日本一のショート 埼玉西武ライオンズ・源田壮亮さんの自主トレに帯同して(上)
4years.の野球応援団長である笠川真一朗さん(25)のコラムです。1月に埼玉西武ライオンズの源田壮亮選手(27)の自主トレを手伝ってきました。そこで感じたこと、疑問に思ったことを素直に綴(つづ)ってくれました。2回に分けてお届けします。前編は源田選手が自主トレをする意味、プレーへの思いなどについてです。
「一緒に練習しよ! 手伝ってよ!」
プロ野球の開幕は伸びてしまいましたが、各地で無観客のオープン戦が開催されています。野球の季節を待っているファンの方々は不安な気持ちもありつつ、ワクワクしているのではないでしょうか。僕もプロ野球関係のニュースを毎日チェックしています。
春季キャンプが始まる前の1月、埼玉西武ライオンズ不動の正遊撃手である源田選手の自主トレに参加してきました。今回は、そこで経験したことを書いていきます。小学生のころの夏休みの作文のような気持ちで書いたので、気軽に読んでもらえたらと思います。僕にとって、本当に少年時代に戻ったかのような夢の日々でした。
自主トレ参加のきっかけは、さかのぼって去年の12月の上旬の話になります。僕は源田さんがどんな練習をしているか純粋に見てみたいと思い、「自主トレ見に行ってもいいですか?」と連絡しました。すると「全然いいよー! 一緒に練習しよ! 手伝ってよ! 笑」と、まったく想定していなかったうれしい返事をもらいました。
これはもう、行くしかありません。断る理由が僕には一つもありませんし、少しでも力になれたらと思いました。そしてこの目でプロ野球選手はこの時期にどんな意識を持ってどんな練習をしているのかをしっかりと見て、何かを得て帰ろう、と楽しみで仕方がありませんでした。
プロ3人の自主トレ、メンバーは……
源田さんは1月8日から22日まで、愛知県豊田市にあるトヨタ自動車硬式野球部のスポーツセンターで自主トレに励みました。僕はここに最初から最後まで帯同してきました。源田さん以外のメンバーは千葉ロッテマリーンズの藤岡裕大選手(26)、読売ジャイアンツの黒田響生選手(19)でした。
藤岡選手は亜細亜大出身で、僕と同学年。しかも同じ東都大学野球リーグでプレーしていました。僕がいた立正大は2部で、亜細亜大は1部。対戦は練習試合でしかありませんでしたが、ものすごく魅力的な選手だったことは、はっきり覚えてますし、同じ東都出身ということで僕にとっても思い入れの強い選手です。気になっていたこと、聞きたかったことも山ほどあったので取材もさせてもらいました。野球に対する思いがものすごく強く、負けず嫌いで、練習にはとにかく一生懸命でカッコよかったです。
そして巨人の期待の育成、黒田選手については記事や動画では見ていましたが、初めて会いました。阿部慎之助2軍監督に「勇人(坂本)の19歳のころよりもポテンシャル、技術は上」と言わしめた有望なプレイヤーです。野球への真摯(しんし)な取り組みや考え方、そして立ち居振る舞いはとても19歳とは思えないほどしっかりしていて、カッコよかったです。
トヨタ自動車のグラウンドは「初心に返る場所」
そして彼ら二人を率いて自主トレに臨む源田さんは、来シーズンから西武のキャプテンです。僕から見て何かが大きく変わったという印象はありませんでした。しかし、それもまた源田さんの魅力だと思います。いろんなことをいろんな目線で見られて、それでいて自然体。その姿を見ていると「こういう部分が認められてキャプテンになるんだなぁ」と思う場面がいくつもありました。きっと、いままでにない源田さんらしい新しいキャプテン像を作られていくのだろうと感じました。
源田さんはプロ1年目のオフから、古巣のトヨタ自動車で自主トレをしています。なぜここでやるのか聞くと、「初心に返れるという部分が大きいかな。また頑張ろうと思える場所やから」とのこと。豊田市内の道を車で走ったり、自分が勤めた職場の方々に挨拶(あいさつ)に行ったり、そしてともに野球をしたスタッフやチームメイトと会うことで「いろんな人に応援されてることに改めて気づけた」と言います。それがものすごく大きいそうです。
1年間フルに戦うことを視野に入れて
練習のある日は午前9時にホテルを出発。スポーツセンターに到着したらまず、トレーニングルームでの体幹トレーニングやウェイトトレーニングから。僕も一緒にやりましたが、ものすごくキツかったです。
源田さんは昨シーズン、新人のシーズンから続いていた連続試合出場の記録が途絶えました。この自主トレで、今年は1年間フルに戦うことをものすごく大事にされている印象を受けました。キャンプも控えているので無理がないように、なおかつ入念に、体の細かい部分を鍛えてました。
