーを始めて、勧修中学校からそのままラグビーに取り組んだ。中学校1年からずっと10番だったという。京都市内でベスト4だったこともあり、京都成章からも声がかかったが、引っ越して家から近かったという京都工学院(旧・伏見工業)に進学した。二つ上の代は、最後の伏見工業だった。

中1からずっとSOの井上。だが高校時代は花園に届かなかった

京都成章の壁は厚く、7人制ラグビーでは全国大会に出場することができたが、15人制では1度も全国の舞台を踏むことはなかった。国体は京都府代表に選ばれていたが、ケガのため本戦には出場できなかったという。

ただ、夏に長野県の菅平高原で開催されているKOBELCO CUPではU17近畿代表として、現在は帝京大でチームメートのキャプテンでフッカー(HO)江良颯、フランカー(FL)奥井章仁(ともに大阪桐蔭)、プロップ(PR)津村大志(御所実業)、ロック(LO)尹礼温(大阪朝鮮)、NO8延原秀飛(京都成章)らとともに選ばれ、優勝を経験している。

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大学ではフィジカルと先輩の高い壁

大学進学時、「伏見工業から日本代表SO松田選手(力也/埼玉ワイルドナイツ)とかFB奥村選手(翔/静岡ブルーレヴズ)とか素晴らしい選手が進学していて、憧れていた」と帝京大へ進学した。

大学1~2年時は、フィジカルレベルも周りに達しておらず、「周りにもすごい選手や(高本)幹也さんという存在がいたため埋もれていた」という。しかし、3年生になると同期の多くが公式戦に出場するようになり、「自分も頑張らないといけない。ひとあがきして、ジュニア戦に出ることができました」と胸を張った。

好きな言葉は、京都工学院の前身・伏見工業時代からラグビー部に受け継がれてきた「信は力なり」

京都工学院出身らしく、好きな言葉は「信は力なり」という井上。4年生となって「スタートは出遅れた感じはありますが、何を始めるのにも今からでも遅くない。自分を信じ続けて1日1日を大切にやっています。そして(後輩のお手本になるように)諦めずに、4年生になってもやれるんだぞという姿を見せたい」と、よりラグビーに打ち込んだ。

憧れは高校・大学の先輩、松田力也

井上が10番を背負うことができるようになった要因は、コミュニケーションだという。「僕は4年で、経験豊富なFWに対して、下級生では言えないことも言えるので、よりチームが改善できるようにしている。FWは(江良、奥井といった)ビッグネームもいるが、彼らの気持ちを聞いて、10番として意志を持ってゲームコントロールしないといけない」

趣味は、コロナ禍の中ではまったという海釣りだ。キックにたけており、冷静なゲームメイクが光る井上は、来年からはリーグワンのチームでプレーする予定。憧れの選手はやはり、高校、大学の先輩である日本代表SO松田だ。「ワールドカップという大舞台で、コンバージョンキックを1本以外全部、決めている。今回、秩父宮ラグビー場で蹴ってみて、改めて松田選手はすごいなと思いました」

キッカーも任されており、プレースキックは安定している

目標は日本一「圧倒して勝ち続けたい」

11月19日は、ともに全勝同士で迎える明治大学戦、12月からは井上にとって初となる大学選手権も始まる。

目標を聞くと、「今季のFWは圧倒的なフィジカルがあるし、BKもいいランナーがそろっているので、うまいことFW、BKのコネクションをして、速いテンポで相手を崩せるようにしたい。チームとしてはもちろん日本一が目標です。圧倒して勝ち続けたいし、チームを勝たせられる10番になりたい」と熱く語った。

帝京大学のジャージーは京都工学院と同じ赤色。「やっぱり赤は燃えますね!」という井上は、常勝軍団の司令塔として、そして個人としては初の日本一へとチャレンジする。

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