陸上・駅伝

学法石川高OBがオンライン講演会で学生にエール「今だからこそできることを」

講演会を開催した(上左から)田母神一喜、久納碧、阿部弘輝、半澤黎斗、小松力歩、真船恭輔、遠藤日向

学法石川高校は福島県の陸上強豪校で、毎年大学駅伝界にも有力選手を送り込んでいる。5月13日(水)・15日(金)に田母神一喜(中央大~阿見AC)らOBの選手たちがオンラインで講演会を開催した。講演会の様子を取材し、登壇者にそれぞれの思いを聞いた。

「何かできることがあれば」母校からも快諾

新型コロナウイルスの影響でさまざまな大会が中止になり、「チーム」としての練習もできなくなっている現在。だがこの時期だからこそ、現役の選手たちによる発信も増えている。学法石川、通称「ガクセキ」でともに陸上に取り組んだ田母神たちも、高校時代の話を中心にインスタライブなどで発信し続けている。特に遠藤日向(住友電工)はGW中、田母神、阿部弘輝(明治大~住友電工)相澤晃(東洋大~旭化成)らと連日発信。その中で全員の経験を話せる場を作ってもいいのでは、という話が出てきたそうだ。

今回の講演会の発起人となった田母神。司会進行もつとめた

5月10日(日)には主に2015年の全国高校駅伝に出場したメンバーで、学法石川高校の学内向けにオンラインで講演会を開催。さらに「高校の後輩たちだけではなく、全国の学生に少しでも何かできることがあれば」と田母神が中心となって今回の講演会を企画し、母校からも「学法石川OB」として講演会を開催することについて快諾をもらった。13日は福島県内向け、15日は全国向けとして募集。田母神、阿部、遠藤のほか、昨年度日体大の主将を務めた小松力歩(現在は一般企業)、同じく昨年度東京国際大の副将だった真船恭輔(八千代工業)、半澤黎斗(早稲田大3年)、久納碧(法政大3年)の7人が登壇者となった。

レベル高く切磋琢磨した高校時代

講演会では「なぜガクセキに進学したか」からトークがスタート。真船、遠藤は中学でも陸上部だったが、小松、半澤は中学までサッカーに取り組み、進路を考える際にサッカーか陸上か迷っていたそうだ。阿部、田母神、久納は野球部で、中でも田母神と久納はともに郡山二中で中学時代から先輩後輩の間柄。中学の陸上部の顧問が学石陸上部の監督を務める松田和宏先生の奥様という縁もあり「高校で陸上をやるならガクセキじゃないと怒られちゃうんで」と笑わせた。

続いて高校に入ってよかった点として、小松が「全員のレベルが高く、練習になったら先輩後輩も関係なくバチバチにやれた」と陸上に集中できたことを話すと、半澤も「モチベーション次第ではトップレベルの選手と一緒に練習できる」。部全体のレベルの高さ、成長できる環境については全員が感じていたようだ。

箱根駅伝、それぞれの思い出

高校で陸上に取り組む選手の多くは、箱根駅伝に憧れる。箱根駅伝を走ってみた実際の感想を問われると、それぞれが全く異なることを口にした。現役大学生の久納は今年始めて箱根駅伝を走ったが、1区19位とブレーキ。「『箱根に出る』だけが目標ではダメだなと感じた」と振り返る。次は「1区で3番以内」が目標だ。

久納(右)は悔しいレースだった(撮影・安本夏望)

同じく今年初出場となった半澤も6区19位。1500m高校歴代2位の記録を持つスピードランナーだが「館澤さん(亨次、東海大~DeNA)は(1500mも駅伝も)どっちも両立してるので、自分もああいう選手になりたい。(アジアジュニアで日本代表として走ったが)日の丸もいい経験だったけど、箱根で走れたのは特別だった」と思いを語った。

1500mからハーフの距離への挑戦を「やってよかった」と語った半澤(左、撮影・佐伯航平)

真船は2年時に1区で出場して区間最下位、その後3区11位、7区7位だった。「2年生のときは『箱根に出たい』という気持ちだけで、チームに迷惑をかけてしまった。3年になって『どこまで勝負できるか挑戦してみよう』と臨んで悔しさを克服できた。4年生になってからチームで戦おうという思いが強くなって、最後の箱根は自信を持ってスタートできた。1回1回走るごとに成長を感じられました」。昨年12月の取材でもガクセキの同級生への思いを問われ「阿部や相澤に個人では勝てないけど、チームでは勝てる」と駅伝の面白さを口にしていた真船。東京国際大は今年5位になり、6位の明治大、10位の東洋大を上回った。

