アメフト

連載:アメフト応援団長・コージコラム

特集:第73回ライスボウル

学生スポーツ最高!! 胸が熱くなったライスボウルのすべてをお届けします

僕も出たことあるんですよ。ライスボウルに(撮影・山本倫子)

4years.をごらんのみなさま、明けましておめでとうございございます。コージです。年始はどのように過ごされましたか? 

人生を狂わせられた甲子園ボウル! 4年生のときの自分に手紙を書いてみました!

年始といえば箱根駅伝とライスボウル

僕の年始の過ごし方は、その時々で場所は違えど、目に映るのは箱根駅伝とライスボウルと決まっている。 

朝から箱根駅伝のをテレビで観て、「よくこんなに走れるよなぁ」と何年も同じことを言い続けて口が渇いたころに、そろりと外に出る準備をします。唯一変わったことといえば、ペットのハリネズミにごはんをあげる作業が増えたくらいか。 

準備をしてどこへ行くのか。それはアメフトの「ライスボウル」が開催される東京ドームだ。ライスボウルとは毎年13日の午後に開かれる社会人Xリーグの優勝チームと、学生の優勝チームによる試合のこと。今年は2年連続同じカードで、富士通フロンティアーズと関西学院大学ファイターズの対戦である。 

はい上がってきた関学

関学の名将、鳥内監督のラストゲーム。最後に日本一のチームの監督にしたいと願う学生たち。とくに4年生の想いはひとしお。4年生はスタッフも含めて50人以上の大世帯。なかなかまとまらなかったと聞く。関西学生リーグ最終戦では、立命館大学に負けた。それをキッカケにチームが一つになり、はい上がってここまで来た。 

負けを知る優勝チームほど怖いものはない。いま、学生最強チームが東京ドームのフィールドに立っている。 

だが、対する富士通は学生フットボール界のスターが何人もいるドリームチーム。圧倒的に社会人チームが有利だと言われているライスボウルで、望むのは一つ。

「学生チームの勝利を目の当たりにしたい」

2010年以降は学生チームが勝てていない事実がある中で、一つの望みをかけて僕はドームに足を運ぶのだ。社会人チームを応援するお客さんも多く、ほぼ満席の東京ドームがくっきりと二分される。そんな観客席を見回していつも思うことがある。 

「アメフトファンってこんなにいるの!?」 

誇らしい気持ちとは裏腹に「普段みんなどこにいるの?」という疑問も浮かび上がってきて、不思議な感覚になる。 

いざ決戦、主将の寺岡君を先頭に選手入場です(撮影・北川直樹)

僕はわざと富士通サイドに陣取った

今年は富士通側の観客席から観戦した。いつも学生側に思いを寄せすぎるからだ。近いところで観てると、とくに。今年は客観的に試合を観たかったという思いが、僕を関学側から遠ざけた。 

ただ、気がつけば目をやるのはいつも、遠く離れた学生側だった。

試合開始前に選手たちがフィールドに駆け込んでくるシーンは、何度見てもグッとくるものがある。学生生活のほとんどの時間をフットボールに費やし、ここまで登りつめてきた選手たちの思いは生半可なものではない。 

登場してまずフィールドの真ん中で輪になり、部歌「FIGHT ON,KWANSEI」を歌い上げた。ドームいっぱいに響き渡ったその「声」には、どこか殺気立ったものが感じられた。と同時に、覚悟を感じた。僕は自然と鳥肌が立った。 

これはラグビーのハカに近いものがある。全身全霊をかけてぶつかりにいくという覚悟。そこまでしないと勝てない相手なのだ。 

富士通にここまで対抗心をむき出しにするのはいま、日立や東芝やパナソニックといった電機メーカー以外には、この関西学院大学ファイターズくらいだろう。 

最終盤の関学の粘りに感動しました(撮影・山本倫子)

法政の1年生のとき、練習中からマスクをつけて準備

かつて法政大学の1年生のときにライスボウルに出場したことがフラッシュバックしてくる。普段より長い1クオーター15分の戦いだ。心肺機能を高めるため、練習中からマスクを着けて取り組んだのが懐かしい。「絶対に勝つんだ」。その気迫が、できることならなんでもするという行動に、つながっていく。 

フッとそんなことが頭によぎって、目の前の試合の映像に戻ってきた。

試合はコイントスで始まる。関学の主将である寺岡君は表をコール。そしてコインは表を上に向けて落ちた。選択権を得た関学は前半をリターンで始めることを選択した。それはつまり、先にオフェンスをして先制パンチを狙うということだ。 

そしてついに運命のキックオフ。

序盤は、関学の#3QB奥野君のパスがさえ渡り、順調に前進していた。途中パスに見せかけたドロープレーで19ydのビッグゲイン。先制パンチかと思われたが、富士通の鉄壁の守りの前にパント。「そう甘くはないか」。メモを取りながら、僕はつぶやく。 

そして富士通の攻撃。関学はファーストシリーズからピンチに追い込まれる。富士通#29RBサマジー選手を警戒するあまりパスで進まれ、先制タッチダウンを奪われたのだ。 

とはいえ、やはり学生には絶対いないタイプのサマジー選手をどう止めるかがキーになりそうだ。タックルは低くいかないと止まらない。でも低くいけば跳んでかわされる。

関学のディフェンスは束になってサマジー選手に襲いかかりました(撮影・北川直樹)

