流経大・アピアタウィア久、東京五輪延期で再挑戦 ラストイヤーはチームのために
今春、思いもよらぬ事態が起きた。新型コロナウイルスの感染拡大による影響でスポーツ界の活動がストップし、東京オリンピックの開催が1年先の来夏に延期。社会状況を考えれば複雑な心情ではあったが、流通経済大のアピアタウィア久(4年、東邦)はチャンスと捉えている。
「当初の日程であれば(東京オリンピックの)メンバーに選ばれなかったと思いますが、延期されたことで少しは可能性が出てきたのかなと。また招集してもらえるようにこの1年間は必死に練習して、試合で活躍する姿を見せたいです。やっぱり、オリンピックはあこがれの舞台なので」
1年生のときにU-21日本代表、実力差を痛感
1度はあきらめかけた夢である。2018年3月、オリンピック世代のU-21日本代表に初招集され、パラグアイ遠征へ。プロ選手が大半を占める中、ただ一人、大学1年生として参加した。しかし思うようなパフォーマンスを発揮できず、周囲との実力差を痛感させられた。悔しさばかりが残っている。「プレーの安定度が違う」と自らの課題が浮き彫りになった。
代表活動を終えて大学に帰る際、森保一監督から「期待しているので頑張ってほしい」という声をかけられたものの、それ以来、オリンピック世代の代表から遠ざかっている。大学2、3年生では満足のいく働きを見せられずに苦しんだ。1年生のときにインカレ優勝を経験し、代表入りまで果たしたのが嘘のようである。「調子が上がらなくて、サッカーをしていても嫌になりそうになりました」。オリンピック代表入りの現実味が徐々になくなり、いつしかはるか遠い舞台になっていた。
それでも20年に入り、風向きは変わり始めた。センターバックとしての高い潜在能力を買われて、3月にJ1のベガルタ仙台に内定。大学に籍を置きながらJリーグの公式戦に出場できる特別指定選手にも登録された。「プロの舞台で活躍すれば、オリンピック代表の森保監督にも見てもらう機会が増えます。今季はJリーグでも試合に出たいと思っています」。言葉には自信がにじむ。
曺貴裁氏に知らされた「責任感」
意欲だけではない。最終学年を迎える今季は、練習試合から確かな手応えを感じている。今年3月に流経大のコーチに就任した指導者の存在が大きい。昨年10月に選手やスタッフへのパワーハラスメント行為でJ1の湘南ベルマーレの監督を退任した曺貴裁氏が、研修を兼ねて大学にきてから意識が変わったという。
「チョウさん(曺貴裁コーチ)に『仲間から信頼される選手こそが一流だ』と言われて、一つひとつのプレーに責任を持つようになりました。チームのために献身的に走り、最後の最後まで体を張らないといけないと思うようになったんです。責任感が何倍も高まりました。チョウさんのもとで、一回りも二回りも成長したいです」
プレーの助言もすべてプロ基準で、学ぶべきことばかり。いまは多くのことを吸収し、根本的なところから見直している。「『簡単に転ぶな』とよく言われるんです。転んでいる間に失点するのはバカバカしいだろうって。転んだら、すぐに立てと」
身長191cm。その体格は他のプロ選手たちと比較しても、引けを取ることはない。50mを6秒3で走り、軽やかな身のこなしも魅力の一つだ。日本人の母と元陸上選手だったガーナ人の父を持ち、そのスピードは親譲り。体の線はまだ細いものの、精力的に筋力トレーニングに励んでおり、パワーアップに余念がない。「まだこの体を十分に生かせていないですが、体ができてくればJ1でもやっていけると思っています」
プロを目指す仲間のためにも、取れるタイトルを全部とる
全国に緊急事態宣言が拡大された4月17日以降は全体練習ができず、自主トレーニングに励む日々を過ごしている。昨季、関東大学1部リーグから降格し、今季は2部を戦うことになるが、モチベーションが落ちることはない。「むしろ燃えていますね。チョウさんがきて、僕らは確実に強くなっています。早く公式戦をしたいです」
まだ進路が決まっていない同期のことも気にかけている。リーグ戦でアピールしたくてもできない仲間の立場に立って考えると、心苦しくなる。「簡単に頑張れよ、とは言えないです。上から目線になってしまいますし、いまの状況で何と声をかけていいのか……。僕も進路が決まっていなければ、内心は相当不安だったと思います」
アピアタウィアにできることは、チームの勝利に貢献することだ。例年であれば4月上旬に開幕となるリーグ戦は今季、5月30日に延期となり、4月29日には再延期が発表された。また例年8~9月に開催されていた総理大臣杯も、今年初めて中止されることが決まった。それでもリーグ戦のスタートを信じ、快進撃を誓う。
「今季は取れるタイトルを全部取りたい」
周囲が驚くほど勝利を重ね、流経大が大きな注目を浴びれば、自らの目標である東京オリンピックに近づき、そして仲間たちの夢を叶(かな)えることにもつながるはずだ。大学ラストイヤーにかける思いは強い。