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連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

特集:第50回明治神宮野球大会

慶應・中村健人 指名漏れを乗り越えて躍動、日本一を目指す前向きな男

全力でプレーし、楽しんでいる様子が伝わってきた中村くん(すべて撮影・武山智史)
初めてのドラフト取材で感じた、野球に関わるすべての人の思い

熱戦が繰り広げられている明治神宮大会。野球応援団長の笠川真一朗さんが気になった選手について、彼ならではの視点から語ってくれます。今回笠川さんが注目したのは、慶應義塾大の外野手・中村健人(4年、中京大中京)です。

プロ志望届を提出するも、指名のなかった外野手

明治神宮大会3日目、僕が注目したのは2試合目、東京六大学代表・慶應義塾大と、初戦を勝ち抜いた東海大札幌キャンパスの試合です。

六大学王者の慶應。バスから降りてくる選手たちの雰囲気や立ち振る舞いはとても凛々しく感じられました。これを見ると「さすが六大学だ」と思わざるを得ません。そしてアップが終わりグラウンドに向かっていく前の通路で待機しているときも気合がじゅうぶんに感じられて、僕も背筋を正される思いでした。東京六大学代表としての誇りや、この大会に向かっていく強い思いが確かにあふれていました。

試合は9-0の7回コールドで勝利。初回から6点の猛攻で一気に試合の主導権を握り、見事な投手リレーと守りで無失点。まさに圧巻の試合内容でした。初戦ならではの硬さがまったく感じられない、堂々たる戦いぶりでした。

慶應は堂々とした戦いぶりでした

僕が気になったのは慶應の1番打者・中村健人外野手です。今年のドラフト会議では慶應から4人の選手が指名を受けました。中村くんは「チャレンジしてみたい」とプロ志望届を提出し、プロ入りを目指しましたが、残念ながら指名はありませんでした。

一番打者として完璧な役割を果たす

実は彼とは一度会ったことがあり、とても誠実で明るい印象を受けていました。僕はそれから一方的に活躍を気にしていましたし、ドラフトの指名漏れも残念に思っていたのです。悔しい結果に終わった指名漏れを受けて、この大会までどのような気持ちで日々練習に励んだのか、そしてどのような思いで最後の神宮大会に挑んだのか。大会が始まったときからすごく気になっていました。

しかし試合が始まる前の中村くんを見ていると、表情には自然に笑顔があふれていて、楽しく野球をやっているように見受けられたのですごく安心しました。

中村くんのこの試合は、

1打席目 四球
2打席目 四球
3打席目 中安打
4打席目 犠打
5打席目 左中間3塁打

と文句のつけようがない活躍ぶり。1番打者として全打席しっかりと自分の役割を果たし、チームに大きな勢いと勇気を与えました。

1番バッターとして、文句のつけようがない働きぶりでした

試合後、中村くんに話を聞いてみました。「初戦おめでとう! 」と声をかけると満面の笑みで「ありがとうございます! 」と答えてくれました。

そしてドラフトの指名漏れについて。プレーを見ている感じだと整理はついてるように見えましたが、本人はどう感じているのかを聞きました。「完全に気持ちの整理はついてます。完全に実力足らずだと自分でも分かってるのでスッキリしてます! 」と、しっかりと切り替えているようでさらに安心しました。

監督の言葉で重圧から開放

ドラフト前のリーグ戦では重圧や緊張感もあり、「終盤はとくにブレーキがかかるように結果が出なかった」と振り返ります。しかしそんなときに大久保秀昭監督がかけてくれた「この試合で打つか打たないかで、スカウトは試合を見てないから」という言葉。この一言で気持ちが楽になったそうです。

レギュラーとして活躍してきた中村くんですが、この秋、一時は2年生の橋本典之外野手(2年、出雲)と定位置を争うこともありました。そんなときも気にかけて、声をかけてくれたのも大久保監督だったそうです。「右打者としての優位性もある。そして4年間やってきた経験値がお前にはあるんだから、そこで橋本と違うところが出せるだろう」。この言葉に「そこで勝負していいんだ。打つ打たない、じゃない」とプレー以外の面で余裕を持つことができたそうです。話を聞いていると、大久保監督への感謝を口にする場面がとても多く、選手と監督として素敵な関係を築いているんだなと感動しました。

中村くんが前を向けたのは、大久保監督の存在も大きいのだと感じます。

ひたすら前向きに、「圧倒する」!

そしてこの日、大活躍した中村くん。リーグ戦などの起用を見ると、打順が変わることが多い印象を僕は受けました。そういった起用に対してどのように対応しているのかを聞いてみました。「1番以外はその役割をまっとうしようと思ってます。でも1番を打つときは『自分で試合が決まる! というくらいの強い気持ちを持って試合に入ってます。今日も同じです。甘い球がきたら空振りオッケーでいく! そういう気持ちでした」と教えてくれました。

積極的なプレーは、見ていてとても気持ちよかったです!

今大会ではもちろん日本一を狙っていますが、どのような意気込みを持って挑んでいるのか、そして次戦への思いを聞きました。「慶應は過去のデータとかを見ると『全国大会に弱い』と言われたりしてたので、『圧倒するぞ! 』というくらいの強い気持ちを持って向かっていきたい。相手の隙を見てどんどん攻め立てていけたらと思います。一つひとつ勝ち上がっていきたいです! 」とハッキリと意気込みを語ってくれました。

次戦に向けては「城西国際大学は関東第一代表で、初戦も勝って勢いに乗ってます。受けて立たずに向かっていく! という気持ちです」とひたすら前向きで強い言葉がどんどん出てきました。

集大成として目指す日本一、そしてその先へ

「4年間、充実していてあっという間でした。野球に対する考え方や打席での心持ちなど大久保監督にたくさん教えていただいて、自分の中での野球観の土台、核を作り上げられたと思います」と、慶應で野球ができてよかったと心から語ってくれました。そして中村くんは卒業後も社会人野球の世界で野球を続けます。「もちろんプロを目指します! そこの目標は見失わず、社会人野球でもしっかり頑張ります! 」と力強く語ってくれました。

中村くんにとって大学で野球ができる最後の大会。その集大成として、日本一を堂々と力強く狙いにいく慶應の野球と彼の強い気持ちをしっかりと感じました。

大学最後の集大成として。そしてこれからも応援しています!

指名漏れに決して落ち込むこともなく、しっかりと前を向いて、自分の気持ちをハッキリと伝えてくれる中村くんの明るい表情は、本当にかっこいい野球人の表情でした。この4年間ものすごくいい経験をしたんだと思います。素敵で誠実な野球選手だと心から感じました。

慶應の次戦も、これからの中村くんのプレーも僕は楽しみです!

ありがとう、中村くん!
応援しています!

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野球応援団長・笠川真一朗コラム

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