大学野球

連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

特集:第50回明治神宮野球大会

15年ぶりに神宮大会に出た中央大 後輩たちの集大成を見守った前主将

スタンドからチームを見守った昨年の主将・吉田くん(すべて撮影・佐伯航平)

秋の大学野球日本一を決める明治神宮大会は、慶應義塾大学の19年ぶりの優勝で幕を閉じました。野球応援団長の笠川真一朗さんが観戦して気になった選手について取材し、独特の視点からつづります。11月18日の大会第4日、東海大学と中央大学の準々決勝からです。

神宮のスタンドにやってきた前主将

初戦に見事な逆転で東北福祉大に勝ち、勢いに乗る東海大。そして15年ぶりの出場となる東都代表の中央大。誰がどう見てもワクワクする両チームの対戦となりました。東海大が初戦に続き、中盤以降の逆転で勝利。中央大は残念ながら敗退となりました。

試合リポート 東海大が逆転で中央大を下す

僕が注目したのは、試合に出ている選手ではなく、中央大を卒業した野球部OBの方です。

この試合前のこと。スタンドで試合が始まるのを待っていると、ある男性が僕のところに挨拶(あいさつ)に来てくれました。昨年の中央大の主将だった吉田叡生(としき)君(佐野日大)です。吉田君は現在、社会人野球のHondaで外野手として早くも活躍しています。そしてJABA(日本野球連盟)選抜にも入り、いままさに台湾で開催中のウィンターリーグに参加している有望な選手です。

吉田君と僕の出会いは、僕がアルバイトをしている肉割烹のお店に何度か食べに来てくれたのがきっかけです(笑)。挨拶に来てくれたとき、吉田君が全国大会を戦う後輩たちをどう見るのかが気になりました。せっかくだから話を聞きながら一緒に試合を見たいと思ったので吉田くんに聞いてみると「ぜひ! 話させてください!」と引き受けてくれました。
ありがとう、吉田君!

うれしいけど悔しい……。複雑な気持ち

まず東都のリーグ戦で15年ぶりの優勝を果たして神宮大会に出る後輩たちをどう見ていたのか尋ねました。「いい選手が新チームに残っているのは当然分かってましたけど、まさかここまでやるとは思わなかった。リーグ戦優勝はOBとしてうれしかったです!」と、率直な気持ちを口にしました。

しかしその反面、悔しい気持ちもあるのを打ち明けてくれました。「正直、このチームのリーグ戦の結果は見ないようにしてました。僕が主将だった去年は春、秋とリーグ戦で最下位になっていたのもあって。それが本当にいまでも悔しくて、自分からは結果を見られなかったですね。自分がいないから勝てると思われるのも、すごく嫌で。でも後輩たちがリーグ戦で勝ち続けるたびに勝手に話が耳に入ってきました。うれしい気持ちもあるんです。あるんですけど、正直、悔しかったです」

神宮の大舞台でのびのびとプレーする選手たち

卒業しても忘れられないほどの悔しさが、吉田くんには残っています。そういった悔しさを後輩たちには残してほしくないと「自分たちのようにはならないように」「口だけで終わらないように優勝してほしい」という言葉を、後輩たちに残して野球部を引退したそうです。チームとしていい結果を出せずに引退するのはとても悔しいです。その気持ちは僕も現役時代にあったので、気持ちが少し分かりました。主将として最前線でチームを引っ張った吉田くんには、到底かないませんが。

試合を楽しむ後輩への優しい目線

試合中、後輩のプレーを見守りながら「生き生きしてますよね。楽しそうにプレーしている。僕も社会人で試合中は楽しくやることを学びました。自分たちのプレーに自信を持ってるのが、見てて分かります。僕が主将だったときは、試合中に笑うことなんてほぼなかったですから。でも僕もHondaで試合は楽しむということを学んで実践してます。後輩はもうそれができてるので、すごく立派なことだと思います」と話してくれました。

吉田君から主将を受け継いだ大工原壱成君(4年、桐光学園)が、第1打席で先制点につながるヒットを放つと「頼もしいですね。プレーでもしっかりチームを引っ張ってます」と、主将の活躍をたたえました。

吉田君の中にある大工原君の印象は「言いたいことを、誰にでもしっかり伝えられる人間です。気持ちが強い選手だと思います」とのこと。主将にふさわしい人間であることが、しっかり伝わってきました。

引退してからも、大工原君から個人的な悩みやチームづくりについての相談を受けることもあったそうです。「僕はもうチームにいない人間なので、ああしろ、こうしろ、とか言う権利はないです。大工原には『主将らしく自分のやりたいようにやったらいい。それでもチームからは批判も肯定もどちら出ると思うけど、自分のやり方を貫いてやったらいい』と。それが一番いいと思って、そう伝えました」。チームづくりについて聞くと、「新チームが始まるときに、それぞれの代によってチームのカラーが決まります。僕が主将のときは監督の思いを立てながら、それを選手につなぐというやり方でした。でも、いまのチームは自分たちの意志とか主体性を大切にしているのかな、と見てて思います。どのやり方が正しいとか間違ってるとか、チームづくりに正解はないんですけど、このチームはこれで勝ってきたから、しっかりまとまってるはずです」と、語ってくれました。

芯が強くなって、今年の活躍につながった

そして今シーズンの中央大の強さの要因を前主将がどう見るのかを尋ねました。「芯が強くなったのかなと思います。去年から試合に出ている選手も残っていますから、春、秋と最下位になって入れ替え戦でなんとか踏ん張れたことも経験しています。負けることのつらさや怖さも知ってますし、この秋のリーグ戦で勝つことも知った。こいつらにもう怖いものはないと思います」と、グラウンド上の後輩を見つめながら語ってくれました。

