陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

15位に終わった法政大 10区それぞれが懸命につないだ襷への想い

坪井主将の強い思いも箱根駅伝では通じなかった

第96回箱根駅伝

1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
15位 法政大 11時間07分23秒

前回の箱根駅伝で法政大は6位となり、3年連続シード権と安定した強さを見せた。しかし今回はエースの一人・佐藤敏也(4年、愛知学院)を欠き、厳しい戦いが予想された。迎えたレースで法政大は始めから出遅れてしまい、15位と悔しい結果に終わった。

1区久納、ほろ苦い箱根デビュー

流れを作る重要な1区(21.3km)を任されたのは久納碧(2年、学法石川)。レースは序盤から力のある中谷雄飛(早稲田大2年、佐久長聖)、鬼塚翔太(東海大4年、大牟田)らが集団を引っ張った。高速展開にも関わらず、大集団でレースが進んだ。そんな中、久納は7km付近で集団からずるずると後退。集団から離れた後も追い上げを見せられず、ほろ苦い箱根デビューとなった。ハイペースな展開になることは久納も想定していた。それでも「心と体がみ合っていなかった」と振り返る。絶対的自信のある5区での巻き返しのためにも、1区から上位チームとの差を最小限に留めたかった。しかし先頭から4分7秒差の19位で襷(たすき)渡しとなった。

エースが集う花の2区(23.1km)を走るのは、鎌田航生(2年、法政二)。5秒後にスタートしたライモイ・ヴィンセント(国士舘大2年、モチョンゴイ)からの猛追を受け20位に。そこから単独走という厳しい展開を強いられるも、淡々としたリズムを刻みながら前を追う。

11年ぶりに区間新記録が更新されるなどハイレベルな激戦の中、区間18位と満足のいく順位ではなかった。それでも目標にしていた前回大会の坂東悠汰(現富士通)の記録(1時間9分1秒)に迫る走りを見せ、今季着々と伸ばしてきた実力を発揮。前をいく神奈川大を28秒差にまで追い上げた。

健闘むなしく総合20位から巻き返しへ

戸塚中継所で鎌田から襷を受けたのは、昨年も3区(21.4km)を走った岡原仁志(4年、広島国際学院)。3人が区間新記録というハイレベルな戦いが繰り出される中、岡原も4年生としての経験を生かした力走で健闘を見せた。しかし思うように順位を上げることができず、総合20位、区間18位で襷リレーとなった。「自分の走りで前を追って少しでも順位を上げたかったけど、結果的には差を詰められなかった」と悔しさをにじませた。

エース青木、主将・坪井、それぞれのラストラン

前半で大きく出遅れ、いち早く嫌な流れを断ち切りたい中で、4区(20.9km)には河田太一平(たいへい、1年、韮山)が起用された。河田は1年生ながら出雲、全日本に引き続いて箱根にも抜擢された。最下位で襷を受け取った河田は前を走る神奈川大、筑波大を抜き、順位を押し上げる区間8位の見事な走りを披露。いい流れを作り、エース青木涼真(4年、春日部)に襷を託した。

青木は3年連続となる5区(20.8km)山上りに挑んだ。18位で受け取った襷を着々とシード圏内に向けて運んでいく。小田原中継所で17秒離れていた国士館大を函嶺洞門通過までに抜き去る。その後、関東学生連合や日体大をそれぞれ抜き、16位まで順位を上げる。次なる標的、日本大・順天堂大の背中が見えるも、青木の山上り劇場はここで幕を閉じる。

エース青木の山登り劇場もここで閉幕

往路は5時間33分で16位。シード権まで3分52秒のところまできた。青木は自身の走りを、「ほめられたできではない。気持ちの部分が空回りしてしまった」と語ったが、区間順位は4位につける走りだった。総合4位を目標に掲げていた法政大は往路を16位で折り返し、シード権獲得を狙って復路に挑んだ。

山下りの6区(20.8km)を任されたのは、昨年の同区間で驚異の走りを見せた坪井慧(4年、大垣日大)だった。昨年同様の走りをすればきっとシード圏内に近付けるはず。誰もが坪井に期待していただろう。

往路の時点でトップとの差が11分44秒あったため、一斉スタートで芦ノ湖を出発。シード権獲得のためには少しでもいいタイムを稼ぎ、集団から抜け出す走りが求められた。しかし集団が少しずつ縦に広がり始めると、坪井は後方に。少し苦しげな表情で追いかけ、20番目での襷リレー。記録も区間15位の1時間7秒と、前回を下回る結果に終わった。

レース後に坪井は「シード圏まで縮めなければならないという思いがあった」、「気持ちに体がついてこなかった」と語った。いくら思いが強かろうと、それを裏切るのが箱根駅伝なのだろうか。この時点でシード権獲得の目標はさらに遠のいた。

箱根駅伝初出場から、4年生のアンカーへ

7区(21.3km)を任されたのは、坪井と同じ4年生の松澤拓弥(4年、中京)だった。「走れない4年生の分の気持ちもしっかり背負って走りたい」と強い気持ちで臨んだ。2人を抜くも総合順位を一つ落とす苦しい走りで、区間順位も15位。「設定ペースはクリアできたんですけど、今年の箱根駅伝の高速化というのもあって、全体のタイムで見たらあまりよくなかった」と松澤。ハイスピードな展開に苦しんだ。

7位を終えた時点での順位は17位。悲願であった4位はおろか、シード権入りさえ危ぶまれてきた。何とか勢いに乗るためにきっかけをつかみたい。そんな思いで8区(21.4km)を中園慎太朗(1年、八千代松陰)が駆けた。

8区では、区間記録保持者である東海大の小松陽平(4年、東海大四)が意地を見せて区間賞。ハイレベルな激戦の中、中園は区間18位に沈み、16位の日大との差を1分16秒に広げられてしまう。それでも持ち前の粘り強さを発揮し、清家陸(2年、八幡浜)に襷をつないだ。中園自身、「点数をつけるなら0点」と語るように、ほろ苦い箱根デビューとなった。

清家は箱根初出場。当日変更で9区(23.1km)にエントリーされた。復路最長区間であることに加え、上り坂・下り坂・平地といったコースの起伏もあり、大逆転が見られるのもこの区間だ。清家は走行順で3人を抜く力走を見せた。終始堂々とした走りでファンを魅了した清家は「練習はしっかり積めてました。『やってやれ』という気持ちで臨めた」と手応えを口にした。最終的には区間7位の快走で順位を2つ上げ、法政大を総合15位に押し上げた。

チーム全員の想いが詰まった襷がアンカーの増田蒼馬(4年、島田)につながった。なかなかチームが流れに乗れない中、「4年生の立場で最後を締めくくるアンカーを任せてもらって、少しでも順位を上げたかった」と強い気持ちでスタートした。

箱根後、増田は競技を退く。陸上人生最後の23.0kmを懸命に駆け抜け、チームの総合順位は15位でフィニッシュ。チームの目標には届かなかったが、「後輩たちに最後まで諦めない姿勢を見せたかった」と、最上級としての頼もしい姿を残る下級生たちに示した。

「厳しい結果でしたので、これからいろいろなことを見直さなきゃいけない」。レースを終えて、坪田智夫監督はそう口にした。トレーニングだけでなく、生活面においても抜本的に意識を変えていかないと予選会も危うい、という危機感を抱いている。それでも「下級生が本当に頑張ってくれて、ポテンシャル自体は本当に高いチームだとは思います」と選手たちをたたえた。この日をスタートとして、新しいチーム作りが始まる。

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