大学野球

特集:駆け抜けた4years. 2020

立命館の学生コーチ根上一茂 あきらめた選手の夢、いつか大学スポーツのために

昨年10月の立同戦で、外国人留学生たちと一緒に応援する根上(最後列の中央、すべて撮影・安本夏望)

立命館大学には大学スポーツの振興と発展のために活動する公認団体があります。「立命館大学Athlete Volunteer Association」(通称AVA=アバ)です。野球やアメフトの取材で彼らの活動を目にして、取材しました。AVA3代目代表として頑張っていたのが、硬式野球部の学生コーチでもある根上(ねがみ)一茂(4年、金沢)でした。 

2016年にできたAVAの3代目代表

AVAは大学スポーツ振興のためのコミュニティーで、ボランティアから地域貢献、就活セミナーの開催まで幅広く活動している。2016年に立ち上がった団体で、もとは硬式野球部の「交通委員会」だった。バイク通学が多い硬式野球部員の交通マナーを改善するための取り組みをきっかけに、地域貢献活動が始まる。 

「この活動を立命の体育会全体に広げていけるのではないかと思い、できたのがAVAです」と根上。体育会に所属する学生、そうでない学生を合わせ、現在は75人が所属する。いまでは地域のお祭りへの参加や清掃活動、生協とコラボしたメニュー開発など、活動は多岐に渡る。昨年10月にあった硬式野球の立同戦では、17人の外国人留学生を招待して国際交流イベントを開いた。初開催となった春に続き、2度目の試みだった。京都市の衣笠キャンパスでルール解説や野球にまつわるクイズ大会で交流を深めてから試合会場へ。笑顔で声援を送っていたフランスからの留学生ニナさんは「野球、初めて見ます。すごく楽しいです」と笑顔。根上は「日本の文化、立命館の文化を知ってもらおうと思って企画しました。楽しい時間をつくれてよかったです」と話した。 

試合に合わせて、AVAはさまざまな催しを企画してきた

石川から立命にやってきて破れた夢

根上は普段、硬式野球部の学生コーチを務めていた。石川県の金沢高校出身。高3の夏は石川大会決勝まで勝ち上がったが、遊学館に負けて甲子園出場を逃した。ファーストやサードを守り、5番を打つ主力選手だった。「野球でメシを食っていきたいなと思ってました」と、プロ野球や社会人野球で輝く自分を思い描いて立命にやってきた。現実はそう甘くはなかった。甲子園常連校から来た選手たちとの力の差を痛感した。1回生の冬に、選手をやめて学生コーチへ転向することを決めた。そう決めてからも葛藤があった。「自分から野球をとると、何もないことに気づいたんです。とにかく焦りが大きかったですね」 

硬式野球部の試合前、学生コーチとしてノックを打つ根上

新しい自分を見つけるため、AVAに入った

そんなときに出会ったのがAVAだ。ちょうどAVAも活動の幅を広げようとしていた時期だった。ここなら新しい自分を見つけられるかもしれない。「興味あることはとにかくやってみよう」と思い、AVAに入った。行動力だけは誰にも負けない。夜行バスを使って早稲田と慶應のサッカーの定期戦である「早慶クラシコ」を見に行ったり、3回生の夏にはスポーツビジネスツアーに参加してヤンキースタジアムでヤンキースのフロントと会ったりした。本を読んで会いたいと思った人には必ず会いに行った。「野球部には理解されなかったですし、怒られることもありました。完全に浮いてましたね。いまとなっては自分の説明不足だと分かりますが『何で理解してくれないんだよ』と思ったこともありました」。野球部に何とか理解を求めながら、AVAの活動と両立させていった。 

いろんな人と出会い、AVAで活動していく中で「大学スポーツのあり方」についても考えるようになった。根上は力を込めて言う。「体育会は多様性を受け入れる文化をつくっていかないといけないと思います。体育会本部も連盟もプレーヤーが兼任していることが多いです。大学スポーツを“支える人”を増やすためにも、体育会以外の学生の力が必要だと思います」。AVAには体育会に所属していない学生も参加し、ともに知恵を出し合う。そこがAVAの魅力であり、これから大学スポーツを変えていく一つのアプローチに違いない。 

行動力にものを言わせて成長してきた

根上は春からIT企業で働く。将来的には「大学スポーツに関わるWEBサービスをつくりたい」という。AVAで活動してきたからこそ見つけた夢だ。「歌うのが好きで、歌手になりたいという夢もあきらめてません(笑)」。おもしろい男だ。「自分は4年間で失敗しかしてきてないと思います。何か大きなことを成し遂げたわけじゃないです。決めたものに全力を尽くせる人は、いいものが見つかると思います。レッテルを張らずにやってみることで形になっていく。冗談だと思うようなことも言い続けることが大事だと思ってます」。大好きな野球をあきらめたところで終わらず、一歩踏み出せたからこそ見えた景色だった。

1回生の冬にプロ野球選手の夢をあきらめた。そして新たな道を見つけた