プレーを見つめる眼差しはあたたかく、真剣でした

「これ以上負けられない」というところで2シーズン連続で入れ替え戦に勝って1部に残り続けた昨年の中央大。今年はまさに最下位からの逆襲です。秋は完全優勝で戦国東都を勝ち抜きました。「そう思うと、本当に2部に落とさなくてよかったなと思いますね……」。吉田くんが少し微笑みました。

残念ながら中央大は中盤に逆転を許し、敗れてしまいました。それでも秋のリーグ戦が始まってからここまでの戦いは本当に見事でした。メンバーに入った数少ない4年生がチームを引っ張り、下の学年の選手たちもしっかりと実力を発揮していたのが印象深いです。試合後、吉田君は今年のチームの戦いぶりについて、「よくやったなと思います。自分も改めて頑張ろうと刺激をもらいました。ここで得た全国の舞台の経験を、次のチームも生かしてほしい。次は勝って笑って終われるように、全国で勝てるチームになってくれたらうれしいですね」。後輩たちをたたえ、さらなる向上への期待を語りました。

負け続けたことも財産

昨年のことを一つひとつ思い出すかのように悔しかった思いを語ってくれました。でも悔しいままで終わったわけではありません。負け続けたからこそ、その負けが現在の吉田くんを奮い立たせています。「たしかにリーグ戦で勝てなかったけど、解決しようと突き詰めて日々考えました。結果は出なかったけど、主将としてやりきった思いは僕の中にあります。オープン戦では勝てるのにリーグ戦で勝てない。つらさの方が大きくて、野球がおもしろくなかったです。そのくらいつらかった。でもその悔しさがあるから今、社会人でものすごく頑張れてます。その悔しい経験が自分の中で糧になっているので、それは大きな財産です。負け続けたからこそ、僕は勝ちに飢えてます。ここから先は勝ち続けたいです」。強い思いを口にしてくれました。すごくいい表情でした。選手のこの熱い気持ちを聞くたびに、僕は泣きそうになります。僕は燃えている選手が大好きです。とてもカッコいいと思いました。

やりきった現主将の大工原

試合後、主将として1年間チームを引っ張り続けた大工原君にも話を聞きました。最下位からの大逆襲、どんな思いでチーム作りをしてきたのか尋ねました。「1試合も負けられない。オープン戦からその気持ちを持って、気合を入れてやってきました。一回も負けない。勝ちグセをつける。そうして試合に臨んでたら、2、3点負けてても最終的に勝つ試合が増えて、いつでも逆転できるという自信がつきました。負けにくいチームになったと思います、」と振り返ってくれました。

大工原くんは「優勝をスタートにしてほしい」と語りました

試合に敗れたことについては「日本一をとりにきましたが、負けて悔しいです。やれることはやってきましたが、上には上がいると痛感しました」。ものすごく悔しそうな表情で語る姿がとても印象に残りました。

「14年間リーグ戦で優勝してなかった中で、自分たちのときに勝てたのはうれしかったし、僕自身も主将としてやりきった自信もあります。これからのチームには東都での優勝をゴールにするんじゃなくて、スタートにしてほしい。全国で勝てるチームになってほしいです」。大工原君も吉田君と同じように、主将としてやりきった自信と後輩への期待を口にしました。

大工原君も大きな財産を得て、大学野球を引退したことでしょう。

勝ち負けのすべてが人を成長させる

大学野球を引退しても競技を続ける選手もいれば、野球をやめる人もいます。勝った喜びばかりを覚えている人は数少ないと思います。負けた悔しさを覚えている人の方が多いんじゃないでしょうか。覚えているというか「忘れられない」の方が正しいかもしれません。勝つに越したことはありませんが、終わってみれば負けが人を成長させます。そしてその経験を生かして自分の人生を生き抜いていくのです。吉田君の話を聞いてると改めてそう思いました。

そしてその勝ち負けの中で得た経験は次の世代の選手たちに引き継がれます。「先輩たちは◯◯の部分が素晴らしかったから継続しよう」「先輩たちの◯◯の部分は良くなかったら改善しよう」良くも悪くもこうしたことの繰り返しで新しいチームは作られて進化を目指します。

経験のすべてが、その後の人生につながっていきます

勝っても負けてもチームから出ていく選手がいて、チームに入ってくる選手が毎年います。勝っても負けても新しいチームの力になっていることが、スポーツの魅力のひとつだと僕は思います。

個人が何を得て次のステージに向かうか、チームに何を残して次のステージに向かうのか。チームに貢献できることは山ほどあります。この気持ちを日々持って取り組めば、きっと素晴らしい競技生活とその後の人生を送れると信じています。結果だけがすべてじゃないと思いますが、ひとつの結果がその後の人生を左右するひとつの要素になります。それは野球だけじゃなくて、すべてのスポーツに共通することです。

やっぱりスポーツって素晴らしいです。
昨年、東都で最も負けたチームから、今年、東都で最も勝つチームになった中央大の大逆襲。昨年の主将と今年の主将の話を聞いて、いろんなことを感じました。

吉田君は社会人野球の世界でプロを目指し、大工原君も社会人野球の道へ。そして中央大は全国で勝てるチームを目指します。僕も心の奥底から突き動かされた気持ちです。改めてこれまでの勝ち負けから得た気持ちを思い返して、人生に生かしていこうと思いました。

ありがとう、吉田君!
ありがとう、大工原君!
ありがとう、中央大学!

僕も頑張ります!

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