大学アメフト

特集:関学アメフト・鳥内監督ラストイヤー

関学アメフト前監督の鳥内秀晃さんが出版記念トークショー「もっと買うてや~」

冒頭でペットボトルのキャップの色にこだわって笑いをとり、喜ぶ鳥内さん(左)と生島さん(すべて撮影・安本夏望)

笑いの絶えないひとときになった。1月26日に関西学院大学アメフト部ファイターズの鳥内秀晃前監督(当時は監督)が兵庫県西宮市内でトークショーとサイン会を開いた。スポーツジャーナリストの生島淳さんとの共著『どんな男になんねん』(ベースボールマガジン社)の出版記念イベント。生島さんも参加し、関西のアメフトファンら130人が集まった。 

「1冊と言わず、20冊ぐらい買うてくださいよ」

二人が会場に入ると大きな拍手が送られた。聞き手の生島さんが「みなさん、本を買っていただいた方ですよ〜」と切り出す。すると、根っからの商売人である鳥内さんは「もっと買(こ)うてください。1冊と言わず、20冊ぐらい買うてくださいよ」。ウケた。28年間の監督生活を終え、「やめた方が忙しいですよ……。毎晩飲み会で」と、絶妙な間(ま)でどんどん笑いを誘う。生島さんから「生活は変わった感じはありますか?」と聞かれると、「学校の本屋さんでサインさせられてます」。大いにウケた。生島さんの前に置かれたペットボトルのキャップが関学のチームカラーの青色だと気づくと、すかさず「これ、青や」。自分の緑色のキャップのボトルと取り替え、笑いをとった。絶好調だった。 

初のトークショーで絶好調だった鳥内さん

トークショーでは今後についても触れた。「(これまで)やってきたことをいろいろとお話できたらいいなと思います」と語った。「(日大の)あの事件以来、いろんなことが分かってきた。我々と違うやり方の指導者がたくさんいると。学生、子ども目線で指導していかないと」。指導者を対象としたクリニックが必要だと訴えた。 

近大の選手や大府大のマネージャーも駆けつけた

近大の選手だった井手さん(中央)は、母の庸子さん(右)と一緒に「鳥内節」を聞きに来た

会場には30歳代以上の社会人が目立ったが、大学生の姿もあった。2人の大学生に話を聞いた。まずは近畿大アメフト部のTE(タイトエンド)だった井手智也さん(4年、大阪産大附)。1980年代からのファイターズファンという母の庸子さんとともに参加した。敵の監督だった鳥内さんの印象は「声を聞くことがないので、おっちゃんやなって思ってました」という。初めて話を聞いて「鳥内さんの話が染み付いているから、関学は強いんかなって思いました」と率直に語った。母と一緒に試合を観戦したのがきっかけでアメフトを始めた。関学でプレーしたい思いもあったという。井手さんは鳥内さんのトークを思い出し、「関学でやるのもすごく楽しかっただろうなと思いました」と笑った。 

大阪府立大アメフト部マネージャーの高田さんと記念撮影

二人目は大阪府立大アメフト部のマネージャー、高田妃菜さん(3年、豊中)。高田さんは関西学生アメフト連盟の学生ボランティア組織である「Pump up 学生アメフト」に所属する。そこで取材や記事の執筆を担当してきた。試合直後の囲み取材に加わったこともあり、「シーズンを通して見てきた中で、学生アメフトのあこがれの存在でした。公の場で話を聞ける機会も少なくなると思うので、聞いておきたいなと思いました」と、参加した。

トークショーの終盤には質問タイムがあった。高田さんは物おじすることなく、「学生の間にした方がいいことはありますか?」と質問。鳥内さんは「いろんなことに興味を持ってほしいですよね。大学生やから勉強すんのは当たり前なんですけど、チャンスがあれば国外にも目を向けてほしい。いろんなことに挑戦してみてほしいですね」とアドバイスした。試合で取材をしたことがある髙田さんだからこそ分かる鳥内さんの魅力がある。「いい試合もよくなかった試合でも変わらず受け答えをされる。ファイターズの顔として学生を不安にさせない姿はすごかったし、かっこいいなと思っていました。今日もおもしろかったです」。関学カラーであるブルーのスカートで来た高田さんは、笑顔で帰っていった。 

出版の仕掛け人は二人の教え子だった

「鳥内本」出版の仕掛け人となった島野さん(右)と花房さん

ファンのみなさんはトークショーの番外編も楽しんだ。鳥内さんが一人ひとりの本にサインをする間、生島さんが『どんな男になんねん』の裏話を語り始めた。出版の発起人となったファイターズOBの島野和弘さんと花房政寿さんも登場。二人は1998年に4回生のRB(ランニングバック)として活躍した同期でもある。出版のきっかけは20185月の「悪質タックル問題」だった。そこから大学スポーツのあり方が問われるようになり、当事者であった鳥内さんの指導論も注目を集めた。 

ファイターズのアシスタントコーチだった島野さんは、ある試合後の反省会で言った。「好きで始めたスポーツのはずが、指導者のせいで何で嫌な思いをせなあかんのやろ? (関学の指導論を)僕らの中で私物化したらあきませんわ」。それを聞いた鳥内さんが「ええな〜。ほな、お前が本を書け」というところから話が始まった。島野さんはテレビ局勤務の花房さんに相談した。「何かしら残せたらということで、仕事でも長い付き合いのあった生島さんに相談させてもらいました」と花房さん。教え子二人の熱い思いもあって、『どんな男になんねん』は世に送り出された。 

生島さん「一般の学生さんに読んでほしい」

生島さんは、5回のロングインタビューをもとに書き上げた。1回の取材が3時間に及ぶこともあったという。第十章の「世界一安全なチームをつくる」は、鳥内さんから「安全性についても話しときたい」との電話があってつくられた。生島さんは「強い思いがあるんだなと感じて、できるだけ思いをくみ取りたいと思ったので別の章にしました」と明かした。文体には悩んだ末に、独特の語り口をできるだけそのまま再現することにした。「標準語では味わいが出ない。監督の言葉を再現するのは僕にとってもチャレンジングなことでした。でも、その判断は間違ってなかった」 

生島さんは、この本を現役の大学生にも読んでほしいと語る。「ファイターズの学生さんは考える習慣があって、ひと足先に大人になれる。一般の学生にはそういう機会がなかなかないと思うので、読んでほしいです。読んで鳥内監督と面談してる気分になっていただければ」と、学生たちへメッセージを送った。

さすがに、お客さんには「どんな男になんねん」と問いかけてはいないはず
著書へのサインには日本語と英語バージョンがある