大学野球

特集:駆け抜けた4years. 2020

静岡大・奥山皓太 大型外野手の期待受け、育成2位で阪神へ「肩なら負けない」

昨年12月の新入団選手の記者会見でポーズをとる奥山(撮影・伊藤雅哉)

昨年、国立の静岡大から初のプロ野球選手が生まれた。教育学部の奥山皓太(こうた、甲府西)が、10月のドラフト会議で阪神タイガースから育成の2位で指名された。阪神が国立大の選手をドラフト指名したのは初めて。21日に始まる2軍の春季キャンプ(高知県安芸市)で、本格的に新しい世界へ踏み出す。奥山とはどんな男なのか。

ラグビー選手並みの体格で抜群の身体能力 

昨年10月下旬、静岡大のグラウンドを訪ねた。フリーバッティングで一人だけ、桁違いの豪快な打球を放つ選手がいた。センター方向に弾丸ライナーを連発し、打球はあっという間に外野手の頭を越えていく。彼こそが、ドラフトで阪神に指名されたばかりの奥山だった。 

ラグビーやアメフトの選手並みの堂々たる体格を誇る(撮影・栗山司)

身長186cm、体重93kg。野球のユニフォームを着ていなければ、ラグビーかアメフトの選手と勘違いする人がいてもまったくおかしくない。堂々たる体格に加え、50mを5秒8で走り、遠投120mという逸材が、国立の静岡大からプロに挑戦する。

 エースの期待に応えられなかった高3の夏

山梨県甲府市で生まれ育った奥山が野球を始めたのは、小学3年生のとき。「テレビでプロ野球を見てて、面白いなと思ったんです」と、池田野球スポーツ少年団に入った。小学生、中学生のころに守ったのはセカンドやショートだった。 

進学校の甲府西高校に入ると、肩の強さを買われて1年生の秋からピッチャーに。球速は最終的に142kmまで伸びた。ただ、エースとして期待された3年生の夏は不本意な結果に終わった。山梨大会直前に調子を崩し、初戦の2回戦と3回戦はリリーフで登板。続く準々決勝の甲府工戦は先発で完投したが、1-4で負けた。

「自分として納得できる結果ではありませんでした。このまま野球をやめてしまったら、絶対に悔いが残ると思いました」 

大学最後のリーグ戦ではベストナインに選ばれた(撮影・栗山司)

奥山が目指したのは静岡大だった。硬式野球部は2014年に静岡学生リーグと東海地区春季選手権を勝ち抜き、全日本大学選手権に出場した実績がある。「高校と同じように、野球も勉強も頑張りたい」という思いのあった奥山には最適な大学だった。 

大学2年生の秋、投手から野手に 

センター試験と2次試験を経て、静岡大教育学部に合格。野球部に入ったが、下級生のころはけがに泣いた。慢性的な右ひじの痛みに苦しみ、投手としては限界を感じていた。 

ターニングポイントは2年生の冬にやってきた。

「入学してから2年間は試合で投げてませんでしたし、復帰のめども立ってませんでした。このままだと野球人生が終わってしまう、と不安で……。それなら、いっそのこと野手に転向してみようと思いました。一からのスタートになりますが、その方が可能性はあるんじゃないか、って。自分で決めたことですし、ピッチャーへの未練はありませんでした」。仲間たちも「お前なら、やってみる価値があると思う」と、背中を押してくれた。 

焼き肉店の「まかない」でパワーアップ 

静岡大の高山慎弘監督は奥山の潜在能力の高さに目をつけ、3年生の夏のオープン戦から外野手として起用した。「焦ることなく、1試合1本のヒットを打っていこう」という高山監督のアドバイスを受け、少しずつ野手としての形を作っていった。 

体も一回り以上大きくした。ウェイトトレーニングを重ね、食事はもっぱらアルバイト先のまかない料理に助けてもらった。「焼き肉屋でバイトをしていたので、肉とかごはんをできるだけたくさん食べさせてもらいました」。4年間で体重が10kg増え、たくましい体に仕上がった。 

さらに、日々の練習時間は3時間程度で、環境面も決して恵まれているとはいえない中、ほかのメンバーたちと一緒に創意工夫しながらレベルアップに励んだ。奥山は「そういった環境だったからこそ、どうやったらうまくなるかを考える力が養われたと思います」と振り返る。 

下宿で確認したドラフト指名 

ドラフト会議の日、仲間に担ぎ上げられて喜ぶ奥山(撮影・栗山司)

教育学部で学んだ奥山は2年生の秋、3年生の春、4年生の春と計3度、教育実習を経験した。一方で本人の中では「いけるところまで野球で勝負したい」という気持ちが徐々に強くなっていた。3年生の秋からリーグ戦に出場する機会が増え、4年生の秋には静岡学生リーグのベストナインに輝いた。噂(うわさ)を聞きつけたプロのスカウトの視察が増えたことで、思い切ってプロ志望届を提出した。 

ドラフト会議当日は、下宿先のアパートで高山監督やチームメートとともに指名を待った。「本当に指名があるのかどうか、半信半疑でした」。待つこと約3時間。午後7時40分すぎに阪神から育成の2位で指名された。「うれしさもありましたが、最初は驚きました。身が引きしまる思いでした」

強肩をアピールして生き残る 

昨年11月には阪神の秋季キャンプを見学した。プロの実力を目のあたりにし、気持ちが高ぶった。「大山(悠輔)選手、高山(俊)選手のスイングスピード、フリーバッティングでの飛距離は飛び抜けてる印象がありました。あとは近本(光司)選手の足の速さ、次の塁を狙う姿勢は参考になる部分がありました」 

昨年12月の新入団選手の記者会見から。最後列左端の奥山は背番号128でプロの世界に踏み出す(撮影・伊藤雅哉)

負けてない、と感じる部分もあった。最大のセールスポイントの肩だ。奥山のセンターからのバックホームは、圧倒的な迫力がある。「練習を見ていても、やっぱりプロは違うと感じました。でも、肩だけはあの中に混ざっても負けない自信があります。まずはそこをアピールして、生き残っていければと思います」

夢は打率3割、30本塁打、30盗塁の「トリプルスリー」だ。磨けば磨くほど光りそうな原石が、育成からの下剋上をなし遂げる。 

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