陸上・駅伝

特集:駆け抜けた4years.2025

京都産業大・中村光稀「移行期間の4年」を経て、関西学生記録を自信に次のステージへ

春から大塚製薬で競技を続ける中村光稀(提供を除きすべて撮影・京産大アスレチック)

京都産業大学の中村光稀(4年、和歌山北)は大学の4年間で大きく飛躍を遂げた。関西が誇る「Wエース」の一角として知られ、昨年末には男子10000mで関西学生記録を樹立した。しかし、最初から脚光を浴びていたわけではない。大学入学時の自己ベストはチーム内で下から2番目。「無名」からのスタートだった。

箱根駅伝予選会参加表明の京都産業大学・中村光稀 日本インカレで示した存在感

苦手克服のため、陸上競技を始めた

陸上競技を始めたのは中学生の頃。「走ることが苦手で、それを克服したいと思ったことがきっかけでした」。入部した当初は短距離種目を専門とし、主に400mを走っていた。だが中学2年の秋、試しに出場した800mのレースで、想定以上の好タイムをマーク。これを機に中村は中長距離への転向を意識し始めた。400mの練習と並行して取り組めることもあり、練習での走行距離を少しずつ伸ばすようになっていった。

高校進学後は長距離に専念。しかし、練習内容が大きく変わり、戸惑うことも多かったと振り返る。「焦って多く走ってしまい、練習量をオーバーすることもありました」。種目の転向によって求められる能力も異なり、試行錯誤する日々が続いた。

中村にとって転機となったのは、京産大への進学だ。大学でも陸上競技を続けたい気持ちはあったものの、自分の実力に自信が持てずに進学を迷っていた時期もあった。そんな時、高校時代の恩師から京産大を勧められた。

1年生時の中村。4年間で最も印象に残っているシーズンと振り返る

「自由な環境になって時間がたっぷりあるので、焦らずに落ち着いて競技に取り組めるようになりました」。入学直後から即戦力として活躍していた小嶋郁依斗(かいと、4年、滋賀学園)をはじめ、同期の多くが早くから結果を残す中、中村は自身の競技スタイルを磨くことに専念できた。

努力は1年の冬に開花した。初めての公式戦となった京都学生駅伝で区間賞を獲得すると、勢いそのままに関西学生ハーフマラソンで入賞まであと一歩の9位と健闘。関西の舞台で徐々に頭角を現し始めた。2年時には10000mで初めて28分台をマークし、小嶋とともに〝京産大のWエース〟と称される存在へと成長していった。

想像以上に高かった"関東"の壁

大学ラストイヤーの2024年は、中村にとって非常に重要な1年となった。

春にはケガで練習を一時離脱したが、復帰戦となった全日本大学駅伝関西地区選考会で強さを発揮。京産大は2位通過で、4大会ぶりとなる全日本大学駅伝への出場権を獲得した。

全日本大学駅伝の関西選考会では大雨が降りしきる中でレースを引っ張った

最終年で迎えた学生3大駅伝に向け、中村は「1校でも関東の大学に勝ちたいです」と強く意気込んでいた。しかし、憧れた大舞台で待っていたのは想像以上に高い壁だった。

10月の出雲駅伝では流れを作る重要な1区を任された。序盤は先頭集団の前方でペースを刻んだが、他大学のラストスパートに対応しきれず区間8位という結果に。「僕の区間でもっと前で渡せたと思うので、もったいなかったです」と悔しさをにじませた。チームはその後も順位を大きく押し上げることはできず、12位に終わった。

続く11月の全日本大学駅伝では無念の繰り上げスタートとなった。中村は最長区間の8区を託されたが、前を走る関東勢との差は大きかった。気温が高い中、最後までその背中をとらえることはできず。16位でフィニッシュした。

「求められている走りが全くできませんでした」。どちらも関東勢以外ではトップとなったものの(出雲のアイビーリーグ選抜を除く)、チームとして掲げていた〝打倒関東〟は達成することができず、学生最後の駅伝シーズンは、不完全燃焼のまま幕を閉じた。

小嶋郁依斗とめざした関西学生記録の更新

駅伝シーズンが終わると、中村はすぐに次の挑戦を始めた。12月1日の日本体育大学長距離競技会で、男子10000mの関西学生記録を更新することだ。「2023年に関西大学の亀田(仁一路)さんが更新されてから、記録に対する意識がより一層強くなりました。良い練習が積めていたので、最低でも更新しようと決めていました」

当時の関西学生記録は28分25秒80。ともに記録更新を狙った小嶋とは「しっかり集団についていこう」と誓い合ってスタートラインに立った。しかし、レース前半は先頭の入れ替わりが激しく、ペースが安定しない。記録を狙うには難しい展開だったが、中村は焦ることなく機をうかがった。後半に実業団選手がトップに立つと、一気にペースアップ。中村はこの流れに乗り、スパートをかけた。自己ベストを40秒以上更新する28分13秒81でゴールし、関西学生記録を樹立した。

小嶋(左)とともに10000mの関西学生記録を更新(本人提供)

中村は「駅伝の雪辱を果たせました」と安堵(あんど)の表情を見せた。続いてフィニッシュした小嶋も28分15秒22の好タイム。〝京産大のWエース〟が刻んだこの記録は、関西の長距離界に新たな刺激を与えた。

記録が出た要因について中村は、2024年8月から就任した松岡佑起コーチの存在が大きいと話す。「入学してからはずっと手探りでした。でも、松岡コーチは指導者としても選手としても実績のある方で、毎日練習の相談をしてお世話になりました」と感謝の言葉を口にした。

「まだまだ未完成」関西のエースが目指す先

卒業後は、松岡コーチも所属した大塚製薬で競技を続ける。新たな環境では、これまで以上にレベルの高い競争が待ち受ける。それでも中村は「大学4年間は長距離の専門的な体格に作り替える移行期間でした。まだまだ未完成なので、まずは体づくりが第一目標です」と目標へと一直線に進む。

関西記録に名を刻んでも、彼にとっては通過点。その先にある舞台を目指し、新たな挑戦が始まる。

関西から新たなステージへ、大きな一歩を踏み出す

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