野球

連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

特集:第50回明治神宮野球大会

九州産業大・柳内一輝 チームを支え続けた前キャプテンのラストゲーム

リードオフマンとしての仕事をきっちりこなした柳内(すべて撮影・佐伯航平)
関大の坂之下晴人 バット短く、息長く 「守備職人」の2回生は全国でも堂々

秋の大学野球日本一を決める明治神宮大会は、慶應義塾大学の19年ぶりの優勝で幕を閉じました。野球応援団長の笠川真一朗さんが観戦して気になった選手について取材し、独特の視点からつづります。大会第2日の1回戦に登場した九州産業大の選手に注目しました。

多くの4年生が春のシーズン限りで引退

大会第2日で僕が注目したのは、第1試合の九州産業大学 対 金沢学院大学。序盤に九産大が4点を挙げますが、金沢学院大が中盤の猛攻で見事に逆転し、8対5で勝ちました。詳しい試合内容は、今回も割愛させていただきます(笑)。

19年ぶり出場の金沢学院大が0-4から九産大を逆転、秋の神宮で初勝利

九産大は敗れはしましたが、春の全日本大学選手権に続き、秋も全国の舞台に帰ってきました。4年生の柳内一輝内野手(九州学院)は、春の選手権が終わるまでは主将を務めた選手です。この試合中も、主将を務めた男らしい立派な存在感を放っていました。チームを支える最上級生としての雰囲気がとても印象的だったので、ついつい目をひかれました。1番セカンドで出場した柳内君は、5打席で1安打を含む3出塁とリードオフマンとしての仕事もきっちりこなす見事な活躍ぶりでした。

四球を選び出塁する柳内

全日本大学選手権のあと、九産大では就職活動の関係もあって、多くの4年生が引退しました。明治神宮大会でベンチに入った4年生は柳内君を含め4名だけ。次のステージでも野球を続ける選手たちはチームに残り、秋が終わるまで戦います。そういった方針を取る野球部は全国にはたくさんあると聞きます。僕がいた立正大学では、秋のリーグ戦が終わるまでは全員がチームに残るのが当たり前だったので、当時そういったチームの話を聞いてると「いろんな方針があるんだな」と、新鮮な気持ちになったのを覚えています。

前主将として臨んだ大学最後の大会

試合後、柳内君に話を聞かせてもらいました。チームに残った元主将は、どのような思いでこの最後の大会に臨んだのかをまず聞いてみました。「九州の代表としてここにきたので、日本一を狙いにきました。出る以上は日本一。そういう思いで挑んだので、負けてしまったことは残念です」と話してくれました。さすが、この春まで1年間チームを支えてきた主将です。その言葉に思いの強さをしっかりと感じました。

そして主将という大きな役割が、大学野球日本代表にも選出された3年生の児玉亮涼内野手(文徳)に引き継がれています。前主将から見た児玉君について聞きました。「秋までは主将をやる感じのタイプではなかったです。僕たち4年生についてくる感じでした。でも主将になってからは、自分より先にチームのことを考えるようになりましたし、いまはあいつがチームで一番声を出してます。主将をやることで成長できてるんじゃないかなと、僕は感じます」。立場や役割を与えられると、人は必ず育ちます。児玉君は日本代表になるぐらいですから、確実にチームを背負って引っ張っていかないとならない選手です。そういった選手が自分のこと、チームのことにしっかりと向き合うことで、もっと大きくて強い選手になっていくんだと思いました。

主将は1人だけど、独りじゃない

主将というポジションは本当に大変です。柳内君にも苦労はありました。「僕は主将になりたいと思ってました。そして主将になったときはうれしかったですし、絶対に勝てるチームにしようと思いました。『あの代は負けた』とか『あの代はダメだった』とか絶対に言われたくなかったので。主将を務めた立派な先輩の姿を見てきて、同じようになれたらと思いました。でも最初は周りも全然見えてなくて……。うまくいかなくてつらい時期もありました。でも普段から仲のよかった副将の光岡と橋西と三人で寮で話し合ったり、いろんなことで協力したり、共有したりすることで周りが見えるようになっていきました」。周囲の信頼できる仲間と手を取り合いながら、春、秋と全国大会に出場する素晴らしいチームをつくりあげたのです。

