早慶レガッタ 慶應主務・堀優作、マネジメントも負けない
慶應義塾体育会端艇(ボート)部には現在約80人の部員がおり、新入生が加わると100人規模になる。全日本選手権やインカレ、そして宿敵・早稲田と競う早慶レガッタ(4月14日)での勝利を目指し、練習に明け暮れている。
この部で練習映像の撮影から合宿所での食事の準備、さらには対外交渉まで一手に引き受けているのがマネージャーだ。現在端艇部には8人のマネージャーいる。その一人である新4年生の堀優作は2年生の11月にオールを置いた。現在は主務として選手たちを支える。
度重なるけがで選手をやめた
堀は埼玉県立浦和高校ボート部の出身。高校でボートを始め、慶應進学後も迷わず端艇部に入った。公式戦出場を目指して練習に励んだが、度重なるけがに悩まされた。そして2年生のときにマネージャーに任命された。
「新人戦にも出られなかったし、『まだ漕ぎたいな』という思いは強くありました。僕自身がマネージャーに向いてるのかどうかも分かりませんでしたし、悩みましたね。でも端艇部にいちばん貢献できる役割だと考えて、選手をやめてマネージャーになりました」
端艇部をやめることは想像すらできなかった。とはいえマネージャーは選手とは異なり、部全体を見渡せなければならない。最初は目の前の業務をこなすのに手一杯だった。しかし、慣れるにつれて考える余裕もでき、選手のためによりよいサポートを工夫するようになった。食事の改善も堀のアイデアだった。
「選手時代、合宿所で出される食事には、多くをを求めていませんでした。ただそれでは、身体をつくらなければいけない選手にはよくないだろう、と。マネージャーになってからはメニューを増やしました。さらに平日は夕食だけだったんですけど、朝食も出すようにしました。糖質とタンパク質を同時に補給するために、ヨーグルトを必ず出すようにしてます。夕食は女子栄養大学にメニューを依頼して、アスリートにふさわしい栄養を摂れるようにしました」
合宿所の食事はマネージャーたちが準備する。部員80人の食事をつくるには、慣れていても2時間ほどかかる。量が多いだけに、レシピ通りにつくるだけでも一苦労だ。選手たちに聞くと、以前は決しておいしいとは言えなかったそうだが、最近は味もよくなったという評判だ。そのことに触れると、堀主務は「そう感じてくれるならうれしいです」と笑った。
大役をやりきり、主務の仕事に自信ができた
マネージャーとして堀を大きく成長させたのが、昨年7月1日に開催された第21回塾長杯水上運動会だ。堀は運営責任者を務めた。水上運動会は端艇部が主催するイベントで、「塾生」であれば小学生から大学院生まで誰もが参加でき、500人ほどが参加した。当日の最高気温は東京で32.7度、熊谷で36.2度。関東で6月に6日連続の真夏日を記録したのは39年ぶりという暑さの中で7月に入っていた。
「とにかく何かあってはならない、と。用意するペットボトルの本数を1500本ほどに増やしました。さらにイベントでは、端艇部が試合前に食べる名物のカレーライスを出します。食あたりなどが発生しないよう、保健所の方とも相談しました。ほかにもイベントの景品を集めたり、運営責任者として関わることはすべてが初めて。直前まで気になることが多すぎて、水上運動会前は徹夜でした。無事終わって初めてホッとできました。本当に苦しかったんですけど、それからは自信を持って主務の仕事に取り組めるようになりました」
今年はとくに勝たないといけない
4月14日、今年も東京・隅田川で早慶レガッタが開催される。野球、ラグビーとともに「三大早慶戦」の一つであるレガッタの戦いは110年を超える歴史を持ち、戦争などの影響で中止することもあったが、今回で88回目を迎える。3万人の観客を隅田川に集める早慶レガッタ。今年の幹事は慶應だ。
堀たちは最高の大会にしようと、昨年から全力で準備してきた。とくに力を注いだのが大会パンフレットの広告集めだ。部の財政は赤字続き。「学生で何とかしよう」と、堀たちは奔走した。出稿見合わせもあり、昨年から継続の広告収入はマイナス100万円ほどだったが、必死の広告営業で100万円ほど新たな契約をとり、昨年からのマイナスを埋めた。
「担当の方に時間をとっていただき、企業へ直接おうかがいして説明しました。断られるケースもありましたけど、電話で済ませられるところも顔と顔を合わせることで、より強い思いを伝えられたと思います。協賛金は早稲田よりたくさん集めたと思いますよ」。堀は誇らしげに笑った。そして力強く言った。
「今年の早慶レガッタはとくに勝たないといけません。僕たちもマネジメントから負けるわけにはいかないですよ」
早慶レガッタの当日、堀たちマネージャーは選手のために端艇部特製カレーを作り、パワーを送る。最後、ともに笑えるように。