陸上・駅伝

順大・藤曲寛人、初マラソンで2時間12分台も「中途半端」 目指すは今井正人超え

高速レースの中、藤曲は自分の走りに集中した(撮影・北川直樹)

東京マラソン2020 男子

3月1日@都庁前スタート、東京駅前をフィニッシュとする42.195km
42位 藤曲寛人(順天堂大4年)2時間12分24秒

初めてのマラソンを走り終えた直後の藤曲(ふじまがり)寛人(順天堂大4年、加藤学園)は、どこか飄々(ひょうひょう)としたつかみどころのない雰囲気だった。「2時間10分前後の練習はできてました。実際に走ってみて、タイムは12分台で目標通りにはいかなかったけど、脚はつくれてきているのかな」。それでも学生トップだった土方英和(國學院大4年、埼玉栄)が2時間9分50秒で“サブテン”(2時間10分切り)を達成したと聞くと、悔しそうな表情を見せた。

自分のレースを貫き、一人また一人と抜いていく

マラソン自体は高校生だったときから思いはあり、順天堂大の長門俊介監督にも「4年生ぐらいでマラソンにチャレンジしたらいい」と言われていた。ラストイヤーはマラソンも頭の片隅には常にあったが、本格的な練習に取り組んだのは東京マラソンの1カ月前になってからだ。

年始の箱根駅伝で藤曲は2区を走り、順天堂大は14位だった。そこからの1カ月は一人で練習をこなし、その後、卒業後に進むトヨタ自動車九州でマラソンに向けた練習に取り組んだ。練習期間は短かったものの、順調に調整ができているという思いはあった。1992年バルセロナオリンピックのマラソン銀メダリストでもある森下広一監督からも、「初マラソンでまわりをびっくりさせるようなレースをしてこい」と背中を押された。

東京マラソン男子のペースメーカーは第1集団が1km2分55~56秒(ターゲットとするゴールタイムは2時間3分4~46秒)、第2集団が1km2分58秒(同2時間5分10秒)と、いずれも2時間5分50秒の日本記録を更新するタイムに設定されていた。そんな高速レースの中でも藤曲は自分の走りに集中し、1km3分5秒程度のペースを刻み続けた。

5km時点で91位だったが、10km時点で87位、15kmでは81位と着実にあげていく。しかし体がまだ長い距離に慣れていなかった。30kmを越えたところで差しこみが起き、ペースが落ちる。それでも一人また一人と抜いていき、最後は42位でゴール。途中から帝京大の小森稜太(4年、いなべ総合学園)の背中が見え、「勝ちたい」という思いもわいてきたが、あと一歩届かず。6秒遅れでの学生3位に、「まだまだでした」と言葉をもらした。

目の前には帝京大の小森の背中が見えていたが、体が動かなかった(撮影・佐伯航平)

先輩である今井正人や下田裕太の強さを見せつけられ

初のマラソンを終えての手応えは4~5割程度。「トレーニングは当然。加えて食事や睡眠とか、マラソンをしっかり走れるための丈夫な体をつくっていかないと」。そう口にした藤曲は、大学の大先輩であり、同じトヨタ自動車九州で競技をしている今井正人の姿を思い描いている。

藤曲は昨年の夏はトヨタ自動車九州で練習を重ね、今井とは練習はもちろん、生活でも多くの時間を過ごしてきた。「今井さんと一緒に生活する中で、競技だけじゃなくて人間性のすべてが強さにつながっているって感じました。そのぐらいのタフさがないとダメだなって改めて思い知らされたというか」

東京マラソンを前にして、今井からは「思い切っていってこい」と声をかけてもらった。レースを終えたいま、藤曲としては「中途半端なレースをしてしまった」という思いが強い。それでもあこがれの今井を目指し、その今井を超えられるよう、新しいチームで力をつけていく。

また今大会には小中高の先輩である下田裕太(青山学院大~GMOアスリーツ)も出走し、2時間7分27秒の記録で13位だった。下田は大学2年生のときに東京マラソンに挑み、2時間11分34秒をマーク。下田の走りを見て、藤曲もマラソンへの思いを強くした。今大会で自己ベストをたたき出した下田に対し、「改めてすごい人なんだなって思いました」とまた刺激を受けた。

主将として臨んだ最後の箱根駅伝で、藤曲(右)は悔いを残した。その悔しさを胸に、トヨタ自動車九州で新しいスタートを切る(撮影・藤井みさ)

2時間12分24秒は順大歴代2位となる好記録。それでも藤曲は満足していない。前述の通り、最後の箱根駅伝は14位でシードを逃した。藤曲は大エースだった塩尻和也(現富士通)の後を継いで2区を走ったが、高速レースに苦しみ、区間16位に沈んだ。「箱根駅伝も不完全燃焼で悔しさが残ってます。だから実業団では見返してやりたいです」。飄々とした雰囲気の中に、確かな闘志を感じた。

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