社会に出てからの強さを問うような展開

富士通の強さを体感して、ここからが勝負。どうメンタルを切り替えるのか。社会に出ても、こういう場面は必ず現れる。 

そこからしばらく、関学にとって厳しい戦いが続く。パスが通ることはあっても、ライン戦で勝ず、ランが出ない。こんな絶体絶命のとき、関学はどう打開するのか。関学のベンチやメンバーがどう動くのか見ていた。すると急に会場が沸いた。 

#50DE板敷君がQBサック。ビッグプレーだ。富士通のオフェンス3シリーズ目にして、初めて無失点で切り抜けた。流れは完璧。そう。こんなときによくない空気を変えるヒーローが現れることがある。板敷君が4年生の意地で空気をガラリと変えたのである。 

そこからの流れは確実に関学に来ていた。気持ちいいミドルパスが#4WR鈴木君に通る。

パント隊形からのスペシャルプレーも決まった。いい流れがつながっている。

関学にいい流れ、試合に没頭した

僕は試合直前に買ったアイスコーヒーに一切手をつけることなく、試合に没頭していた。 

だが戦いは厳しい。このいい流れも、富士通にあっさりと変えられてしまった。僕は「もうすでに社会の厳しさを教えているのか!?」と、うなった。どんなにいい流れも、力でねじ伏せられてしまう。社会でいうなれば、資金力がえげつないライバル会社との対決とでもいうのでしょうか。 

RB三宅選手の独走タッチダウン。すごいスピード感でした(撮影・安本夏望)

ただ、関学も食らいつく。カウンター気味に#3QB奥野君からのピッチを受けた#21RB三宅君が64yd独走のタッチダウン!!!!! あの速さは社会人にも勝るスピードだった。これはもしかして!! 一筋の光が見えた。久しぶりにヒット商品を開発した!! という感覚か。どこまでこの流れで売り上げを伸ばせるか。 

富士通のオフェンスはまるで「iPhone」だ

しかし、先程のヒット商品をあざ笑うかのように、すぐさま#29サマジー選手のTD。うん。これはもうiPhoneだ。新シリーズが出るたびにヒットするiPhone 

前半は残り70秒。関学にビッグゲインが決まる。ここで返せるか!!!

と思ったらインターセプトを食らった。特許を取ってなかったので商品が奪われた……。 

後半は富士通がエース級の選手を下げたこともあって、関学も何度かいい流れを作った。富士通に攻め込まれながら、#44LB海崎君が連続でナイスタックルを決めた。僕の大学時代の番号と同じで、妙に親近感が湧いていた。 

僕の法政大学時代と同じ44番の海崎君、大活躍でした(撮影・北川直樹)

試合終了間際にドラマが待っていた

そして、試合終了間際の関学のオフェンスは目を見張るものがあった。7-38で試合時間ものこり4分ほど。そこからの攻防に、東京ドームはこの日一番の盛り上がりを見せたのである。関学オフェンスが自陣20ydから第4ダウンのギャンブルも成功させて進む。 

ゴール前4ydまできた。試合時間は残り50秒。一つパスを失敗して、第3ダウン残り4ydを迎えた。ここで#3奥野君から#4鈴木君へのパスが決まってタッチダウン!! 東京ドームは沸きに沸いた。 

第4クオーターにタッチダウンを決めたWR鈴木君。かっこよかった(撮影・安本夏望)

「本当にじゅうぶん戦った。いい戦いを見せてもらいました」。心の中で関学に対してそう思った。残り時間は38秒しかない。彼らの反撃も終わりだろうと思ったからである。

富士通サイドの観客席で叫んだ「もう1本だ!!」 

しかし、関学は一発かました。オンサイドキックが成功!!!!! 意地でも戦い抜くんだという覚悟を見た。最後の1秒まであきらめないという覚悟を見た。思わず僕も富士通サイドで叫んでしまった。「もう1本だ!!」 

関学のオフェンスが始まる。

#4にロングパスが通る!!! よし、もう一本!! とれる!!!!! 

試合時間残り26秒で、ゴール前17ydからの第2ダウン10yd。パス成功!!

3rdダウンはパス失敗。残り12秒。第4ダウンのギャンブル!! パスを決めて成功、ゴール前1ydまできた!! 

残り5秒!!!!
この流れは確実に決まるんだ!!!! 

と思ったら、最後は無情にも止められたのである。
14-38で関学は負け、富士通はライスボウル4連覇を達成した。 

これだから学生スポーツは面白い

関学のみんなは、確実に最後の最後まで戦い抜いた。社会に出たら思い出すことでしょう。あきらめずに戦い抜いたあの日のことを。

4年という限られた時間の中で、人生をかけて戦っている。
これだから学生スポーツは面白い。
久しぶりに胸が熱くなった日の一部始終をお送りしました。

スーパーボウルで見た泥臭いプレーで原点回帰、人生も最後の最後まであきらめず動く!

アメフト応援団長・コージコラム