役者が揃った中央大、明治神宮大会で40年ぶり悲願の日本一を目指す
中央大は東都大学野球秋季リーグを完全優勝し、11月15日からの明治神宮大会に挑む。振り返るとちょうど1年前、中大は2季連続で1部6位と苦汁をなめ、入替戦に向けた準備をしていた。入替戦は専修大相手に4年生の活躍もあって2連勝。1部の座を死守した。
スローガンは「逆襲~勝利への渇望~」
そして動き出した新チーム。勝利に飢えた選手たちが掲げたスローガンは「逆襲~勝利への渇望~」。神宮をかけた崖っぷちの入替戦という独特の緊張感を経験したのち、練習を積み重ねた選手たちは、春季リーグ2位と躍進を遂げた。それでも選手の口から数多く聞かれたのは「まだ本当の『逆襲』はできてない。秋は優勝しかない」という言葉。リーグ開幕前から優勝に向けて覚悟と自信はひしひしと伝わってきていた。
秋季リーグ戦では中大の強さが際だった。1イニング8点の猛攻で快勝、1-0の完封勝ち、じわじわ点差を詰めて4点差をひっくり返す粘り勝ちなど、実に多彩な勝ちパターンが続いた。終わってみれば10勝1敗で勝ち点5の完全優勝。春季リーグの開幕カードとなった東洋大戦で勝ち点を落として以降は、リーグ戦で1度も他大学に勝ち点を与えなかった。まさに有言実行の華麗なる「逆襲劇」。リーグ優勝は当時主将だった亀井善行氏(現・読売ジャイアンツ)らがなしとげて以来15年ぶり。完全優勝は実に47年ぶりの快挙だった。
3年生カルテットを中心とした破壊力抜群の打線
清水達也監督は昨年との違いについて「去年もリーグ戦の中で一生懸命やってたんだけど、プレーする中で自信がないというか……。不安を持ちながらで、落ちたらいけないっていう負の要素の中でやってたから、思い切った判断ができてなかった。でもこういう経験をしたことでいまがあると思うし、今年はみんなのびのびと神宮で野球をできていたなと思う」と語る。
今年のチームの大きな武器となっているのは、破壊力抜群の打線だ。打線の軸となるのは4番に座る牧秀悟(3年、松本第一)。春季リーグで打率4割をマークし、大学日本代表に選出されると、その勝負強さを買われて代表でも4番に抜擢された。いまや大学球界を代表する「打の主役」となった。注目度も増し、一層マークが厳しくなった秋季リーグでも「甘い球が来たら一球で仕留められるように」と進化を続け、打率3割6分1厘、打点は14を稼ぎ出して文句なしのリーグMVPとベストナインに選出された。
また、牧の前後には「前後にいい打者がそろってるので思い切っていける」と主砲が全幅の信頼を置く同級生の3選手が並ぶ。快足自慢のスピードスター五十幡亮汰(3年、佐野日大)、バットコントロールが光るヒットメーカー内山京祐(3年、習志野)、勝負強いパワーヒッター倉石匠己(3年、東海大市原望洋)だ。2~5番に名を連ねるタイプの異なる経験豊富な3年生4選手が、チームの得点源だ。
ベストナイン選出の五十幡、快足で魅せる
その中でもとくに、ベストナインに外野手部門で満票選出された五十幡は、今年の中大を語る上では欠かせない存在だ。得点13、盗塁9はリーグトップで、チャンスがあればセーフティーバントや三盗も果敢に狙い、幾度となく好機を演出。「どんな形でも塁に出て相手にプレッシャーを与えたい」と、東都を代表するスピードスターは塁上での仕事を一番に考えている。
今季は打率も3割に乗せ、相手ベンチからは「あれ捕るのはやばいって……」とため息が漏れるほどの守備範囲を持つなど、自慢の「脚」でグラウンドを縦横無尽に駆け巡った。「外野の間を抜ければ常に三塁打を狙っている」という、自他ともに認める脚力は対戦相手にとって脅威になるに違いない。日本一をかけた晩秋の神宮決戦でも万能2番打者が躍動することだろう。
投手タイトルを総なめにしたリリーフエース後藤
投手陣も野手陣に負けてはいない。後藤茂基(2年、城西大城西)は主にリリーフでの登板だったが、全11試合中10試合に登板し、長いシーズンを第一線で戦い抜いた。防御率1.25、勝率1.00と圧巻の成績を残し、最優秀投手と最優秀防御率、ベストナインのタイトルを獲得。投手タイトルを総なめにした。
東洋大1回戦では初となる先発登板。6回3分の1を無失点に抑えれば、東洋大の村上頌樹(しょうき、3年、智弁学園)を抜いて防御率トップとなるマウンドだった。1失点でもすれば目前で初のタイトルを逃す。本人いわく「すごいプレッシャー」の中での登板となったが、落ち着いたマウンドさばきでリズムよくアウトを積み重ね、防御率トップの座をたぐり寄せた。
