法大サッカー森岡陸 上田綺世との別れに涙「俺らで法政を変える」
天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権3回戦
8月14日@東京・味の素フィールド西が丘
法政大 2-0 ガンバ大阪
8月14日にあった天皇杯3回戦で、法政大はJ1のガンバ大阪に2-0で勝ち、大学勢では唯一となるベスト16に進んだ。今大会で法大がプロを相手にアップセットを起こしたのは、J2の東京ヴェルディと戦った2回戦に続き2度目だ。「しっかり勝てるチームを作ってきた中で、今日も臆することなく戦えました」と長山一也監督。会心の勝利に声が弾んだ。
この一戦を迎える前までの2週間弱で、法大はリーグ戦3試合を戦ってきた。夏場の連戦で疲労の蓄積もあっただろうが、選手たちは試合序盤からよく動いた。守備では複数で連動しながらプレスを仕掛け、奪ったボールを前線やサイドへ。敵陣のスペースを突きながら、徐々にガンバ大阪ゴールへ迫っていく。そして前半24分、前線でボールをキープしたFW田中和樹(2年、浦和学院)からのパスを受けたMF大西遼太郎(4年、ジュビロ磐田U-18)がゴール右隅に先制点を決めた。
「どこかに当たれば」と飛び込んで追加点
1-0のスコアのまま迎えた後半25分、法大に2点目が生まれた。決めたのはDF森岡陸(3年、ジュビロ磐田U-18)。MF平山駿(3年、三菱養和SCユース)が蹴った左コーナーキックに頭から飛び込んだ。「見たら入ってたっていう感じです。飛び込んで体のどこかに当たればいいやって、押し込みました。めちゃくちゃうれしかったです」と森岡。守っては2回戦の東京ヴェルディ戦と同様、DF加藤威吹樹(いぶき、4年、サンフレッチェ広島FCユース)と息の合った連携で要所を締め、無失点勝利に貢献した。
FW宇佐美貴史、アデミウソンなど、J1でも屈指の実力を誇るアタッカーにチャンスすら与えない堂々の完封。試合後の森岡は清々しい表情で言った。「僕のところでやられなければ絶対にやられないと思うので、そこは絶対に抑えようってイブくん(加藤)と話してました。そこがうまくはまったので、勝利につながったのかなと思います」
強靱(きょうじん)なメンタルの持ち主なのかと感じたが、実際はそうでもないらしい。相手のFWに対する怖さはなかったか? と尋ねられると「僕は毎試合そうなんですけど、めちゃくちゃ緊張するので。ビビりまくって。今日もロッカールームでかなり緊張してて、みんなが『大丈夫か?』って。今日はとくにヤバくて……」と明かし、報道陣を笑わせた。
磐田ユースからトップ昇格はならず、法大へ
岡山出身の森岡は幼少期に静岡へ引っ越し、中学生のときにジュビロ磐田の下部組織に入った。ユース時代には年代別の日本代表に選出された。高いポテンシャルを秘めた若きタレントとして大きな期待をかけられていたが、トップチームへの昇格は見送られ、法大サッカー部でもう一度、心身を鍛え直そうと決心した。
法大の同期には上田綺世(あやせ、3年、鹿島学園)がいた。服部剛大(たけひろ、3年、横浜FCユース)とともに寮の同部屋となり、絆を深めた。その上田は法大のエースストライカーに成長。2020年の東京オリンピック代表候補や、今年に入ってA代表にも選ばれた。21年の加入が内定していたJ1の鹿島アントラーズへ前倒しで加わるため、7月末でサッカー部を退部。切磋琢磨してきた仲間との別れに、森岡は思わず涙したそうだが、すぐに前を向いた。
「綺世がいたから、自分もここまで頑張ってこられたって思ってるんですよね。タケ(服部)とも『綺世はもういないけど、俺らで法政を変えていこう』って話してます。それで今日、こういう結果になったので、まだまだですけど、次の試合も勝ちたいなと思います」
上田に指摘され、自らの強みを自覚
1対1の局面での強さが際立つ森岡に、自らの強みについて質問をぶつけてみると、「体が柔らかいこと」と意外な答えが返ってきた。幼少期に体操を習っていたわけでも、普段からストレッチをやっているわけでもない。言わば生まれ持った武器。マークされた側からすると、ほかのDFよりも足が伸びてくる感覚があるそうだ。森岡は当初、その特徴を自覚していなかったが、上田から指摘されたのをきっかけに意識するようになったと教えてくれた。
今回の天皇杯を通じて、そんな強みがプロ相手にも十分に生きると分かった。森岡は言う。「プロと戦ってみて、サッカーの本質というか、いい部分がどんどん見えて、刺激もありました。この試合では思い通りのプレーができたので、なおさら、プロに行きたいなって思いましたけど、でも、こんなんじゃプロにはまだなれないです」
森岡は謙虚にそう話した。磐田でトップチーム昇格がかなわずに選んだ大学サッカーではあるが、いま貴重な経験を積み上げている。