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東京海洋大が挑み続ける「サバニ」レース、沖縄の文化を支える力に

2017年のレースに出場した東京海洋大チーム(写真は東京海洋大提供)

東京海洋大学が沖縄で毎年、「サバニ」という伝統的な舟で海を渡るレースに挑んでいる。スポーツの形で復活、継承されている沖縄の海洋文化を実体験できる機会として取り組んできた。挑戦10回目となる今年は6月30日、慶良間諸島の座間味島から沖縄本島の那覇市沖まで約35kmのコースで開かれる。

かつては海上の移動手段

出場しているのは、海洋性レクリエーション論などを研究する千足(ちあし)耕一教授らのチームだ。メンバーは研究室の学生や大学院生、卒業生、関係者ら。今回初参加する4年生の安本源さん(21)は「人と自然の力だけでどのくらいスピードが出るのか興味があります」と話す。同じく初参加の大学院生、木藤拓也さん(24)は「相当キツいって聞いてるんですけど、楽しみです」と言う。4、5人が乗り、伴走艇から乗り手が交代しながら海を渡る。

今年のレースに挑む東京海洋大の千足教授(右から2人目、写真は撮影・松本行弘)

サバニは、沖縄でかつて海上の移動手段として日常的に使われていた全長5~10mほどの舟。帆と櫂(かい)で進む。底に分厚い木材を使い重心が低いので、サンゴ礁の多い海でも航行しやすく、砂浜から出航でき、転覆しても復元しやすいなどの特長がある。

動力船の普及でサバニは姿を消しつつあったが、直後に沖縄サミットを控えた2000年6月、「日本の海の文化をアピールして残すきっかけに」と、サバニ帆漕レースが企画された。第1回大会は沖縄の地域、職場、学校などのグループやヨットマンら16チームが出場した。毎年同じコースで梅雨明けの時期に開かれる。20回目の今年は梅雨明けが例年より遅く、天候が心配されてはいるが、36チームが出場予定だ。

苦労しても、昔ながらの技術で

レースの存在を知った東京海洋大は2009年の第10回に初出場し、4時間37分で11位になり、第12回(台風の影響で不参加)を除いて出場し続けている。当初は借りたサバニに舟を安定させるためのアウトリガーを装着し、好成績を収めていた。購入した自前のサバニ「津梁(しんりょう)」で出場する第14回からは、昔ながらの技術にこだわる。最初のレースは6時間15分かけて最下位で完走したが、その後の4大会は途中リタイアが続いた。しかし、乗り手の体重移動でバランスを保ち、「エーク」と呼ばれる櫂で進行方向を決めるなど、操船技術は年々向上。昨年、5大会ぶりに完走した。

2018年のレース。手前のサバニはアウトリガー付き(写真は東京海洋大提供)

大会は第9回から、アウトリガーなどを付けたレース志向と、東京海洋大のような「古式」とにクラスが分けられている。千足教授は「伝統をスポーツの切り口で復活させるという、面白い取り組みです。せっかくの機会なので、できるだけ昔の形に近い状態で、技術を身につけたいです」と話し、「古式」で同じくらいの大きさのサバニをライバル視してレースに臨む。

レースが始まってから船大工にサバニの発注が寄せられるようになり、造船技術も復活してきた。東京海洋大も新艇を造り、1艇を東京に置いて練習する考えもある。千足教授は「私たちが挑戦し続けることで、沖縄の皆さんが自分たちの文化を誇りに思ってもらう一助になれば」。そんな思いも込めて、この活動を続けるつもりだ。

座間味島の古座間味ビーチからスタートしたサバニ(写真はフォトウェーブ提供)

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