野球

昨年は2度入れ替え戦の中大が東都完全V、「逆襲」の物語は明治神宮大会へ続く

15年ぶりの優勝を決め、喜ぶ中大の選手たち(すべて撮影・佐伯航平)

東都大学野球1部リーグの最終週で、すでに15年(30シーズン)ぶりの優勝を決めていた中央大が東洋大と対戦し、3-0、5-4と連勝。対戦相手の全5校から勝ち点を奪っての完全優勝を成し遂げた。中大の完全優勝は1972年の春以来47年ぶり。11月15日に開幕する第50回明治神宮大会で大学日本一にチャレンジする。

主将の目に試合中から涙

完全優勝を決めた10月24日のリーグ最終戦、キャプテンの目に涙はなかった。
中大主将の大工原壱成(4年、桐光学園)は「今日は泣きませんでした!」と、試合後に笑顔で話した。

10月17日、優勝を決めた立正大2回戦では、大逆転した8回表の攻撃途中から大工原の目には涙があった。
「自分がフォアボールで出塁して(押し出しで)1点差になったときは泣いてなかったんですけど、逆転して、まだ終わってないのに涙が出てきちゃって……。9回表の守備につくときにみんなにバレて、いじられました(笑)」

昨年、中大は春秋連続で最下位に沈み、入れ替え戦でなんとか1部に残った。苦しかった昨年の戦い、優勝を目前にしての喜び、ベンチの仲間、応援してくれた仲間……。いろんなことが頭に浮かんで、涙が出てきた。

連続最下位から1年、ようやく笑えた

チームのスローガンは「逆襲」

今春、掲げたチームスローガンは「逆襲」。苦しい状況を乗り越えて得たものを発揮し、一気に頂点を狙おうと春のリーグ戦に臨んだ。優勝こそ逃したが、そこで2位に躍進したことがメンバーにとって大きな自信になった。

「去年は入れ替え戦で2部に落ちるプレッシャーと戦いながらプレーしてました。今年は優勝を狙ってプレーできる。こういう雰囲気の中でやれるのは幸せなこと。選手たちもそういうことを感じて、楽しみながらやってくれたと思います」。中大の清水達也監督は、優勝を決めた試合後の記者会見でこう話した。

この秋は第1週の亜細亜大戦、第2週の駒澤大戦と開幕から4連勝し、首位を走った。3カード目、國學院大との首位攻防戦は3試合ともタフなゲームになった。
1回戦は打ち合い。9-3の8回に國學院大の代打大坪亮介(3年、桐光学園)に満塁本塁打を浴び、2点差に詰め寄られたが、なんとか逃げ切って先勝。2回戦は國學院大の先発小玉和樹(4年、佼成学園)の前に5安打完封を喫し、0-3で負けた。3回戦は3回に五十幡亮汰(3年、佐野日大)のタイムリーツーベースで挙げた1点を植田健人(2年、興國)から後藤茂基(2年、城西)への継投で守りきり、1-0での勝利。三つ目の勝ち点を奪い、優勝に大きく前進した。

優勝を決めた4カード目、立正大2回戦は劣勢だった。1-5で迎えた8回裏、3四球に4安打を集めて一挙6点。7-5とひっくり返した。9回表から登板した皆川喬涼(きょうすけ、2年、前橋育英)が立正大の神保翔(4年、埼玉栄)にソロホームランを浴びたが、後続を断って逃げ切った。

「打」の主役は牧、「投」の主役は後藤

野手で主役級の働きだったのが4番の牧秀悟(3年、松本一)だ。2番五十幡、3番内山京祐(3年、習志野)とともに、1年生のころから公式戦に出場。昨年の苦しい戦いも経験した。この春のリーグ戦で首位打者となり、夏には侍ジャパン大学代表の一員として日米大学野球に出場。ジャパンで4番を打ったことで自信をつけ、秋も36打数13安打の打率3割6分1厘(10月27日現在、リーグ3位)、1本塁打、14打点(同1位)の大活躍だった。

リーグ最終戦後、スタンドの仲間の呼びかけに応える牧

「前にも後ろにも頼れるバッターがいるので、プレッシャーなく振れてます。自分の仕事はチャンスでランナーを返すことです」。牧はチーム全体の打力の高さ、勢いを強調した。

投手陣で主役の仕事だったのは後藤だ。リリーフとして試合の後半を締めた。10試合に登板して4勝0敗、36イニングを投げて10失点(自責点5)。防御率は1.25だった。最終週の東洋大1回戦では先発して6回3分の1を無失点。それまで防御率争いでトップにいた東洋大の村上頌樹(3年、智辯学園)の1.26を下回ったところで降板。後藤が1位に立った。「村上さんに勝てたのは、すごく自信になります」。その試合後、後藤は話した。

最優秀防御率のタイトルに輝いた後藤(右)

捕手の古賀悠斗(2年、福岡大大濠)も「ピッチャー全員が頑張ったと思いますけど、後藤が後ろにいてくれるという安心感は大きかったです」と、後藤の存在の大きさを認めている。

「大学野球は4年生の存在が大きい」

リーグ最終戦の東洋大2回戦は、この秋の戦いぶりを象徴するような展開になった。序盤に4点リードを許したが、4回に2点、5回に1点を返し、1点差に詰め寄った。8回に代打倉石匠己(3年、東海大市原望洋)のタイムリーツーベースで追いつき、9回は4番牧のタイムリーツーベースで勝ち越した。その裏を3番手の皆川がきっちり3人で抑え、完全優勝が決まった。4回に追い上げの起点となる2ランを放ったのは、この秋、出場機会の少なかった五十嵐滉希(4年、関東一)だった。

完全優勝を決め、笑顔の4年生たち(右から大工原、小野寺、五十嵐)

「大学野球は4年生の存在が大きいと常々思ってます。4年生のレギュラーは大工原と小野寺(祐哉、4年、白鷗大足利)だけですが、この二人がすごくチームを引っ張ってくれた。メンバーに入れなかった4年生も応戦席で声を張り上げてくれて、力になりました」と清水監督。スタメンに8番小野寺、9番大工原と並ぶ試合がこの秋、6度あった。上位を打つイケイケの3年生、2年生、1年生を支える4年生の2人は「縁の下の力持ち」。そんなふうにも見えた。

11月15日開幕の明治神宮大会では、1974年の第5回大会以来の優勝を狙う。
「勝ち点5を取れたということで、本当に東都の代表になったという自覚が持てました。プレッシャーで気負うことなく、日本一に挑戦できるのを楽しみたいです」と、主将の大工原は言った。

「逆襲」のストーリーは明治神宮大会へと続く。

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