東海大・串畑勇誠 熱き男の悔し涙、来年は先輩の分までやって日本一を!
秋の大学野球日本一を決める明治神宮大会は、慶應義塾大学の19年ぶりの優勝で幕を閉じました。野球応援団長の笠川真一朗さんが観戦して気になった選手について取材し、独特の視点からつづります。春の全日本大学野球選手権に続き、今大会もベスト4という戦績を残した東海大学。明るい表情でさっそうとグラウンドを駆け回る串畑勇誠選手(3年、広陵)に注目しました。
「この子、何か起こしそう!」
東海大は1回戦、準々決勝、準決勝と3試合連続で先制点を奪われるという苦しい展開になりました。しかしすべての試合で、偶然にも0-3のビハインドから試合をひっくり返しました。「日本一になるぞ!」「絶対に負けないぞ!」という強い執念や意気込みを感じる戦いぶりに、心を打たれました。
そして東海大に「この子、何か起こしそう!」と期待せずにはいられない選手がいました。その男こそが串畑勇誠君です。風のようにグラウンドを駆け回る姿、そして気迫が前面に出た思い切りのいいプレー。とにかく目立つのです。光っているのです。深い理由はとくにありません、とにかくかっこいい。走塁においては抜群のスタートセンスを感じました。
勝負どころの場面で必ず活躍
今大会、すべての試合で出塁し、すべての試合で盗塁を決めた串畑君。3試合で5盗塁の活躍は圧巻でした。何より印象に残ったのは、試合の勝負どころに必ず串畑君が絡んでいたことでした。
東北福祉大との1回戦。5ー5で迎えた東海大の5回裏の攻撃。この回に東海大は3点を勝ち越しました。串畑君はこの回にタイムリーを放ち、すかさず二盗、三盗を決め、捕手の悪送球でホームに返ります。そして同点で迎えた9回裏の攻撃、2死満塁の場面で打席に入ると、相手のエラー(悪送球)を誘う投ゴロを放ち、サヨナラ勝ちに大きく貢献しました。「何かを持っている」と感じずにはいられない活躍でした。とてつもなく勢いを感じる選手に思えたので、試合後に「本当に楽しそうにプレーをしてるし、強い気迫を感じた」と彼に伝えてみると「大きな舞台を楽しんでます。自分の力をいっぱい出したい」と、優しい表情で話してくれました。外から見ているとキリッとした表情に見えますが、話を聞いていると、とても表情が柔らかい。そこもまた印象的でした。
準々決勝でも盗塁を記録しました。残念ながら負けた準決勝の関西大戦。2-3とビハインドの展開で迎えた4回裏の攻撃で、見事に同点となる長打を放ちました。そして何よりシビれたのが、5-6で迎えた9回裏の攻撃です。
勇気ある盗塁で流れを引き寄せる
先頭が倒れ、続いて串畑君。四球で塁に出ると、初戦と同じように二盗、三盗を決めます。ここでアウトになるとそれこそ後がなくなというる厳しい状況でした。そこで一気にチームに流れを持ってくる、素晴らしく勇気のある二つの盗塁でした。すごくかっこよかったです。「ノーサインです。僕が二盗、三盗できたら絶対に同点になると思って走りました」と自分の判断だと明かしました。そしてその串畑くんの強い気持ちをしっかり受け取ったかのように千野啓二郎君(4年、東海大相模)が同点タイムリーを放ち、延長戦へ突入しました。
串畑君の9回の盗塁は、今年の明治神宮大会で最も印象に残る場面だったと感じます。本当にシビれました。
タイブレークで迎えた10回裏。7-8と1点を追って2死満塁。これまでチームに何度も貢献してきた串畑君が打席へ。「絶対に打ちたかった」と臨んだ打席で初球のストレートを振り切りましたが、ショートゴロに終わり、ゲームセット。
ここまでチームを救ってきた串畑君のところで試合が終わってしまい、僕も見ていて胸が痛かったです。野球には時としてこういうことが起こります。串畑君にとっては「4年生と一緒に日本一」という目標を立てていただけに、とても悔しい形で今シーズンを終えることになりました。
4年生と一緒に日本一になりたかった
試合後に話を聞かせてもらおうと取材エリアで待っていると、串畑君は大粒の涙を流しながら歩いてきました。試合後に悔し涙を流す選手に話を聞くのは、初めてです。「懸ける思い」が強いからこそ、涙が溢れてくるのです。それは僕にもしっかり分かるので、胸が熱くなりました。「いま、この子がいちばん悔しいときに、本来なら人に話などしたくないときに、感情や言葉をしっかりと引き出して伝えていくのが僕の務めなんだな」と思いました。
