國學院大・伊藤雅人、オコエの背中を追う“勝負の春”
4月8日、神宮球場で東都大学野球1部リーグが開幕した。連覇を狙う立正大と國學院大の開幕戦は5-3で國學院大が勝ち、翌日も勝って勝ち点を奪った。開幕戦で輝いたのは國學院大の6番サード、伊藤雅人(4年、関東一)。春の東都第1号となる2点本塁打を放ち、昨秋の大学日本一である立正大を突き放した。
開幕戦で試合を決める一発
3対1と2点リードの5回裏。伊藤は2死一塁の場面で右打席に立った。フルカウントからの6球目、立正大の糸川亮太(3年、川之江)のスライダーを力強く振り抜く。打球はレフトスタンドへ飛び込み、これで國學院大はリードを4点に広げた。伊藤にとってリーグ戦通算3号となる一発だった。
「スライダーが甘く入ってきてくれたんで、うまく打ち返せました。糸川君のピッチングの映像は何回も見て、しっかりイメージを持って臨みました」と伊藤。昨秋の明治神宮大会決勝で胴上げ投手になったのが糸川だ。その男から放った一発は、チームにとっても自身にとっても大きな一打となった。
広角に運べる打撃と安定感のある守備が伊藤の魅力だ。東京の関東第一高校時代に主将、現在も副将を務めており、責任感も強い。大学では1年生の春から公式戦を経験し、3年生の春のリーグ戦では打率3割超え、9打点などの活躍でベストナインに選ばれた。チームも前年秋の4位から2位に浮上。ところが昨秋は打率1割台と不振に陥り、チームも5位と苦戦した。
「3年秋が苦しいシーズンだったんで、冬は『この春が一番の勝負』と思って練習してきました。それがいいかたちに表れてよかったと思います」
大学卒業後も社会人、プロ野球などでプレーを続けることを希望している者にとっては、春のリーグ戦は自身の野球人生を大きく左右する“勝負の春”だ。
東都リーグからは昨年、上茶谷大河(東洋大→DeNA)、甲斐野央(東洋大→ソフトバンク)、清水昇(國學院大→ヤクルト)の3投手がドラフト1位指名を受けプロ入りしている。現時点で伊藤は彼らのような盤石の上位候補ではない。秋のドラフト会議で指名されるのは高校3年生、大学4年生、社会人ほかを合わせて例年110人前後(育成選手を含む)。春のリーグ戦での結果いかんによって、指名の確率、指名順位が上下する。伊藤はまだ、進路に関して明言していない。
「いまは結果を出すしかないです。鳥山(泰孝)監督からも、『いまは自分の結果を出すことに集中しろ』と言われてます」
この日はヤクルト、広島、中日、阪神などのスカウトが神宮を訪れていた。その中で放った試合を決める一発は、大きなアピールになったはずだ。
開幕戦に勝った國學院大は、翌9日の2回戦も4-2で勝利し、連勝で勝ち点1を手にした。伊藤は4打数無安打に終わったが、サードの守りは光った。1点リードの8回裏、三塁線への強い打球を好捕。抜けていれば同点のピンチになっていただろう。鳥山監督も「8回の伊藤の守備が大きかった」と試合後に話した。
関東一高で2度の甲子園出場
関東一高時代は2年生の春、3年生の夏に甲子園の土を踏んだ。3年生の夏には4強進出を果たしている。現在、プロ野球の東北楽天でプレーするオコエ瑠偉と同期。オコエはあの夏の甲子園で抜群の身体能力をアピールし、1位指名を受けてプロ入りした。
伊藤は高校時代、オコエより先にレギュラーをつかんだ。1年生の夏から公式戦に出場し、秋からレギュラーに定着。オコエがレギュラーに定着したのは2年生の秋からだった。夏の甲子園以降、オコエが脚光を浴びる中、伊藤はプロ志望届を出さずに進学を選んだ。
「あの時はまだプロに行く自信がありませんでした。國學院大からはプロ野球選手が何人も出てますし、大学野球で自分を磨いてからプロを目指そうと考えました」
オコエとはLINEなどで連絡を取り合う。ホームランを放った開幕戦の夜はいろんな人から祝福のメッセージを受け取ったそうだが、オコエからはなかった。伊藤は笑顔で言った。「あいつも1軍で頑張ってますから、それどころじゃないはず。僕も負けないように頑張ります!!」
同期の存在は大きな刺激になっている。来年のいまごろ、同じ舞台でプレーできているのだろうか。前を走るオコエの背中を追いかけ、この春に勝負をかける。