青学キャプテン、森田歩希の涙
昨年まで4度続けて箱根優勝のゴールテープを切った青山学院大が、今年は大手町で悔し涙を拭った。史上初となる「2度目の学生駅伝3冠」、さらには史上3校目となる箱根5連覇をかけて挑んだが、東海大に先を行かれた。3分41秒差の2位だった。
プレッシャーと責任感
レースは3区の森田歩希(ほまれ、4年、竜ヶ崎一)でトップに立ったが、4区の岩見秀哉(2年、須磨学園)が思うように走れず、3位に転落。想定外の寒さで低体温症を起こしてしまったという。何とか襷(たすき)をつなぎ、5区の竹石尚人(3年、鶴崎工)に挽回を託した。
昨年も山を上り、「新・山の神」との呼び声も高かった竹石だが、今年は苦しんだ。「上りに入ったところで足が動かなくなりました」と竹石。気づけば8位まで落ちていた。5連覇のプレッシャーと、前との差を詰めなければという責任感が、竹石の身体を重くしたのかもしれない。それでも最後まで懸命に追って2人を抜き、6位で往路のゴールテープを切った。
翌日の選手たちにあきらめた様子はなく、むしろ復路逆転に向けて闘志を燃やしていた。先頭から5分30秒差でスタートを切ったのは、4度目の山下りとなった小野田勇次(4年、豊川)。後半、徐々にペースを上げ、5位で襷リレー。57分57秒の区間新記録を打ち立てた。4年間を山下りにかけてきた小野田の思いが、前人未到の57分台という大記録につながった。
昨年の箱根MVP、7区の林奎介(4年、柏日体)も昨年自身が更新した区間最高に迫るタイムで好走。先頭との差を3分48秒まで縮め、3位でつないだ。8区は飯田貴之(1年、八千代松陰)。「前を追う展開で、突っ込む走りができると思いました」と本人が言う通り、ルーキーながら区間2位という快走で9区の𠮷田圭太(2年、世羅)につないだ。𠮷田は2位を走る東洋大との差を8秒にまで詰め、区間賞を獲得。𠮷田は今シーズンの学生三大駅伝すべてで区間賞という快挙を達成した。
最終10区は鈴木塁人(たかと、3年、流通経大柏)に任された。東洋大を抜き去り、2位へ浮上。先頭の東海大には届かなかったが、2位でゴール。新記録での復路優勝を果たし、王者青学の強さは示した。
背中で引っ張った4年生
レース直後の報告会で、選手たちは自分の言葉でレースを振り返った。主将の森田は淡々と語っていたが、途中で空を仰ぐと、一気に涙があふれ出た。森田はこの1年間、主将として「言葉で引っ張るというより、競技の結果で引っ張りたい」という思いで、チームの先頭に立ってきた。それを裏付けるように、試合後の選手らへの取材で、下級生の多くは「森田さんをはじめとした4年生が背中で見せてくれた」「競技だけでなく私生活の面から引っ張ってくれました」と話していた。一人ひとりが4年生の大きな背中を追って、ここまで成長してきた。森田はそんなチームに向けて「みんなが頑張ってくれたので、本当にうれしく思います」とひとこと。その言葉には、1年間チームをまとめてきた主将の温かさ、チームへの強い思いが込められていた。
勝ち負けで語られることの多いスポーツの世界。青学は積み上げてきた箱根連覇は途切れたが、今回の総合2位という結果も大事な一歩になることだろう。その悔しさがチームを奮い立たせ、より強く、よりたくましくしてくれるはずだ。また一からチームをつくりあげる青学が1年後、大手町で心からの笑顔に包まれることを願ってやまない。