東洋大マイルチームの「最強伝説」をつなぐエース・吉津拓歩
日本インカレにおいて、1600m(マイル)リレーで4連覇中の東洋大。大学最強を誇り、マイルリレーはまさに「お家芸」とも言える。その中で吉津拓歩(3年、豊橋南)は1年生のときからメンバーとしてチームに貢献してきた。
マイルリレーチームの中心であり続けてきた吉津
1年生ではウォルシュ・ジュリアン(現富士通)にバトンをつなぐ3走に抜擢(ばってき)されると、見事2連覇を引き寄せた。さらにこの年は日本選手権リレーでアンカーを務め、0.01秒差の戦いを制し、リレー日本一にも輝いた。
1年生ながらチームの主力として活躍した吉津は、日本インカレのマイルリレー優勝時にこんな言葉を残している。「改めてとんでもない大学に入ってしまった」。これはウォルシュを始め、当時男子100m走で日本人初の9秒台に到達した桐生祥秀(現日本生命)らの存在を間近で見続けたことによるものだ。学生界だけではなく、日本トップクラスの実力を持つ選手が多く在籍する東洋大で過ごす時間は、刺激的かつ貴重なものとなっていた。
2年生以降も、吉津はマイルリレーチームの中心であり続けた。チームのエース、ウォルシュの花道を飾る日本インカレ3連覇の偉業を成し遂げたレースでは1走を務めた。しかし、優勝メンバーは吉津を除く3人全員が4年生と、今後の戦力ダウンは避けられない状況だった。当然、マイルチームも危機を感じながらこの1年をスタートさせた。
下馬評を覆す好タイムでつかんだ初優勝
3連覇達成のメンバーから外れた松原秀一郎(4年、九州学院)を主将に据え、リレーチームは再出発を切った。吉津と松原は、高校時代からの旧知の仲。信頼関係は十分にあった。新体制で挑む関東インカレのマイルリレーの予選は、難しいレースとなった。
流れに乗り切れず、吉津にバトンが渡ったときはまさかの6位。それでも驚異の追い上げで予選トップ通過を果たすも、不安要素が多く残った。切り替えて臨んだ決勝は予選とはまったく違うレース運び。1位でスタートしたアンカーの吉津はそのまま1番にゴールテープを切った。タイムは3分6秒29。ウォルシュがいた日本インカレ3連覇のときのタイムより速く、戦力ダウンという前評判を覆してみせた。
「日本インカレで3連覇してるのに、なんで関カレで勝ったことないんだっていうのもあったので、勝つしかなかった」と振り返り、いまだ制覇したことのなかった関カレで初優勝という新たな歴史を刻んだ。
新たな伝説に向けて
初めて関カレ王者として乗り込む日本インカレは、4連覇への期待もあって想像以上にプレッシャーがのしかかった。それでも「4連覇は譲れない」と気合を入れ直し、決勝を迎えた。東洋大の仲間が見守る中、レースは始まった。
好調な走り出しで、吉津は1位でバトンを受け取る。ここから圧巻の走りを見せ、バトンを空高く突き上げながら優勝のゴールテープを切った。力のこもったガッツポーズを見せ、チームメートと喜びを分かち合った。
「4年生がいなくなったことが精神的に大きくて、その3人がいなくなったかつ、自分がエースとして最後決めないと、という精神的な不安がすごくあった」。戦力ダウンという下馬評を打ち破るための1年間の苦悩が、吉津を大きく成長させていった。
来年度は日本インカレ5連覇がかかっている。「王者として迎えるのでしっかりと準備をして挑んでいきたい」と、次を見据えた。偉大な先輩から託されてきたものをつなぎ、吉津は新たな伝説へと走り出す。