串畑君に率直に試合後の気持ちを聞いてみると「悔しいです。4年生がいなかったらここまで来られなかった。日本一になれなくてすごく悔しい。絶対に帰ってきたい。日本一になります」と、言葉を振り絞るように話してくれました。本当に日本一になろうとしてグラウンドに立っている選手の強い強い気持ちに触れたことで、もらい泣きしそうになりました。
初戦の試合後に話を聞いたときも、串畑君は4年生に感謝する言葉を数多く口にしていました。敗れた試合後でも同じように、4年生への気持ちを語ってくれました。「4年生には本当にかわいがってもらいました。頼れる先輩たちです。何でも相談できるし、逆に相談もしてくれるし、私生活でもいっぱい遊びました。4年生がいたから僕も頑張れてたので、感謝しかありません。悔しいこともあったけど、一緒に乗り越えてきた。だからこそ一緒に日本一になりたかった」。そう言って、また涙を流しました。
串畑君は心から信頼する4年生から、試合後にこんな声をかけられたそうです。
「お前がいなかったら、ここまで絶対にこられなかった」
ともに支え合ってプレーしてきた信頼できる先輩にもらう言葉は、いつも偉大なものです。
串畑君にとってものすごくうれしかったと思います。横のつながりはもちろん、縦のつながりもしっかりしてるチームは、見ていて魅力的です。東海大の絆の強さを感じました。
春は佛教大に負けて全国ベスト4、秋に関大に負けてまた全国ベスト4と、春を上回れなかった東海大。はたから見れば2シーズン連続で全国ベスト4の成績は素晴らしいものです。しかし彼らは納得していません。毎年、本気で日本一を狙っている素晴らしいチームです。もう少しだから、日本一までもう少しだから、悔しさも余計に強いのだと思います。ここからまた、4年生と一緒には果たせなかった日本一への挑戦が続きます。
ここぞの場面で打てるバッターに
串畑君は来年の日本一に向けて強い気持ちを語ってくれました。「覚悟はあります。僕はメンバーに入っている数少ない3年生です。その経験を生かして、プレーや行動でしっかり伝えていきたい。次は僕が頼れる先輩になれるように、下の学年を引っ張っていきます」。もうその目に涙はありません。まっすぐな表情で語ってくれました。
もちろんチームとしてではなく、ひとりの選手として思い描くものもあります。「自分の役目は足でかき回すことです。それが自分の生きるところ。足は誰にも負けたくないし、自信があります。(今大会で)そこができたのはよかった。そして、ここぞの場面で1本出せるバッターになりたい。今日も最後の打席でミスショットをしてしまいました。まだまだミスショットが多いので、この冬にしっかり練習します。もっともっと足でも打席でも相手に嫌がられる選手にならないといけないです」。前のめりになって語ってくれました。そして「上のステージではどうするの?」と聞いてみると「もちろんプロ野球の世界です」と、少々食い気味に答えてくれました。行けたらいい、というような答え方では確実にありませんでした。プロ野球に対する強い気持ちを、彼の語り口から感じとれました。
グラウンドで誰よりも感情をむき出しにして、気持ちが前面に出ている選手は見ていて気持ちいいです。何度も言いますが、感情をまっすぐに表現する串畑君がかっこよかった。とても魅力を感じました。泣くことは恥ずかしいことではありません、笑うことも悪いことではありません。個人的には、グラウンドで気持ちを前面に出せるのは大きな才能だと思います。
来年こそは、今年の4年生の分までやって日本一。
そしてプロ野球の世界を目指して。僕は串畑君の挑戦を応援します!
あの串畑君の華々しさとプレーを見ていて抱いてしまう期待感。
どうしてもプロの世界で見たいなぁと思ってしまいました…
この気持ちは源田(壮亮、現西武ライオンズ)さんの大学時代のプレーを見たときの気持ちと似ているので、追いかけようと思います(笑)。
ありがとう串畑君!!!
僕も人生頑張ります!!!