陸上・駅伝

特集:第50回全日本大学駅伝

どうなる、どうする区間変更

昨年は8区で神奈川大のエース鈴木が大逆転を果たして優勝

変わる1区の位置づけ

第50回を迎える今年の全日本大学駅伝は、スタート&ゴール地点(総距離)は変わらないものの、交通事情への配慮などから中継所の多くが変更される。最終8区を除く7区間の距離が変更になるのだ。それがレース展開にどんな影響を与えるのか、駅伝ファンの関心を集めている。

前回までと今年の比較は、図をご覧いただきたい。ひとことでいえば、6区までは10km前後の距離が続くスピード区間となり、終盤2区間は20km弱で持久力が要求される。

「より厚い選手層が求められます」と話すのは、2015年の第47回大会に優勝した東洋大の酒井俊幸監督だ。「昨年までは柱が4本いてくれたら、骨組みができました。今年からは4本では足りなくなる」。

これまでは区間によって距離の強弱が明確で、1、2、4、8区が主要区間とはっきり位置づけられた。それに対して今年は、前半6区間は距離の違いがそれほどない。「主力選手が走る区間と、耐える区間のバランスを、どの大学も試行錯誤することになるんじゃないでしょうか」(酒井監督)

重要度が大きく変わると言われているのが、従来の14.6kmから9.5kmへと短くなる1区である。これまではトップから40秒、50秒と離されることも多く、その後の区間への影響が大きかった。準エースやトラックのエースが起用されてきた区間だ。

酒井監督は「以前よりは楽になります。10~20秒くらいのビハインドはセーフと思って、2・3区で取り戻すこともできる」と指摘する。東海大の両角速(もろずみ・はやし)監督も「2区からヨーイドンになる」と同意見だ。「2・3区にはアップダウンもあり、力のある選手を配置できるなら、そこで仕切り直すこともできる」

かといって、軽視できないのも1区の難しいところだ。「短いといっても9.5kmある。1区で30秒やられたら痛い」と両角監督。「前を走ることで力を引き出せることも多いので、前半から出し惜しみしないでいきます」。エース級は起用しないまでも、1区で出遅れないようにして、2、3区までには必ず上位の流れに乗せる。優勝を狙うチームはどこも、そう考えているはずだ。

だが選手層の厚い大学なら、その裏をかいて1区にエースを起用し、30秒近いリードを奪う戦略に出るかもしれない。

エースの起用法、関東勢以外の大学は?

絶対的なエースがいる大学は、新しい区間編成にどう対応するか。塩尻和也(4年、伊勢崎清明)を擁する順天堂大の長門俊介監督は「チーム状況による」と話す。

「前半から上位の流れに乗ることを優先するか、最後に取っておくか。優勝を狙うなら、去年の神奈川大のように切り札を最後に置かないといけないでしょう。ウチはチームの状態がよければ、ほかのメンバーで前半どれだけいけるかを試して、塩尻は終盤に起用することになる」。優勝を狙うチーム以外は概ね、長門監督と同じ考え方をするのではないか。この点に関しては、昨年までと変わらない。

箱根駅伝がある関東の大学と、関東以外の大学では違いがあるのだろうか。昨年、関東勢以外では最高の16位に入った立命大の高尾憲司コーチは次のように話す。

「今年は日本インカレ10000m4位(日本人2位)の今井(崇人、たかと、3年、宝塚北)ら、長い距離を走れるエースが2人いるので対応できます。でも、前半の関東の選手は10000mが28分台で、こっちは29分台です。1区間の距離が短いといっても、10kmで1分、6区間で6分開くことも考えないといけません。かといって前半にエース級を置いたら、後半でどんどん差を開けられてしまう」

新区間編成に即して話してくれたが、高尾コーチの指摘は、高校までに実績のある選手が関東の大学に集中する現状の分析でもある。「高校で5000mが14分台ぎりぎりの選手たちが入ってきて、土台を作るのに2年かかり、スピードを積み上げるのに1年。4回生でやっと学生ランナーらしくなる。2人強い選手がいる今年はなんとか、関東勢を一つは食いたいですね」

昨年の全日本は関東勢最下位の明治大に38秒負けた。今年の出雲は7位で、関東勢4校に先着した。高尾コーチは前半の苦戦を覚悟しているが、例年よりもチャンスは大きい。

スピードランナーの多いチームが有利も……

今回の変更で、トラックのスピードランナーが多い東海大が有利になる、という声が多い。スピードランナーの目安となる5000m13分台が、エントリーした13選手中11人もいる。日本選手権2連勝中の館澤亨次(りょうじ、3年、埼玉栄)をはじめ、関颯人(3年、佐久長聖)、塩澤稀夕(2年、伊賀白鳳)ら、1500mで3分40秒台前半の選手が多くいるのは東海大だけだ。

「スピード軍団」東海大は出雲駅伝での悔しさを晴らせるか(撮影・松永早弥香)

エントリーされた中で13分台を持たない2人は、関東インカレ1部ハーフマラソンで2位(日本人1位)の湯澤舜(4年、東海大三)と、同4位の西田壮志(2年、九州学院)である。鬼塚翔太(3年、大牟田)もハーフマラソンで1時間2分3秒のU20歴代2位の記録を持つ。7、8区の候補も強力だ。

東海大は2連覇のかかった出雲駅伝で3位に終わったが、関東・日本両インカレの長距離種目総合得点でトップ。「全日本、箱根の両駅伝を合わせた4冠を目指す」(両角監督)という。しかし両角監督は「出雲の上位2校が前半から主導権を握ると思います」と、全日本の戦いを楽観視はしていない。

出雲を制した青学大は5000mの13分台ランナーの数が10人以上いる点は、東海大と変わらない。出雲1区区間賞の橋詰大慧(4年、和歌山北)は13分37秒75の今季学生最高のタイムを持ち、2区区間賞の鈴木塁人(3年、流経大柏)も高校時代からトラックで活躍してきた。4区区間賞の吉田圭太(2年、世羅)は5000mで日本インカレ3位(日本人1位)。今年の箱根駅伝2区で区間賞を取った森田歩希(4年、竜ヶ崎第一)が8区の候補だが、鈴木も前回の全日本8区で区間4位の実績がある。

東洋大は出雲では主力がパッとせずに2位だったが、10000mで28分17秒81の今季学生最高を持つ相沢晃(3年、学法石川)、日本選手権10000m4位(学生トップ)の西山和弥(2年、東農大二)らのスピードでも学生トップレベル。箱根駅伝2区候補の山本修二(4年、遊学館)や、出雲6区区間賞の吉川洋次(2年、那須拓陽)らが終盤2区間で力を発揮しそうだ

選手層の厚い3強は、全日本の新しい区間編成にも対応できる。

新区間編成への対応もしなくてはならないが、「大きく変わるとは思わない」(両角監督)という意見も出ている。酒井監督も「序盤、中盤、終盤に分けて考えるのは変わりません」と言う。「つなぎ区間と修正区間のバランスに配慮します。調子の悪い選手を2人つなぐとすぐに1分、悪ければ3分差が生じてしまう。どの監督さんも、6区までをどのくらいの差で収めるか、という発想をすると思います。青学の7、8区の候補を見たら、2分詰めるのは難しいでしょう。調子のいい選手をどれだけ揃えられるかの勝負になるでしょうね」

駅伝の持つ面白さ自体は変わらないが、レース展開次第では、今回の変更が勝敗を分ける可能性もある。メディアに露出される選手や監督のコメントに、変更に対する思いがにじみ出ることもあるだろう。観戦する駅伝ファンは、この変更をどう感じ取るだろうか。

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