とくにびっくりしたのはバランスのよさです。バランスボールの上に立ち、スクワットをしている姿に体の強さを感じました。これが具体的に何に生かされるかは、僕には分かりませんが、簡単にできることじゃないので、シンプルにすごいなと思いました。僕がまねしたら、足がプルプルしてまったくできなかったです(笑)。僕はこの自主トレ期間中、毎日恐ろしいほどの筋肉痛で体がバキバキでした。そしてそれは僕だけじゃなく、3人の選手も同じでした。「あぁ、プロ野球選手も僕と同じ人間なんやなぁ」と思えてうれしかったです。
トレーニングのあとは室内練習場に移動し、軽く体を動かしてキャッチボールをします。
源田さんとキャッチボールができる。興奮と感動で初日は手が震えました。当たり前かもしれませんが、プロ野球選手の投げるボールは回転がものすごくきれいで、強いボールがグラブの中に収まります。指先の感覚を確かめるように、丁寧に投げていました。どんな体勢でも正確なスローイングをする源田さん。僕はいま、ほぼプレーをしていない素人ですから、キャッチボールから存分にプロ野球選手のすごみを思い知りました。
「意外といい球投げるやん」と褒められ、僕の肩も実は衰えてないと思えました(笑)。僕はその瞬間、何歳になってもキャッチボールでいい球だけは投げられるように、今年は1年間ボールを触り続けようと固く決意しました。褒められるって気持ちいいですよね。もっと頑張ろうと思いますよね。人間ですから。
肩肘を休ませて、足を使って守る
キャッチボールが終わると基本練習。僕がボールを転がし、3人が捕球の動作を繰り返します。そしてノック。それからグラブのハンドリング練習です。僕が選手の左右にショートバウンドのボールを投げ、3人がグラブの出し方を確認します。源田さんはこういった練習をしながらボールとの間合い、グラブを出すタイミングなど細かい部分を意識されてました。
「捕球と送球を一連の流れにするっていうのは、昔から心がけてる。捕球と送球を別の作業にしてしまうと肩肘(ひじ)に負担がくるから。肩肘は消耗品やと思ってて、負担がかからないように意識してる。だからボールが投げやすい位置で捕るようにしてるし、足もしっかり使う。プロの打球は速いから、その打球の勢いをうまく吸収して送球につなげるようにしたり。長く野球を続けようと思ったら、そういう部分を大切にしていかないといけない。肩肘を休ませて足を使ってプレーすることが、一番理にかなってると思う」。源田さんはそう教えてくれました。
これは本当に僕も勉強になりましたし、この記事を読む方にとってもすごく勉強になると思う話です。現役のプレーヤーの方は是非、参考にしてください。
自主トレで基本練習を繰り返す理由
こうして本当に基本的な練習を、日々何度も何度も繰り返しました。キャンプとペナントレースに向けて、再び体を呼び起こすような作業という印象を受けましたが、もちろんそれだけではありません。
この時期に基本的な練習をこれでもかと反復するのには大きな理由がありました。それはシーズンに入ってしまうと、基本練習に割く時間を確保できないからです。ペナントレース中は移動も多く、実戦続き。源田さんは技術的な練習や気持ちの整理などに重点を置くそうです。シーズン中に基本練習をずっと繰り返してしまうと、体にも疲労がたまります。だからこそ、このオフの時期にもう1度基本的な動作を徹底して繰り返し、土台となる基礎の部分を身体に染み込ませます。それが源田さんのシーズンへの準備。自主トレをする意味はこういった部分にあるそうです。
ヘタクソな僕が言うのは大変おこがましいのですが、源田選手、藤岡選手、黒田選手の3人が基本練習を繰り返すのを間近で見ていると、守備に関しては源田さんの技術の高さは突出していました。ボールへの合わせ方、グラブの使い方、ボールの球出しの速さ。どれをとっても違いが出るのです。そしてそんな源田さんに学ぶために、藤岡選手も黒田選手もこの自主トレに参加しているのだと感じました。
自分が理解してないと説明できない
源田さんはほかの人のプレーを見てさまざまなことに気づいたり、藤岡選手や黒田選手から質問されても、それをしっかりと丁寧にわかりやすく説明する場面が多く見られました。あれだけうまいと感覚、センスだけでプレーしていると錯覚してしまいそうになりますが、そんなことはまったくありませんでした。
源田さんは「ほかの人のプレーを見て説明したり、質問されたときって、まず自分がしっかり理解してできてないと説明できないから。そうすることで改めて自分への確認もできるから、大事にしてる」と言います。
自主トレに参加して感じましたが、藤岡選手も黒田選手も確実に成長してキャンプに臨んだと思います。とくに黒田選手は僕が見てもハッキリわかるほど、日々、上達していきました。練習が終わって夕食をとって部屋に帰っても、練習中に撮影した動画や写真を見返しては源田さんと自身のプレーの違いを見比べて勉強し、次の日の練習に向かったそうです。そんな姿を見ていると、絶対に1軍で活躍してほしいなと思いました。
源田さんも黒田選手の成長を実感していました。「いやあ、うれしいよな!」と喜んでいました。