今季はリリーフ中心だったため、ピンチでマウンドに上がることもしばしば。それでも「緊張するタイプでもないので」としなやかな腕の振りから、直球・変化球を織り交ぜながらテンポよく打者を打ちとっていく。力強いストレートで東都の猛者たちのバットをへし折る場面も数多く見られ、試合を追うごとにマウンドで笑顔も見られた。「とくに意識はしてないけど、自分の中で楽しめてる」とその強心臓は大舞台向きだ。高校・大学を通じて初の全国の舞台となるが、東都を制圧したリリーフエースは神宮大会でも輝きを放つはずだ。
先発に欠かせない皆川の力投
主にこの秋に先発としてマウンドに上がったのは植田健人(2年、興国)と皆川喬涼(2年、前橋育英)の両右腕だ。植田は春季リーグ開幕カードで好投を見せると、その後は先発として投手陣に欠かせない存在となった。秋季リーグは主に1回戦の先発として登板。「初戦で投げさせてもらえる喜びを感じていた」と出場した試合ではしっかりと試合を作り、十分に役割を果たした。天王山となった國學院大3回戦では植田→後藤の完封リレー。大一番で見せた完封勝利は実に5季ぶりだった。
皆川は1年生のときに入替戦でも登板して残留に貢献したものの、2年生の春はコントロールに苦しみ本来の力を発揮できず。清水監督からも「投手陣のキーマン」と開幕前に名前を挙げられていた。そして迎えた秋季リーグ。亜細亜大との開幕カード二回戦に先発すると、6回無失点の好投で勝ち投手となった。
常時140kmを超える真っすぐが魅力だが、「どうすれば抑えられるかオープン戦の間考えて、力が入りすぎないように心がけた」。そこから安定した投球でローテーションを守り抜き、リーグ終盤では試合を締めくくる抑えとしてマルチな活躍を見せた。「期待してもらってるので、何としても活躍したいという思いはある」と皆川は話す。高3夏の甲子園以来の全国の舞台でも期待に応える快投を見せたいところだ。
後藤、植田、皆川の2年生トリオに加えて、投手陣には経験豊富なサウスポーエース畠中優大(3年、樟南)や先発・中継ぎとフル回転した水谷康希(3年、浜田)がおり、まさに多士済々の顔ぶれだ。これらの多彩な投手陣を引っ張る古賀悠斗(2年、福岡大大濠)は強気のリードと強肩でチームを何度も救ってきた。強力な攻撃陣に加え、バッテリーの力も今年の中大の新たな武器となっている。
神宮大会は指名打者制度を採用している東都大学リーグとは異なり、投手が打席に立つことになる。中大は主に外野手の倉石を指名打者として起用していたため、外野手の起用法は一つの大きなポイントだ。頼れる主将の大工原、ベストナインの五十幡、リーグでは5番を打った倉石、大学JAPANにも選出されたスーパールーキー森下翔太(1年、東海大相模)、打撃好調で俊足巧打の坂巻尚哉(3年、千葉経済大附属)の5選手がスタメン候補。清水監督は「相手投手や個人個人の調子を見ながら使っていきたい」と話しており、その采配にも注目だ。
40年ぶり、悲願の日本一へ
4年生にとっては泣いても笑っても最後の大会。1年間チームを引っ張ってきた大工原主将について訪ねると「4年生全員でカバーしてあげることができた。そうしてやりたくなる人柄を持ってる」(小野寺祐哉、4年、白鷗大足利)、「プレーでも言葉でもチームを鼓舞できる。バントの練習なども一生懸命やってて、本当にいい先輩だなと思う」(植田)と返ってきた。
ファーストからチームを鼓舞し続け、今季は二桁安打も放った小野寺も、このチームを引っ張る4年生。清水監督も「試合にメイン出ていたのは大工原と小野寺だったけど、この二人が中心になって打つべきところとか粘った方がいいところとかバントとか、流れ流れでいい仕事をしてくれた」と4年生の存在の大きさを語った。
このチームで戦えるのも最大で3試合。戦国東都を制した代表として全国の舞台に乗り込む。「目標は日本一。そのスタートラインに立てた」と大工原主将。昨年の明治神宮大会では、東都代表として出場した立正大が見事優勝を果たした。
そして今年は中大が、東都勢連覇に向けて全国の舞台で戦える切符を手にした。「逆襲」の物語はついに最終章へ。東都のプライドを胸に、全21大学の代表として「リーグ戦と同様に最後まであきらめない粘り強い野球を見せたいし、やっていきたい」(清水監督)。勢いそのままに日本一へのビクトリーロードを突き進み、40年ぶりの頂点をつかんでみせる。