野球

連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

最後までかっこいい野球人でいてほしい 野球を愛する大人からのエール

懸命に野球に向き合ってきたすべての学生たちに伝えたいです(写真はすべて本人提供)

龍谷大平安高校・立正大学で野球部のマネージャーを務めた4years.野球応援団長・笠川真一朗さんのコラムです。今回は甲子園、大学野球春リーグ中止を受けて、学生たちへのエールを綴(つづ)ってくれました。

「なんでこんなことに」心苦しい日々

「学生へのエールを」とのご提案を頂いたので、約1か月ぶりに4years.でコラムを書かせて頂きます。もし楽しみにしてくださっていた方がいましたら、お待たせして申し訳ございませんでした。弱々しい自分に嫌気が差して毎日修行をしていました。僕がエールを送るも何も、逆に学生から勇気や元気をもらっているので大したことは言えませんが、とにかく思ったことを書いてみます。

このコラムを書いているのは5月20日。今日、夏の甲子園と各都道府県の地方大会の中止が発表されました。苦渋の決断をされた高野連の方々も胸が苦しかったと思います。そしてなにより、日々夢の実現に向けて練習に打ち込んできた多くの学生の気持ちを考えると、ものすごく胸が痛いです。そして辛いのは高校野球部だけじゃないことも重々、承知しています。

グラウンドに声が響くこともなくなってしまいました(写真は2015年、筆者大学時代のもの)

全国の学校で授業や部活動の自粛、制限が続いており、まともな学校生活ができていない現状を報道やSNSで目の当たりにします。そういったものを見ると「なんでこんなことになってしまったのか」と現実として受け入れられない瞬間が訪れて心苦しくなります。

野球が教えてくれた、苦しい時間をプラスにすること

僕自身も取材に行くことができない状況が続き、アルバイト先も休業し、「コロナショック」を身に染みて実感しています。ただ、不思議なことにまったく悲観はしていません。この現状をどうにかするために、意味のある時間にするために、様々なことを始めました。毎日必ず走ったり、この2カ月で本を40冊以上読んで感想文を書いたり、画像編集ソフトウェアを購入して画像・動画の編集を勉強したり。なによりも、平安高校時代の恩師・原田英彦監督の野球を通じた人間教育を多くの人に伝える書籍を出版したいので、そのために色々と書きためたり。もちろんオンラインで何人かの選手に取材をさせて頂いたりもしています。こちらは後日、掲載します。

原田監督のことも書き溜めて、多くの人に伝えたいと思っています

僕はとにかく自分としっかり向き合う時間が増えました。芸人を辞めてフリーライターになってからまだまだ日が浅く、経験もそんなにありません。今の時間を、自分を磨くために使えれば、その成果は後から必ずついてくると確信しています。そう考えたら、けっこう良い時間を過ごせてるんじゃないかと思っています。ここで負けずに、苦しい時間をプラスに変換していくことが大切だということは、野球という部活動が教えてくれました。そしてこれまで取材をしてきた選手たちの言葉が頭をよぎって、何度でも奮い立たせてくれます。野球の力はもちろんですが、いろんなモノや人に助けられて生きているんだと強く実感しました。人は自分ひとりの力じゃ何もできません。

気持ちはわからなくても、寄り添うことはできる

でも、こんな僕のコロナショックとは比べ物にならないのが、今の学生の気持ちです。はかり知れません。もし自分が高校最後の夏を、大学最後の春のリーグ戦を、得体(えたい)の知れない感染症のせいで奪われたらと何度も考えました。しかし何度考えても答えのようなものは出てきません。なぜなら僕には高校3年の夏は当然のようにあって夢をかなえたし、大学4年の春も当然のようにリーグ戦を迎えたからです。だからどれだけ考えても、今の学生の気持ちはハッキリ言って僕にはわからないんです。

