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特集:東京オリンピック・パラリンピック

日本選手権100mで圧勝のサニブラウン「速いだけでなく強さを求めたい」

サニブラウン(中央)は10秒02の大会新記録で100mを制した

第103回日本陸上競技選手権 第2日

6月28日@博多の森陸上競技場
男子100m 決勝(向かい風0.3m)
1位 サニブラウン・ハキーム 10秒02(大会新) 
2位 桐生祥秀        10秒16
3位 小池祐貴        10秒19
4位 飯塚翔太        10秒24
5位 多田修平        10秒29
6位 坂井隆一郎       10秒31
7位 川上拓也        10秒31
8位 ケンブリッジ飛鳥    10秒33

陸上の日本選手権2日の6月28日、博多の森陸上競技場を1万3000人が訪れた。その多くが期待した最終レースの男子100m決勝で、9秒97の日本記録を持つサニブラウン・ハキーム(フロリダ大)が10秒02の大会新記録で観衆を魅了した。レース後、サニブラウンは「何とも言えないタイムですね。あと0秒03だったんで。スタートがちゃんと出れてればってのはあるんで……。でもまぁ、優勝できたんでよかったです」。淡々と話した。

レース中盤で優勝を確信

前日は2レース走った。予選は10秒30(向かい風0.6m)。アメリカよりもスタートのピストルのタイミングが早いと感じたサニブラウンは、続く準決勝では、よりピストルの音に意識を向けた。それでも修正が間に合わず、リアクションタイムは0秒180と出遅れてしまったが、中盤からグングン加速。10秒05(追い風0.1m)の大会タイ記録で決勝に進んだ。

28日午後8時30分からの決勝前、会場にはひとしきり雨が降った。体を冷やさないよう、ギリギリまでウォーミングアップを重ねる中で、特に意識していたのはスタートだった。「スタートのピストルがわりかし早いんで。そこはコーチ(マイク・ホロウェイ氏)と二人で、しっかり集中して、普段より早く腰を上げて、自分のペースでいかないでしっかり合わせていかないと、って話をしてました」。いつもよりスタート練習を多めにし、決勝に備えた。

サニブラウンは日本最速を決める決勝の舞台でも、頭一つ抜けてフィニッシュした(撮影・松永早弥香)

迎えた決勝、スタートから抜け出すことはできなかったが、顔を下げたまま中盤から一気に加速し、ほかの7人を突き離した。サニブラウン自身も中盤で勝利を確信できたという。そのまま駆け抜け、2位の桐生祥秀(東洋大~日本生命)に0秒14差をつけた。ともに決勝を戦った桐生や小池祐貴(慶應義塾大~住友電工)、ケンブリッジ飛鳥(日大~ナイキ)らと握手を交わすと、注目レースの余韻に浸る観衆に笑顔をふりまいた。

世界選手権「いまのままじゃ全然ダメ」

レースを終えたサニブラウンは「内容としては準決勝の方がよかった」とひとこと。いいスタートを切れなかった点には「うまくいかないのはいつものことなんで」と苦笑い。その中でも冷静に中盤で加速し続けられたことを、自分でも評価した。その反面、後半にはあごが上がり、腕振りにもばたつきが出てしまった点を「全米(全米学生選手権)と同じことをしてしまった」と反省した。

「アメリカでもっと速い選手と走ってきました。ここで自分の強さを見せられないようじゃ意味がない。自分がやってきたことをしっかり試合で出さないと通用しない。100mはそういうものなんで、しっかり自分の持ち味を出せるように。そういうところが世界のトップ選手の強さだと思うんで、速いだけではなく強さを求めていければ」

この優勝で、今秋のドーハ世界選手権の代表に内定した。前回の2017年ロンドン世界選手権で、男子100mにはサニブラウンはケンブリッジと多田修平(関西学院大~住友電工)の3人が出場し、3人そろって準決勝に進んだ。しかしサニブラウンは準決勝2組で7着に終わり、日本勢初の決勝進出は果たせなかった。「世界にはまだまだバケモノみたいな人が多いんで、いまのままじゃ全然ダメだと思ってます。今日の課題を持って帰って、しっかり万全の体制で挑めればいいかな。しっかり決勝に残って、メダルを狙えるぐらいに練習を積み上げていければと思ってます」

すべてのレースは「自分との戦い」

どんなレースでも、サニブラウンは「自分との戦い」だけを意識している。今回は桐生との「9秒台対決」が期待されていたが、当の本人は「全然気にしなかったです。あまり周りの人のことは気にせず、自分のレースができるように自分だけに集中して、自分との戦いという感じで、1レース、1レース挑んでます」と言いきった。

29日には200mの予選を走る。「100mで優勝したからといって気を抜かず、しっかり集中していけたらいいなと思います」とサニブラウン。200mでも全米学生選手権で日本歴代2位の20秒08をたたき出しただけに、2冠とともに日本記録(20秒03)更新にも期待がかかる。そんな声に対しても「体と相談しながら、自分のレースがしていけたら」と笑顔で返した。

「内容としては準決勝の方がよかった」とサニブラウン

大舞台で結果を出してきた男は言う。「緊張は……どうなんですかね? ほとんどしなくなっちゃったかもしれませんね。全米ではわりと緊張はしてたんですけど、でもそんなに……。むしろワクワクしてる方が大きかったのかな。自分はどういう走りをするかなぁとワクワクしてて」。そのワクワクでまた、観る者を魅了してくれることだろう。

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