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「心は熱く、頭は冷静に」黒川虎徹は東海大でも闘争心むき出しで戦い続ける

黒川(左)は本当のリーダーシップを発揮できる選手だ(写真提供=森田雄大/東海スポーツ)

昨年末の高校バスケの日本一を決める「ウインターカップ」に出場した選手から、4月に大学へ進む注目のアスリートを紹介します。東海大学付属諏訪(長野)の黒川虎徹(こてつ)です。最後のウインターカップは明成(宮城)の前に2回戦負け。悔しさを胸に、強豪の東海大に進みます。

時に熱く、闘争心をむき出しにできる選手に

“本当のリーダーシップ”。それこそが、東海大諏訪の入野貴幸コーチが中3に進級する直前の黒川を見初めた最大の要因だった。「点を取れるガード、スピードがあるガードはたくさんいます。けれど、虎徹は誰もが持ってるわけではない、本当のリーダーシップを持ってた。魅力的でした」

入野コーチが考える本当のリーダーシップとは、先頭に立って大きな声やジェスチャーで仲間を鼓舞することではない。劣勢に立たされたときにこそ発揮される、一条の強い光のようなものだ。

黒川は中学時代、ポーカーフェイスで飄々(ひょうひょう)とプレーしながら、この光を放っていた。しかし舵取り役として仲間を引っ張るためには、より目立ち、分かりやすいアクションであるのに越したことはない。入野コーチは入学当初から「時には熱くなったり、気迫を前面に出して背中で伝えたりすることも必要」と黒川に伝え、彼も闘争心をむき出しにできる選手となるべく努力した。

先輩から託され、キャプテンに志願

そんな黒川を成長させたのが、1学年上の北村孝太(現・中央大1年)だ。強いリーダー気質の持ち主で、3年生のときにはキャプテンに就任。黒川は入学したときから北村の練習パートナーを務めていた。

北村は「生意気だけどかわいい後輩」の黒川に対して、何かをしてあげたいという気持ちが強かったという。「入学時の虎徹はそんなにしゃべるタイプではなかったので、内面的なものを表に引き出せるように心がけてました」。練習以外の時間も四六時中一緒にいた黒川に対し、仲間への声のかけ方や、練習中からこまめにハドルを組む大切さなどを教えた。内側に隠れていた負けず嫌いや喜怒哀楽は、毎日のようにしていたガチンコの1対1を通じて、徐々に引き出されていった。

2年生のときのウインターカップ準々決勝(対福岡第一高校)。当時から高校ナンバー1ガードと称されていた河村勇輝との1対1が実現し、ワクワク感から思わず表情が緩んだ(撮影・青木美帆)

北村たち3年生がウインターカップで引退すると、黒川は北村の「次は虎徹に託したい」という思いを受け継ぎ、自ら志願してキャプテンになった。1年生のときに立てた「闘争心をむき出しにできる選手」という目標に加え、新たに「背中で見せられる選手」という課題を意識し、黒川は新チーム始動時からその思いをフルで発揮した。練習の最初から最後まで、声がかれるくらいの大声で仲間を盛り立て、導く。ハドルで確認したことへの理解が薄い選手がいれば、機を見て隣に呼び、話をした。「心は熱く、頭は冷静に」。それが高校ラストイヤーの黒川のモットーだった。

徹底マークを受けて敗れたラストゲーム

2018年度にはインターハイ4強、ウインターカップ8強を経験。黒川も含めて主力が残ったこのシーズン、東海大諏訪にとっては「日本一」を狙う勝負の年だった。しかし夏のインターハイではまさかの2回戦敗退。この大会も志半ばでの敗退となった。

ただ、1年ぶりに彼を見た筆者は、大いに驚いた。控えめで淡々とプレーに徹し、めったに声を上げることのなかった黒川が、大きな声で仲間を鼓舞し、いいプレーには吠え、胸を強く叩いて気持ちを表に出していたのだ。「今シーズンは虎徹が熱すぎて、周りの選手と温度差が出てしまうようになった」と入野コーチ。すさまじい変貌ぶりだった。

プレーで言葉で態度で、黒川(13番)はリーダーシップを発揮した(写真提供=森田雄大/東海スポーツ)

3年生の最後の試合となった2回戦の明成戦は、黒川が超密着マークをしかけられた。ポイントガードの黒川がボールを持つことすらできない立ち上がり。初めて経験する相手の出方に困惑し、チームは試合が始まってすぐ、いつものプレースタイルを見失ってしまった。第2クオーター、入野コーチは黒川個人の得点力にかける戦い方を選択。黒川はこれに応え、怒涛(どとう)のように得点したが、そこから次の手に出るだけの準備をチームはしていなかった。点差はどんどん広がり、78-104で敗れた。

チーム一の28得点を挙げた黒川は試合後、「マークされたとしても自分が打開しないといけなかった。人生で一番悔いが残る試合だったように感じます」と、声を震わせた。入野コーチは「入学したときは本当に物静かだったけど、あれだけ感情を表に出して戦えるようになった。すごく成長しました」と、彼の成長をたたえる。その一方で「虎徹のおかげで僕自身も成長させてもらった」「虎徹の熱い思いに対して、指導者としてもっと準備しなければいけなかった」と、20歳近く年下の高校生に、大いに揺さぶられた胸の内も明かした。

「やってみないと分からない」

彼がこの明成戦で味わった悔しさを晴らすのは、次のステージとなる大学バスケだ。「1年生から主力として試合に出たい」と語る黒川の進学先は、大学界屈指の強豪・東海大だ。同じポジションには大倉颯太(2年、北陸学院)という不動のエースガードがおり、高校ナンバー1ガードの河村勇輝(福岡第一)も東海大に進学する。1年生のときからプレータイムを得るには、相当の努力が必要になるだろう。

熾烈(しれつ)な競争を案じた入野コーチらからは「ほかの大学を選んでもいいのでは?」という助言も受けた。しかし黒川は「やってみないと分からない」と、あえてそこに飛び込む道を選んだ。「虎徹らしいですよね」と入野コーチは笑った。

大学バスケにステージが上がっても、「虎徹らしい」プレーを貫く(写真提供=森田雄大/東海スポーツ)

将来の夢はプロバスケット選手。高校3年間で大きな成長を遂げた黒川が、次の4年間で手に入れるものは一体どんなものか。引き続き追いかけていきたい。

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