学生だけで戦った 関大女子バレー・服部の一年
関大のベンチには学生の姿しか見えない。監督は不在。選手交代もタイムアウトをとるのも、自分たちで決める。コートの中と外がひとつになり、まさに全員バレーで戦い抜いた。
学生主体のチーム方針に変わったのは1年前の春。新たに主将となった服部愛果(4年、金蘭会)は、一気に難題を抱えた。もちろん、日々の練習メニューからして自分たちで決める。事前に話し合って決めるようにしたが、練習中に「違うな」と感じたら、急きょ変えるのも珍しくなかった。
4回生5人がぶれへんように
練習試合をしたければ、相手の監督にアポイントを取るのも、当然ながら選手自身。そしてリーグ戦になれば敵チームの情報収集とデータ分析、ゲーム運営、ホームページやツイッターでの情報発信など、多岐にわたる仕事をチーム内で分担した。
その中で服部がいちばん気を付けたのは、5人の4回生の考えが「ぶれへんように」することだ。服部は「ただでさえ、(後輩たちにとっては)監督がいないことの不安が大きい。誰についていったらいいのか、わからんようになったらあかん」と、チームを引っ張る5人の方向性にズレが生じないよう、ことあるごとに話し合った。
服部は「私が何を言っても、監督じゃないから学生同士の言い合いになってしまう」と感じ、悩んだ時期もあった。下級生の中に不満を持つ者はいないか。服部は毎日、部員一人ひとりとコミュニケーションを取るのを欠かさなかった。
学生だけで関西V
そして体制が変わってすぐの昨春、関大は9勝2敗の成績で初めて関西リーグ1部を制した。学生主体で勝ちきったのを評価され、練習試合のオファーも受けた。自分たちのやってきたことを誇らしく感じる一方で、服部は大きなプレッシャーを感じた。「関大の優勝はまぐれ」と言われないようにしないといけない。だから関西王者でありながら、自分たちは常に「挑戦者」なのだと言い聞かせた。
夏を経て、ライバル校たちは着実に力を伸ばし、関大を追い詰めた。秋のリーグ戦Aブロックで3勝2敗。セット率の差で上位リーグに滑り込んだが、春のようにはいかない。2勝3敗と負け越し、4位に終わった。服部は悔しさをにじませた。
迎えたインカレ。最後の大舞台に、エース服部は本調子ではなかった。「体が思うように動かず、アタックがぜんぜん決まりませんでした……」。しかし、チームには、いままでとは違う雰囲気を感じた。下級生の攻撃、つなぎがチームを支えた。「これが最後になるのが嫌ってというのが、後輩のプレーから出てました。伝わってきました」。3回戦で前回王者の青山学院大に敗れたが、服部は「一年間、ほんまに頑張ってくれたんやな」と、仲間たちの頑張りと成長をかみしめた。
「自分だけでは絶対に一年間やってこられませんでした」と、服部は同期の4人への感謝を忘れない。彼女たちが果たした役割はさまざまだ。プレーヤー兼監督という立場になった者もいれば、データ分析やチーム運営に奔走した者もいる。こうして最上級生一人ひとりが後輩の信頼を集め、チームがひとつになっていったのだ。
学生主体という体制が正しいのかどうかは、誰にも分からない。だがひとつだけ確かなのは、服部たちによる努力が、関大女子バレー史上最強のチームという形になったということだ。