仲間の助けを借りながら、全国大会に出場するチームをつくりあげた

100人近くの部員が全員同じ方向を向くのは決して簡単ではありません。どのチームにも主将がいて、先頭に立ってチームをまとめます。主将の近くに立って一緒に強いチームをつくっていける人間が多ければ多いほど、そのチームの結束は強くなります。立場や役割を与えられると人は育つと書きましたが、与えられなくても自分の意思で立場や役割を見つけることも確実に重要なのです。結束が強いと、本当に強いチームになります。

主将はチームに1人だけど、主将は独りじゃありません。
柳内くんの表情や口調から、副将の二人にはとくに感謝している印象を受けました。

素晴らしいチームをつくり上げた前主将に、来年の春が終わるまで主将を務める児玉君にはどういうチームを作ってほしいかを聞きました。「メリハリがつけられるチームになってほしいです。これは僕たちも大切にしてきました。練習するときはとことんみんなで練習をする。そして休むときはしっかり休む。それは大切にしてほしいです。そしてどんな人が見ても『強くてキッチリしてるな』と思ってもらえるようなチームになってほしいです」と期待を寄せました。児玉くんも柳内君の姿を見て多くのことを学んだことでしょう。そして先ほども書いたように、主将の近くに立つ多くの選手の力も必要不可欠です。これからの九産大がどう成長していくのか、僕も楽しみでなりません。

あきらめないで、のめりこむ

主将としてチームと自分と向き合い、多くの苦労も乗り越えてきた柳内君に大学野球は楽しかったのか聞いてみました。「高校とはレベルがまったく違いました。ものすごくレベルが高いです。いろんなところからいろんな選手が集まる。その高いレベルでやれる野球は、とても楽しかったです」と、笑顔で話してくれました。

1年生の春からベンチに入り、2年生の春からセカンドのレギュラーに。そして3年生の秋に主将を務め、4年生の秋まで試合に出続けました。着実に選手としても実力をつけてレギュラーの座をつかみ、主将としてもチームを最後まで率先して引っ張ってきました。人間としても野球選手としても大きく成長できる4年間。それが大学野球の魅力なんじゃないかと思います。主将にしかわからない悩みやつらさもあったはずです。その経験がきっと、柳内君を大きくしたのだと思います。

これからも野球を続ける。チームの力になれる選手に、との思いを語る

柳内くんは社会人野球の世界でこれからも競技を続けます。「社会人野球ではさらにレベルが上がります。そのレベルの高いところで、チャンスでしっかり打てる、大事なところでチームの力になれる選手になります」。目標を語る彼のまっすぐな目と少し力強くなった口調に、僕も胸が熱くなりました。

彼に話を聞いていると、この子はとても立派で強い人間性を持っている選手だと感じたので「大学で野球を続ける人たち、これから大学で野球をする人たちに何か伝えたいことはありますか?」と聞いてみました。

「偉そうに言うわけじゃないですけど、野球はどのタイミングでどんな形でうまくなるか分かりません。だからダメなときもあきらめないで野球にしっかりのめり込んでほしいです。僕もそうしてきました」と話してくれました。要するに「やれるまでやる」ということなんだと解釈しました。

主将として、一人の選手として成長してきた柳内君。
これからの人生も、何でも乗り越えていくんだろうなと僕は思います。
かっこいい選手でした!
柳内君、4年間お疲れさまです!
社会人野球の世界でさらに成長した柳内君の雄姿が見られるのを心待ちにしてます!

頑張れ、柳内君!
頑張れ、九産大!

15年ぶりに神宮大会に出た中央大 後輩たちの集大成を見守った前主将

野球応援団長・笠川真一朗コラム

in Additionあわせて読みたい