ラグビー

特集:第58回全国大学ラグビー選手権

帝京大学のSO高本幹也、負けない安定感あるゲームメイクで4大会ぶりの王座へ

帝京大学のSO高本幹也。技術だけでなく、司令塔として判断力が急成長している(撮影・全て斉藤健仁)

ラグビーの大学王者を決める全国大学選手権は、いよいよシード4校が登場し、12月26日に準々決勝が行われる。2009年度から9連覇を達成したが、ここ数年、やや低迷していた帝京大学は今季、「紅き旋風」の異名の通り連勝街道を貫き、関東対抗戦で3年ぶり10度目の優勝を飾った。その中心でタクトを振り、対抗戦の得点王にも輝いたのがゲームリーダーを務めるSO(スタンドオフ)高本幹也(3年、大阪桐蔭)だ。

早慶明に初めて勝つ


「自ら仕掛けることも好き」という身長172cmの司令塔は「大学に入って初めて(秋の公式戦で)早慶明に勝つことができてうれしかった! 個人的には(初戦の)筑波大学との接戦のゲームに(17-7で)勝利して、(ゴールキックの)2点の重みやゲームメイクの大切さに気づくことができた。対抗戦が終わるころには成長できたかな」と謙遜気味に振り返った。

帝京大に入り、早稲田大に続き、明治大、慶應義塾大に勝つのも初めてだった

高本の言葉通り、帝京大は筑波大戦から尻上がりに調子を上げて昨季の上位校である早稲田大学、明治大学、慶應義塾大学に勝利した。特に慶大戦では高本は自らのランとキックで1T、8G、1PGで24得点を挙げて64-14の勝利に大きく貢献した。

高本には今季、自らの成長を実感した試合があった。それは11月3日、全勝同士で激突した早大戦だった。帝京大は12-3で前半をリードして折り返したが、後半7分、先に相手にトライを許し12-10と追い上げられてしまう。

「昨年の僕だったら焦ってしまって、たぶん『どうしたらいいだろう?』というマインドになっていたと思いますが、チームを落ち着かせて、戦術的にこう攻めたらいけるんじゃないか、とチーム全体に発信することができた」。結果、高本のゲームコントロールの下、帝京大はボールを動かして3連続トライを挙げて、29-22で勝利を収めた。

「先輩、後輩関係なく、厳しく言う」

今季、上級生の3年生となって学年リーダーになった高本は、ポジション柄もあって「自然な流れで」ゲームリーダーに就任したという。「4年生のリーダー陣と話す回数も増えましたし、基本的に試合やグラウンドではリーダーをやらせてもらっています。先輩、後輩に関係なく、厳しく言うなど、いろんな使い分けをしてチームをいい方向に持っていこうとしています」(高本)

また自身を「心配性で完璧な準備をして試合に臨みたい人」と分析している高本は、試合後だけでなく、日々の練習でも何か気になったことがあれば、バックスの選手にLINEを送って、寮で練習映像を見ながら選手たちだけのミーティングを行って、頭をクリアにしている。高本は「日々、ミーティングを重ねて、バックスのみんな理解力が上がって 変わりだして僕もやりやすくなってきますし、 阿吽(あうん)の呼吸じゃないですけど、つながっているかなと思います」と胸を張った。

対抗戦で優勝し、細木康太郎主将(右)、押川敦治副将(右から2人目)らと記念撮影。左は一緒に高校日本一にもなった奥井章仁

昨年度は選手たちだけでミーティングする機会はあまりなかったこともあり、時には嫌そうな表情を見せる選手もいるそうだが、高本は頼み込んで集まってもらっていたという。特に9番のルーキーSH李錦寿(1年、大阪朝鮮)、12番の副将CTB(センター)押川敦治(4年、京都成章)に10番として要求することが多く、「連係が取れてきた」と話す。高本は「対抗戦の終盤になると(岩出雅之)監督からもあまり言われなくなってきた。信頼していただいているのかな。大学選手権は負けたら終わりですが、僕のゲームメイクで勝ち負けが決まる。ワクワクしています」と意気込んだ。

高校日本一より、負けた悔しさ

高本は大阪府八尾市出身。同じくバックスだった翔太さん(近畿大出身)、海斗(大東文化大-JR西日本)の兄2人の影響で小学1年生から八尾ラグビースクールで競技を始めた。小さい頃からSOでプレーし、当時からキックは左利きだったという。中学生になるとラグビーを続けながら、学校ではサッカー部に入っていたことで、キックにとっては「プラスになった」。中学時代は大阪府のスクール選抜の一員に選ばれたが、2年連続、予選で兵庫県選抜に敗れてしまい、全国大会には出場できなかったという。高校は兄2人と同じく、家から自転車で45分ほどの大阪桐蔭高に進学する。

大阪桐蔭でも早くから頭角を現し、1年生の時は控え中心だったが、2年生では「花園」こと全国高校ラグビー大会で準優勝を経験、最終学年となった2018年度は12番を背負って98回大会決勝で桐蔭学園(神奈川)を下して、同校初の全国制覇に大きく貢献した。特にリードが2点のロスタイム、桐蔭学園最後の猛攻を、前に出て相手を仕留めるタックルで落球を誘い、ボールを奪い返したプレーは語り草になっている。

大阪桐蔭高3年生の時は、センターで全国制覇に貢献した

ただ本人はそのタックルに関しては「あまり覚えていない」と言い、2年生の時の決勝で東海大仰星(大阪)に敗れたことが心に刻まれていた。「(2年時は)10番で出ていたんですが、僕のゲームメイクがひどくて(負けて)悔しくて、逆にいい成長するきっかけになった。そして次の年に優勝ができました」(高本)

9連覇の絶対王者に憧れ

大学は「中学時代、流(大=東京サンゴリアス)さんの代(14年度=6連覇目)が、めっちゃ強かったので一ファンとして憧れていた」という帝京大に進学する。入学後は、フィジカルの強化には「とても苦労した」という。ただ入学時、ベンチプレスは100kg挙がらなかったが、現在では130kgを挙げるようになった。「体が引き締まって、昨年度よりもめちゃくちゃ走れるのでいい感じになってきたかな」と声を弾ませた。

大学1年生の終わりに、ジュニアジャパンに選ばれ、海外遠征でも研鑽(けんさん)を積んだ。また時間があれば日本代表やニュージーランド、オーストラリアの試合などを見て「田村優選手(横浜キヤノン)や松田力也選手(埼玉ワイルドナイツ)の動き方であったり、ボールのもらい方だったり、いろんなものは見て参考にしています。スタンドオフとして試合の状況にあったプレーを選択できたらいいな」(高本)

左足でのゴールキックも正確で、帝京大の得点源

大学選手権を対抗戦1位でシードされた帝京大は、26日の準々決勝からの出場となり、東京・秩父宮ラグビー場で同志社大学(関西4位)の挑戦を受ける。

「特に(対抗戦で)全勝したからといって強いわけでもない」と気を引き締める高本は「 一戦一戦、アタックでもディフェンスでも自分たちの形をしっかり出せれば、 試合が終わればたぶん勝利していると思います。チーム全体として準備のところでもしっかりこだわってやっていきたい。(決勝まで)3週連続試合が続くので、いいコンディショニングで、いい状態で試合に臨みたいですね」と自信をのぞかせた。

今季、公式戦負けなしの帝京大。司令塔の進化がチームの成長につながっていることは間違いない。紅いジャージーの10番が輝けば輝くほど、4大会ぶり10度目の栄冠に近づいていく。

in Additionあわせて読みたい