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特集:第50回明治神宮野球大会

東海大相模で夏の甲子園V 過去の栄光と闘った東海大の四人が狙う日本一

四人で着るタテジマのユニホームも7年目になる(撮影・樫本ゆき)

第50回明治神宮野球大会

11月18日@神宮球場
準々決勝 東海大(首都)7ー3 中央大(東都)

第50回記念明治神宮大会で11月19日、東海大が準決勝で関西大と対戦する。2015年夏の甲子園で優勝した東海大相模高(神奈川)からの同期である主将の長倉連、千野啓二郎、宮地恭平、杉崎成輝という四人の4年生が、今大会はそろって2試合連続でスタメン出場。勝利に貢献してきた。覚悟と特別な思いを持って再び挑む彼らの「日本一」とは?

一回取ってるから、日本一の難しさが分かる

甲子園で全国制覇を果たした夏から4年。大学で再びその頂を目指すチャンスがやってきた。東海大相模出身の四人に改めて聞いてみた。「日本一とは?」と。

準決勝で「1000年に1度のファインプレー」を披露した長倉(ゲーム写真はすべて撮影・佐伯航平)

長倉「報われる瞬間、かな。やってきたことが間違っていなかったんだという実感。すべてを無にして、心から喜べる瞬間」
千野「勝って終われる、というのはすごいこと。またあのときの喜びを味わいたい」
杉崎「日本一という目標があるから成長できる。決勝にいけば友だちもたくさん応援に来てくれる。自分を奮い立たせてくれるもの」
宮地「一回取ってるからこそ難しさが分かる。そこまでの厳しさを知ってるから、軽々しく口にできないもの」

大会前の練習を終えたあと、四人が神妙な顔つきで言った。宮地は「けが人もいて、いまの現状を考えるとすごく厳しい戦いになる」と慎重だった。右ひじの違和感を抱えるエース山﨑伊織(3年、明石商)の調子や、全体的な打力を考えると優勝への発言は慎重になる。だからこそ、これまでの「経験力」やつなぐ意識が必要だと、四人は気を引き締めていた。

「神宮でできるのは最高だよね」
「最後だからさ、もう楽しもうぜ」
「観客も多くていいよね」
「友だちいっぱい呼ぼうっと」

5回に同点打を放った千野

真剣モードの発言のあと、四人は「楽しむ」を強調した。1番打者で初のリーグ首位打者を獲得した千野。「つなぎ役」としてエンドランやバントを確実に決めた宮地。守備範囲の広さと、抜群の勝負強さを持つ杉崎、正捕手の座は海野隆司(4年、関西=ソフトバンク2位指名)に奪われたが、リーグ戦では代打で10割の打率を残した主将の長倉。彼らはそれぞれの色でチームに貢献してきた。7年間寝食をともにし、気心知れた兄弟のような盟友は、大会が終われば別々の道を歩むことになる。中でも長倉は、野球人生にピリオドを打つと決めている。四人は日本一の挑戦権があることの幸せをかみしめながら「日本一はやっぱりいいもの。取りたいです!」と、誓い合った。

達成感がピークで、大学では本気になれなかった

リセットか、アップロードか。高校時代の全国制覇は、そのあとの野球観を大きく変えてしまった。よくも悪くも。

長倉は告白する。「大学に入学したあと、みんな(ほかの三人)はAチームに呼ばれたり活躍してるのに、自分は自堕落な生活をしてました。大学は高校のようにうまくいかなくて……。1年間は廃人のような生活でした」。優勝のあと高校ジャパンにも選ばれ、華やかな高校野球を味わった杉崎も続ける。「満足感? 達成感? なんかそんなのがピークに達しちゃって。大学でも日本一になりたいって気持ちはあったけど、本気になれずに……。下級生のときは当番も『ダルイな~』って思いながらやってました」。千野は入学当時に「いつまでも優勝に浸ってたら前に進めない」と話していたが、「本気になれたのは3年の秋ごろですよ」と打ち明ける。宮地は4年間けがばかり。モチベーションを保つのに苦労し、悔しさと戦ってきた。チームも勝てず、高校時代の栄光に蓋をしたいと思った時期も、正直あった。

消えかけていた夢が動き出した

2017年2月に安藤強監督が就任。強化策が変わり、陰に隠れてしまっていた選手たちもチャンスがもらえるようになった。そしてチームは好転した。18年春、3年ぶりに大学選手権に出場。この春は選手権で4強入り。消えかけていた四人の「日本一」への夢が再び動き出した。4年ぶりに出場する明治神宮大会が最後のチャンス。燃えないわけがなかった。

ファインプレーを見せた杉崎

準々決勝の中央大戦はファースト長倉、セカンド千野、ショート杉崎、センター宮地というスタメンとなった。1点ビハインドの5回。2死から9番竹内、千野、宮地の3連続安打で同点とし、杉崎がレフトオーバーの2点ツーベースを放ち、勝ち越した。四人は守備でも活躍した。4回、無死一塁。マウンド付近へ高く上がったバントの落下点に長倉が滑り込んで好捕。「1000年に1回のファインプレーですよ」と笑った。8回1死一、二塁の場面は、杉崎がレフト前へ抜けそうな打球に飛びつき、倒れたままの姿勢で二塁へ送球。走者を封殺した。宮地は風を読んで深めに守り、打球から目切りをせず、「ナイター守備」に努めた。チーム失策はゼロ。落ち着きが逆転勝利をもたらした。

2安打を放った宮地

「さすが大舞台には強いですね」と聞くと「たまたまっす!」と杉崎。プレッシャーを楽しんでいるように見えた。「今日は門馬監督(東海大相模)も見に来てくれて、スタメン発表を見て『お! きょう相模の日じゃん!』って盛り上がってました。日本一になりたい。その気持ちが打席の自分にパワーをくれます」と杉崎。1度は苦しみも味わった「日本一」の経験。4年経ってやっと、野球人生のアップロードにつながった。この仲間と、今日も試合ができる。大学日本一まであと二つ。

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