筑波大、持続可能な育成で31年ぶりの頂点へ
迷いのない決断だった。明治神宮大会の出場権をかけた横浜市長杯準決勝の神奈川大戦。筑波大は1-0とリードした7回の守りで2死二塁になると、川村卓監督は佐藤隼輔(1年、仙台)から同じ左の加藤三範(2年、花巻東)へスイッチした。
持ち味を生かした投手リレー
佐藤は首都大学リーグで今秋5試合25イニングを投げ、自責点なしで3勝。安定感は抜群だ。この日もここまで被安打2で、この回出した走者も味方の失策によるものだった。それでも、ベンチの選手たちも予想通りの交代といった様子で佐藤を労い、加藤を励ました。加藤はリーグ戦防御率0.32(8試合28イニングで自責点1)の好調そのままに、打者7人を無安打に抑えて零封リレーを完成させた。ヒットは4番中島準矢(4年、鹿島)のソロ本塁打のみだったが、点を与えないことで筑波大は12年ぶりの明治神宮大会出場を決めた。
試合後、川村監督は投手交代の理由を明かした。「佐藤は70球から80球でいつも代えているので、迷いはありませんでした(投球数は79)。以前からそうしてきましたし、ピッチャーも複数いますから、みんなで無理せずに持続できるようにしてます」
佐藤は高校時代からドラフト候補に挙がり、ある球団のスカウトが「進学志望と聞いた時はガックリきましたよ」と苦笑いするほど、将来を有望視されている。そして監督が「マウンド上で一番落ち着いてるので信頼してます」と話すエース村木文哉(2年、静岡)に、抑えには「短いイニングならほとんど点を取られない」という加藤がいるだけに、役割かっちりと決め、負担を分散させている。
目指すは勝ち続ける組織
もうひとつ大切にしているのが選手たちの自主性だ。久々の明治神宮大会出場について川村監督は「チーム発足時や春(リーグ4位)からすると、思ってもみませんでした」と明かす。夏は川村監督が侍ジャパン大学代表のスタッフとして計3週間ほどチームを離れたが、選手たちがチームをもり立ててきた。
主将の福永大貴(4年、北須磨)は「勝ち続ける組織になるため、野球以外のことにも力を入れてきました」と振り返る。時間厳守や寮の清掃などを徹底、また決められた練習時間の中、質・量ともに充実させた練習で各自が自らを追い込んだ。監督はいま、「粘り強いチームになりました」と教え子たちをたたえる。
自らを信じ、独自の方法で力をつけてきた筑波大。一戦必勝で勝利を積み重ねていけば、その先に31年ぶりの頂点がある。