関学ボクシング・田口綾華、負けん気で描く成長曲線
昨年12月24日、関西学院大学ボクシング部に新たな伝説が生まれた。田口綾華(あやか、3年、兵庫大学附属須磨ノ浦)が、全日本女子選手権ライトウェルター級で2連覇を達成。「プレッシャーは相当あったんですけど、絶対に負けたくなかったので、すごくうれしいです」。決勝は1回から得意の左ストレートでダウンを奪い、相手を圧倒。勝利の瞬間、ホッとした表情を浮かべた。
高校時代のバレーに痛恨の思い出
田口の長所は、どんなときもあきらめない強い気持ち。それは小さいころから変わらない。幼稚園でのマラソン大会では、いつも2位で悔し泣き。部活のライバルに負けたくない一心で、成績で学年1位をとったこともある。「小さいころから、負けるのが本当に嫌いでした。勝負ごとは全部勝ちたいんです」。強い気持ちは、どんなときも自分の味方でいてくれた。
高校時代はバレーボールに熱中した。全国大会常連校での3年間は、まさに地獄だった。オフなしの寮生活。上下関係も厳しかった。レギュラー争いも熾烈(しれつ)。「もう、絶対にあのころには戻りたくない」と、苦笑いで振り返る。田口は必死でレギュラーを目指した。全体練習後は、毎日のように仲間と居残り練習。持ち前の強気は崩れなかった。
だが、3年生の春にレギュラーが固定されるとき、田口は補欠に。「もうレギュラーをとるのは無理かな。練習したところで、もう意味はない」。これまでどんな苦難も気持ちで乗り越えてきた田口の心が、初めて折れた。一方で、ともに自主練習をしてきた仲間は最後まであきらめず、土壇場でスタメン入り。田口は後悔した。「あきらめずに立ち向かっていけば、いつか報われるんだ」。大切なものに気づかされた。
日記に書いて有言実行
大学ではどんなことがあっても逃げない。田口はそう心に誓って、戦いの場をリングへと移した。だが、ここでも苦労が続いた。選手では関学ボクシング部唯一の女子だ。男子との練習は、すごく恥ずかしかった。初めてパンチを食らった日は、泣きながら帰った。何回もやめたいと思った。だが「ここで逃げたら終わる」と踏みとどまった。男子部員と切磋琢磨(せっさたくま)して、日々成長していった。
田口のメンタルを、さらに強くしているものがある。昨年6月から毎晩つけている日記だ。自分の中にある弱音を、前向きな言葉に変えるのだ。「試合前に見返して、いままで積み上げてきたものを目で確認するんです」。連覇のかかった全日本でも、この日記に支えられた。プレッシャーで押しつぶされそうになった決勝前夜には「絶対に勝つ。勝って応援してくれている人に喜んでもらう」と書いた。有言実行でき「心の支えになりましたね」と、はにかむ。
競技歴わずか3年。驚異の成長曲線を描いている。4月にはタイで開かれるアジア選手権女子64kg級に出場する。「正直、不安なことがいっぱいあります。でも、負けん気だけはずっと持っていたいと思います」。アジア制覇、そして前人未到の全日本3連覇へ。限界を知らぬ田口綾華は、どこまでも進化し続ける。