田村和希、大迫傑、佐藤悠基、設楽悠太 東京五輪を見すえる男たちの思い
ホクレン・ディスタンスチャレンジ第5戦 網走大会
7月22日@網走市営陸上競技場
10000mA組
2位 田村和希(住友電工)27分57秒14(日本勢トップ)
3位 大迫傑(ナイキ)27分57秒41
6位 佐藤悠基(日清食品グループ)28分8秒34
10位 設楽悠太(ホンダ)28分17秒38
7月22日のホクレンディスタンスチャレンジ(以下、ホクレン)網走大会の最終レースとなった10000mA組には、アメリカから帰国した大迫傑(早稲田大~日清食品G~ナイキ)を初め、佐藤悠基(東海大~日清食品G)、設楽悠太(東洋大~、ホンダ)、河合代二(麗澤大~トーエネック)らMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)のファイナリストたちが出場。9月15日のMGCまで2カ月を切り、各選手がどんな走りをするのかに注目が集まった。
網走にスター選手が集結
完全に日が落ちた午後7時40分にスタート。ターゲットタイムはドーハ世界陸上の派遣標準記録でもある27分40秒だ。初めは集団は縦長になり、ラップを刻んでいく。6400m過ぎで集団は大きく二つに分かれた。7000mを過ぎて佐藤が先頭に出て集団を引っぱり、落ちかけていたペースを戻した。そこに田村和希(青山学院大~住友電工)、鎧坂哲哉(明治大~旭化成)、大迫とムソニ・ムイル(創価大4年)、ピーター・ランガット(SGHグループ)が続いた。残り4周となり、大迫がペースを上げて先頭に立つ。残り3周で先頭争いは大迫、田村、ムイル、ランガットの4人に。残り200mでムイルがスパートし、最後は争うようにムイル、田村、大迫の順でゴールした。
ドーハをあきらめ、東京五輪を狙う田村和希
日本勢のトップでゴールした田村は、5月19日の日本選手権10000mでも優勝していた。27分40秒を切れば世界陸上に内定が決まるという状況だったがかなわず、レース後には悔しさをあらわにした。この夜日本勢トップとなって表彰された後のインタビューでは「ドーハはもう厳しいと思うので、来年東京オリンピックに出場できるように切り替えていきたいです。東京オリンピックには絶対出ますので、応援よろしくお願いします!」と言いきった。
報道陣に囲まれた際にそのことについて問われると「言いましたっけ?」と一瞬はにかんだが、「出ますって自然と言いきったということは、それなりの覚悟をもってやっていけるというメンタルの状態なんだと思います」と、自らを分析した。一方で、今年目標としてきた世界選手権への出場は厳しい状況となった。「MGCに出る選手たちはマラソンの準備をしてきている中で、佐藤悠基さんや大迫傑さんが(10000mの)レースをつくってくれました。日の丸を経験した人との力の差を実感しました。ドーハの参加標準記録を狙ってたんですけど、自力で行く力は正直ないので、(1周)66秒で回っていってくれれば狙えると思ってました。もっといいペースで引いてもらえればと……」。でも最後は大迫選手を差して日本勢トップになりましたね、と水を向けられると「日本人トップではなく、(ランキングのための)ポイントを取っていくとなると組トップじゃないといけなかったです。だから最後(ムイル選手に先に)行かれてしまったのが悔しいです」
東京オリンピック出場を10000mで狙うために、残り1年弱でどうやっていきますか? 「今年狙うとしたら(11月開催予定の)八王子ロングディスタンスで、日本記録を狙う気持ちでいかないとダメだと思います。27分40秒は狙えると思ってますので、さらにそこに上積みしていきたいです。競技人生はまだまだ長いので、一つひとつ段階を経て強くなっていく上で、東京オリンピック出場があったらいいと思います」。
9月6日までに世界選手権の参加標準記録を突破すれば出場資格が得られるが「今年はアメリカ、日本選手権、今日と10000mのレースを3本走っていて、ここまで伸びてしまったので気持ち、体の面で疲労があるなと感じてます。世界選手権についてはスパッと切り替えていったほうが今後のためになると思うので、そうしていきたいです」と語った。
「いまある力は出せた」と設楽悠太は淡々
設楽は淡々と語った。「状態確認で走ったので、いまできる限りの力は出せたのでよかった」。2週間前にゴールドコーストマラソンを走り、2時間7分50秒で優勝した。追い込んでいる中でこの日もいい動きができ、マラソンの疲労もないという。MGCに向けては「頑張るしかない、あとは普段どおりに生活していきたい」と話した。大迫を意識するか? という質問には「意識したけど、彼のほうが強かったです。9月15日は頑張ります」と口にした。
佐藤悠基「調子がいいと言われるけど」
レース途中、先頭で引っ張る動きも見せた佐藤。設楽と同様、スピードトレーニングの一環として走ったという。目安としていた目標タイムは28分20秒だったが、「集団がちょうどいいぐらいで出たので、風もあったし、ついていったほうがいいと思いました。7000mからの3000mはいいペースで押し切れればいいなと思ったんですけど、力不足で押しきれませんでした」と、冷静に振り返った。
このあとは9月15日に向けて、夏場の42kmに耐えられる体づくりをしていく予定だ。ほかのMGC出場者への意識については「それぞれここまでの流れ、目的も違うと思うし。でも強い選手がいる中で下手なレースはできないな、相手に弱みを見せることはできないなと、多少意識して走りました」と語った。ゴールドコーストマラソンでも最後の6km、自分の思っている以上のタイムで上がってこられて、状態としてはいいという。「調子がいいね、と周りの人から言われることが多いんですけど、自分で実感したことはないんです。トレーニングでやってきてることを最低限出してるに過ぎないという意識です。これからもやれることをしっかりやって、レースでやってきたことを出せれば」
大迫傑「謙虚な気持ちでチャレンジしたい」
大迫はこのレースの2日後のイベントに出演するために帰国。「ちょうどいいレースがあったので、走りたいなと思って」。「もうちょっとかかるかと思ったんですけど、後半にいくにつれて体も動いてきました。いい練習になったんじゃないかなと思います」と、明るい表情で話した。MGCに向けては「みんながいい走りをする中で、しっかりと自分のことをやりつつチャレンジしていきたいです」。本番に向けて何が一番大事ですか? 「自分を見失わないことですね。あるべき練習をしっかりこなしていくことです」。自分のことをしっかり、チャレンジ、という言葉が何度も大迫の口をついて出た。
SNSで丸刈り頭にしたと発信していた大迫。この日はキャップをかぶって髪型を見せることがなかった。なぜ髪を切ったのかという質問には「アメリカにいるといい美容師さんがいなくて(笑)。髪が伸びてしまっていろいろ気にするのも面倒くさいので、もともとやってみたいなという気持ちはありました。でも本当にしていいのかな? と葛藤があって……。今回いい機会だしということでやりました。やってみると楽でいいですよ」と笑顔を交えて話した。見せてください、というリクエストには「今日はカメラがあるんで!」と断った。
大迫は10000mのレースを走ったあと、東海大の2選手とともに4マイル(6400m)を走った。佐久長聖高校時代の恩師でもある東海大の両角速監督がタイムを取った光景は、SNSを通じて全国の陸上ファンからも注目を受けた。「すごく走るんですね」と思わず言った記者には「マラソンランナーなんで(笑)」と返した大迫。自然体でMGCに挑む。
MGCは9月15日開催、ここで2位までに入れば東京オリンピックの出場権が手に入る。男子のファイナリストは31名。果たして誰がまずオリンピックに名乗りを上げるのだろうか。