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特集:第50回明治神宮野球大会

慶應の「ボンバー」髙橋佑樹、決勝の完封劇でハッピーエンド

明治神宮大会優勝の瞬間、慶應の髙橋(右)は駆け寄ってきた郡司(左)と抱き合う(すべて撮影・佐伯航平)

第50回明治神宮野球大会

11月20日@神宮球場
大学の部決勝 慶應義塾大(東京六)8-0 関西大(関西)

第50回明治神宮野球大会・大学の部決勝は、慶應義塾大(東京六)が関西大(関西)を8-0で破り、2000年の第31回大会以来となる19年ぶり4度目の優勝を飾った。慶應の先発、左の髙橋佑樹(4年、川越東)は7回まで走者をひとりも出さないパーフェクトピッチングを続けた。8回の先頭打者に安打を打たれて大記録達成はならなかったが、被安打3で無四球完封と見事なピッチングで有終の美を飾った。

「あー、やっちゃったー」

6-0と慶應リードで迎えた8回裏の関大の攻撃。神宮球場には緊張感が漂っていた。1回から7回まで、関大はひとりもランナーを出していない。髙橋の完全試合達成への期待が高まる。大記録まであと6人。大学日本一を決めるシーズン最後の大会の決勝で、4年生のピッチャーが完全試合を達成して優勝――。そんな漫画のような、ドラマのような展開が現実のものとなるのか?
この回の先頭、関大の4番野口智哉(2年、鳴門渦潮)に対しても簡単に2ストライクと追い込んだ。ところが3球目をレフト前に運ばれてしまう。

決勝の髙橋は最初から飛ばしていった

「あー、やっちゃったー、と思いました。でも点差が開いてたので、このランナーは気にしなくていいと思って。意外とマウンドでは冷静でいられました」。試合後、髙橋はこの場面をそう振り返った。

続く代打の原拓海(4年、大東)にもセンター前へ弾き返され、無死一、二塁。後続を断ち、得点は許さなかった。9回にも1安打されたが、被安打3で無四球完封と見事なピッチング。最速143kmのストレートとカットボール、カーブ、チェンジアップを丁寧に投げ込み、関大を抑え込んだ。最後の打者をセンターフライに打ち取ると、髙橋はマウンドで両手を突き上げ、駆け寄ってきた捕手の郡司裕也(4年、仙台育英)と抱き合った。1年前の秋は手がかかりかけたリーグ優勝を早慶戦の3回戦で失い、涙を流した。その神宮で、これ以上ないハッピーエンドだ。

完全試合は2回から意識

「本当にうれしいです。大学生活の中で最高のピッチングができました。リーグ戦と違って相手バッターのデータが少ない中で、データ班が必死に集めてくれたのが大きかったです。それを理解して、かみくだいてリードしてくれた郡司の配球も見事だったと思います」
髙橋は、この好投が自分ひとりの力によるものではないことを強調した。

優勝決定後、神宮のスタンドに大きくガッツポーズ

秋のリーグ戦でベストナインに選ばれた森田晃介(2年、慶應)が後ろに控えていたため、この日、髙橋は最初から飛ばした。1回、2回、3回ときっちり三者凡退を続けていく。試合の中盤から、球場内がザワザワし始めた。
試合後、報道陣に囲まれた髙橋は「完全試合はいつごろから意識しましたか?」との質問に「2回ぐらいから」と答え、顔見知りの記者に「早いでしょ!」とツッコまれた。

ドラフト後、ヤクルトファンから激励のメッセージ

髙橋は1年生の春から公式戦で投げてきた。4年間でリーグ戦通算57試合に登板し、16勝4敗。ニックネームの「ボンバー」はすっかり大学野球ファンの間で定着している。
優勝直後のインタビューでは、今シーズンを最後に退任する大久保秀昭監督への感謝の気持ちを言おうとして「監督には、1年生のころから目をつけていただいて、あ、いや、目をかけていただいて……」と、笑いを取った。

10月のプロ野球ドラフト会議では、慶應から津留崎大成(慶應)、郡司、柳町達(慶應)、植田将太(慶應)、中村健人(中京大中京)、髙橋の6人がプロ志望届を提出して指名を待った。津留崎が楽天3位、郡司が中日4位、柳町がソフトバンク5位、植田がロッテ育成2位で指名されたが、髙橋と中村には指名がなかった。

小学校6年生のときに東京ヤクルトスワローズジュニアに選ばれて以来のヤクルトファンだ。リーグ優勝後のパレードでは応援グッズのビニール傘をさしながら歩いた。ドラフト後、髙橋のツイッターには、ヤクルトファンから激励のメッセージが多数届いたという。
「指名はないと思ってたんで、そんなにショックじゃなかったんですよ。ヤクルトファンの方々からすごく応援されてうれしかったです」

バッティングも大好きな髙橋は、青木宣親外野手(現ヤクルト)の打撃フォームをまねしてバットを振り込んでいる。そのかいあってか、明治神宮大会初戦の東海大札幌(札幌)戦では1回に右中間へのツーベース、5回にセンター前ヒットと2安打を放った。

コメントが面白いのもプロ向きだろう

都市対抗で社会人野球の頂点を目指す

中学時代は東京神宮リトルシニアでプレーし、シニアの全国大会で準優勝を経験。川越東高校時代は3年生の春の埼玉県大会で準優勝、続く関東大会でも準優勝した。
「自分が投げると2位まではいくけど優勝はできないんじゃないかという不安もありました。『いや、そうじゃない、今日この神宮球場で勝つためにこれまで負け続けてきたんだ』と思い直しました」。強気な気持ちで決勝のマウンドに上がった。

卒業後は東京ガスへ入社し、都市対抗野球で社会人野球の頂点を目指す。4年間お世話になった大久保監督は、来シーズンからJX-ENEOSの監督に就任する。恩師の率いるチームと戦う機会もあるだろう。自分の長所も短所もすべて知られているが、さらに成長した姿を見せて、JX-ENEOSを抑え込むことが恩返しだ。

厳しい世界でさらに実力をつけ、2年後のドラフトでは今度こそ、指名を受けた球団のファンからの祝福を受けたい。

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