サッカー

200人が暮らす流経大サッカー部の寮、名物は中野雄二監督の目玉焼き

第2寮で日直を務める学生たちが元気にあいさつしてくれた

大学サッカーの強豪である流通経済大学は約200人の大所帯で、全員が茨城県龍ケ崎市にある「龍駿寮」で生活している。2002年に就任5年目だった中野雄二監督が「チームを強化するには栄養と休養が必要」と考え、最初の寮をつくった。いまは全部で4棟あり、その暮らしぶりには「共同生活」という言葉がぴったりだ。

200人と2匹の共同作業

歴史を感じさせる第1龍駿寮では、おもに1、2年生が暮らしており、治療室と大浴場もある。玄関脇に日直室のある第2寮には、おもに2、3年生が住んでいる。日直は2、3年生の担当で、交代で郵便物の受け取りや寮の見張りにあたる。第3寮では2~4年生が生活しており、朝夕の食事は全員がここの食堂でとる。食堂の手伝いは1年生の担当だ。

第1~3寮は4人部屋だが、おもに3、4年生が暮らす第4寮だけは6人部屋。しかし、ここの各部屋にはキッチンがあるため、「いつか第4寮に」と思っている学生も多いそうだ。

2002年に建てた第1寮。いまはおもに1、2年生が生活している

寮には原付バイク90台を備えており、申請すれば自由にバイクが使える。ただし周りは住宅街。大通り以外ではバイクを押して通るよう、中野監督は学生に指導している。「門限は22時半ですから、それまではバイクで走っても、ルールとしては間違ってないです。でも道徳的にどうかってことを考えてもらいたいんですよ。例えば夜、家の前をバイクで一斉に走られたら、その家の子はどう思うだろうか。地域に生きるということは、地域の人とどう向き合うかということ。大学から先の社会でどう生きて行くかを、僕は教えたいと思ってます」。中野監督は「人としての成長」を学生に求めている。駐輪場には小屋があり、4年生が交代で宿直している。

寮には2匹の犬がいる。「アディ」と「ダス」だ。2匹ともグラウンドの側に捨てられていたそうだ。かわいそうに思った寮生が拾ってきて、「ここで飼えないか?」と仲間たちに相談。「全員で面倒を見よう」と決め、いまは寮のマスコット的な存在になっている。中野監督が名前を呼ぶとゆっくりと近寄り、初対面の私にも優しいまなざしを送ってくれた。

中野監督の姿を見つけて近寄ってきた「ダス」。とっても静かで優しい目をしていた

5時に起きて厨房へ

寮母は中野監督の妻・博子さん。約200人の朝食、夕食をパートの方と一緒に、週5日つくっている。朝食づくりは1年生のほか、中野監督も手伝う。寮の近くに住む中野監督は毎朝5時に目を覚まし、5時半には寮の厨房(ちゅうぼう)に入る生活を送ってきた。

第2寮内にある厨房。奥には寮生の顔写真が貼られており、博子さんはこれを見ながら一人ひとりを覚えるようにしている

中野監督の担当は、全員分の目玉焼きを焼くこと。さらに夕食と翌日の朝食用の米を炊く。2日半で約60kgもの米が消費されるそうだ。機械で米を研ぐだけでも1時間以上かかる。ときには夕食の支度として、ニンジンやダイコンを切ることもある。「女房とパートの方は(台所仕事に慣れてるから)しゃべりながらでもできるけど、僕は集中してやらないといけないんで、結構大変ですよ」と監督。学生が食べ終わってから、監督と博子さんは朝食をとる。

中野監督はこの朝食の時間を大切にしている。栄養のある食事を提供するのはもちろんだが、学生一人ひとりと向き合える時間としてもとらえている。流経大サッカー部は三つのグラウンドに分かれて、同じ時間帯に練習する。中野監督はトップチームの約30人とは練習時間中も向き合えるが、そのほかの選手とは顔を合わせる機会が十分にはない。それでも朝食の準備をしていると、全員の顔を見られる。

「たとえば家で子どもと食事してたら、顔色とか食べ方とかで『元気だな』『元気ないな』っていうのが、なんとなく分かるじゃないですか。全寮制で学生たちを預かってる以上、親の代わりに200人の子どもたちと向き合わないといけないんじゃないかって、僕は思ってます」

寮ができた当初は慌ただしく、中野夫婦もほぼ毎日寮で暮らしていた

寮母がいちばん試合にシビア

そんな中野監督のことを、学生たちはどう思っているのだろうか。ある学生に質問したところ「監督よりも博子さんの方が恐いです」との言葉が返ってきた。聞けば、生活の中で気が利かないようなことがあると、すぐに怒られるとのことだった。博子さんは寮での“母親”という意識を持って、学生と日々向き合っている。「試合に関しても、いちばんシビアなのはうちの女房なんですよ」と中野監督は言う。「応援に行って、おもしろくない試合だったら『入場料返せ』って僕に言ってきます。『あなたの責任でしょ?』って。いちばん響きますよ」

取材にお邪魔した日は、71人の新入生を迎えるため、第1寮を修理する話が持ち上がっていた。寮は当初、1~4年生をごちゃ混ぜにした部屋割りだったが、いまは同学年同士での部屋割りになっている。ちょっと部屋をのぞかせてもらった。どの部屋も干されたままの洗濯物がカーテンレールに並んで、まさしく男子学生の部屋、というたたずまいだった。

第1寮のとある部屋。「だいたいどの部屋も同じような感じですよ」と中野監督

ある部屋ではストレッチポールを椅子にして、IHコンロでラーメンを作っている学生がいた。本当は部屋での調理は禁止されているが、中野監督は見て見ぬ振り。「男の子ってこんなもんですよ」と笑う。厳しく、おおらかな“両親”に見守られながら、流経大サッカー部の学生たちはすくすくと育っていく。

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