それでも、気持ちに少しくらい寄り添って、一緒に頑張ることくらいはできるんじゃないかと思いました。むしろここで寄り添い、応援しなくて「何が『4years.野球応援団長』じゃボケ。」くらいには感じています。

早朝、走っているとき。苦手なことだからこそ向き合わないとと思いました

そう思って始めたのが毎日の2時間走です。距離にすると18キロから20キロくらいで、もう2カ月続いています。僕は本当に走ることが大嫌いです。何よりもしんどいので。でも、大人が椅子に座ってカタカタポチポチと文字を打って不満や愚痴を垂れ流したり、実現させる気のない提案を小さな声で繰り返すくらいなら、自分にとってしんどいこと、苦手なこと、自分の課題に対して本気で向き合うことの方が選手と一緒に戦えるんじゃないかと感じました。

頑張る学生たちにパワーをもらえたから

「人の力になりたいなら、まず自分の力をつけなさい。自分のことを頑張りなさい」。高校の時、原田監督によく言われた言葉を何度も思い出しました。こうしたほうが「何かを変えられる」と本気で思ったんです。あくまでこれは僕の考えなので、肯定しなくて大丈夫です。間違ってることかもしれません。

ただ、うれしいことに「僕も毎日トレーニングを続けようと思います!」「落ち込んでる暇はないです!」「野球好きなんで負けずに頑張ります!」、そういった内容のメッセージをくれる高校生や大学生が現れました。大人でも僕を見て走るようになった人もいます。結果的に、人の生活に少なからず良い影響を与えることができました。

しかし、僕がそう思って走り続けられる大きな理由は、最悪の事態が起こり得る現状にも関わらず、それでも限られた練習場所で精一杯練習する学生たちがたくさんいたからです。本当に前向きだと感動しました。かっこいいです。野球はこうじゃないと。

僕の行動がパワーを与えたんじゃなくて、学生たちにパワーをもらっているんです

本来なら、「おい、なんで中止の雰囲気出してんねん」「おれらの3年間どうなるねん」「何のために頑張ってきたんかわからん」、そう思っていいんです。折り合いなんかつけなくていいです。腹を立てても、落ち込んでも、誰かを恨んでも全然いいと思いました。それくらい、大きな舞台が消えてしまう可能性が極めて高い状況だったので。それでも、やれることを懸命にやる学生はたくさんいました。切り替えて勉強に集中しようとする選手もいたなら、それも本当に素晴らしい判断だと思います。パワーを与えないといけない大人の僕が、逆に学生たちに大きなパワーをもらって苦手なことに挑戦することができました。お礼を言わせてください。本当にありがとう。尊敬しています。

一番かっこいい選択肢を選んでほしい

ただ、この現実を簡単に受け止めることはできないと思います。それでも悲しいことに時間は待ってくれず、人生はこれからも続いていきます。今まで積み重ねてきた過程はもちろん無駄になりません。必ず実力になっているはずです。これからの自分の行動次第でそれをもっとプラスにできると、野球人はそれができると僕は信じています。まだ気持ちの整理がつかない人もいれば、切り替えて次の目標に向かっている人もいるはずです。どうか今ある選択肢の中で「いちばんかっこいいもの」を選んでください。誰かが必ずそれを見ています。

そして、君たちがもし先輩に勇気やかっこいい背中を見せてもらったなら、次はそれを後輩たちに思いっきり見せてやってください。そうやって夢や目標は繋(つな)がれていきます。そうやって希望を生み出してきたのが野球です。それを101回も繋いできたのが高校野球です。102回目の君たちも大会が中止になったとはいえ、それを次に繋いでいく権利は全員が平等に持っています。どうかその平等な権利を、愛する野球部や後輩のために存分に使ってください。それが自分のためになると信じてください。最後までかっこいい野球人でいてくれることを心から祈っています。

僕は大人なので明日からも走り続けます。
できればこれからもかっこいい君たちと一緒に走り続けたいです。

野球応援団長・笠川真一朗コラム

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