最後は自信を持ってスタートラインに立てたという真船(右、撮影・佐伯航平)

真船に対して「完敗です!」と冗談めかした阿部は、大学入学当初は箱根駅伝にあまり興味がなかったという。「トラックで結果を出した上で箱根でも結果を出す、走って当たり前という気持ちでした」。1年生からメンバーに選ばれるが、4区区間13位と思うように走れず、全く楽しさを感じられなかった。2年生のときはチームが出場権を逃し、2区の補助役員を担当。そこで同級生の真船と相澤が選手として走っているのを見て、「絶対に結果を出してやる」と悔しさがこみ上げてきた。

「トラックだけじゃなく駅伝も走れる『明治大の阿部』を見せてやる、という意識に変わりました。3年生のときは個人で勝負する意識が強かったけど、4年生のときは個人の成績よりチームの成績。確実にシード権を獲得するんだと、箱根に対する思いが一番強かったです」。取り組む上で応援してくれる人のありがたさも感じたといい、箱根駅伝で成長できたと振り返る。

陸上部のキャプテンを務め、人間的にも成長した阿部。7区区間賞で有終の美を飾った(右、撮影・佐伯航平)

逆に、東京オリンピックを目指して高校卒業後に実業団を選んだ遠藤は「見ていて面白いけど、関東の一大会で、箱根だけがなぜこんなに注目されてるのかなという気持ちはある」と率直な言葉を口にする場面もあった。阿部も「やはり日の丸は特別。箱根はどっちかというと楽しんで走れたという感じ」という。

他にもふくしま駅伝の思い出や、大学の勉強と学業の両立で大変だったこと、今の学法石川高校についてなどさまざまなテーマで語った7人。1時間はあっという間だった。

「努力したことはなくならない」

今回の登壇者7人は全員がインターハイ経験者だ。コロナウイルスの影響でインターハイ、全中の中止が決まり、目指してきたものがなくなる状況に阿部は「インターハイは高校生にとって特別な大会。それが中止になったらどんな感情をぶつけたらいいのかわからなくなるだろうと思う。でも大会がなくなったとしても、そこまでに努力してきたことはなくならないし、努力した分だけ自分が成長できるはず。気持ちの切り替えはなかなかできないかもだけど、いつかこの経験が自分のためになるだろうと思う」と高校生の複雑な胸中を考えながら丁寧に言葉をつむいだ。

他の登壇者からも「試合がないからこそ今までにないことにチャレンジしてほしい」「この経験は誰もしたことがない、とプラスに考えて進んでほしい」と前向きな言葉が聞かれた。

それぞれが自分の経験を語ることで、頭の中が整理できたという

講演会を終えて、得たものがあるかを質問してみた。阿部は「体験談をしっかり話すことによって、自分を見つめ直す機会にもなりました。こういう機会があって刺激になります」。小松は「(4年間箱根にも出られず)自分自身に華々しい実績がないから、最初は出たくなかった」というが「失敗しかしてこなかった自分と同じ過ちを犯してほしくないと思ったので、経験談を語るのもありなのかなと。有名な同期と一緒に発信できるのはありがたい。出てよかったと思う」。遠藤も「自分で発言をすることによって頭の中が整理される。次の目標などを言ったからには、自分もモチベーションを落とさずに頑張らないといけないなと思う」とそれぞれがこの機会をプラスと捉えていることがうかがえた。

東京オリンピックという大きな目標が1年延期となり、トップ選手といえども心のコントロールが難しいときもある。「トップ選手だからといってモチベーションが強いわけではなく、人間なので弱いところもある。そういう姿も伝えたかった」という田母神。自身も大会がなくなり競技へのモチベーションが下がったこともあるが、「その分競技の他にできることがあるかなと企画したり、チームとして子どもたちへの指導もやっているので、そっちに比重を置いたりしています」とこの時期の取り組みを明かす。

それぞれがこの期間、いまできることを考えながら前に進んでいる。講演会の登壇者、参加者ともに有意義な時間となったことは間違いないだろう。

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