陸上・駅伝

特集:第50回全日本大学駅伝

早稲田大ルーキー・半澤黎斗「立ち直る力」を大学でも

半澤は出雲のリベンジをかけた全日本でも、思うように走れなかった(撮影・今山和々子)

全日本大学駅伝

11月4日@熱田神宮西門前~伊勢神宮内宮宇治橋前の8区間106.8km
5区(12.4km)半澤黎斗(早大1年)37分59秒(区間14位)

苦戦の理由、距離ではなかった?

1500mで昨夏のインターハイ優勝、高校歴代2位(3分44秒57)と活躍して早大に入った半澤黎斗が、学生駅伝では出雲、全日本と失敗レースが続いている。武器であるスピードを駅伝に生かせず、全日本はチームも15位と、途中棄権を除けば過去最低順位を記録してしまった。「3区の中谷(なかや)がスゴくいい流れを作ってくれて、4区の直希もその流れを引き継いでくれたのに、僕が流れを完全に断ち切ってしまった。僕に責任があります」

早大は10000mの現チーム最高記録を持つ永山博基(4年、鹿児島実)や、前回の箱根駅伝2区を任された太田智樹(3年、浜松日体)ら、実績のある上級生がけがなどで起用できず、1年生を4人出場させた。1区の千明龍之佑(ちぎら、東農大二)、3区の中谷雄飛(佐久長聖)、4区の太田直希(浜松日体)、そして半澤である。

中谷が区間2位で7人を抜き、チームを6位に引き上げた。太田は1つ順位を下げたがシード圏内(8位以内)を確保していた。ところが半澤のところで3人に抜かれて10位に落ち(区間14位)、早大は7区でも5つ順位を落とした。関東勢では最下位の15位に終わってしまったのだ。半澤は10月の出雲でも1区で区間19位と、全日本以上にブレーキになった。脱水症状になったからだが、緊張から前日に寝付けず、当日の朝も食事をほとんどとれなかった。体調のコントロールができなかった。

出雲の1区は8.0km、全日本5区は12.4km。距離に課題があると言われた半澤だが、出雲の2週間後に10000mを29分25秒05の自己新で走っている。

「自分はもともと1500mの選手というわけではなく、距離に対して苦手意識はありません。練習もAチームでしっかりできてましたし、調整も上手くでき、ある程度走れる手応えはありました。足りないのは気持ちというか、自信というか、そういうところだと思います」

半澤が駅伝でも期待の選手であるのは間違いない。早大の相楽豊駅伝監督は「将来、早大の核となる選手の一人」と話す。「出雲での心の傷はあったと思いますが、失敗した後の怖さを乗り越えてほしいと思って、全日本も起用しました。全日本もダメでしたが、これで自分を捨ててしまわないで、大きく育ってほしい」

全区間が20km以上となる箱根駅伝だが、半澤は怖れず挑戦する。残り2カ月で、箱根駅伝を走る走力をつけることに集中していくという。「箱根に間に合えばしっかりと走りたい。自信がつくまで、まずは練習をしていきたいと思います」。距離の違いもあるが、箱根駅伝という注目度の高い大会への取り組みが、半澤の気持ちを強くするのではないか。

高校恩師が語る半澤の可能性

半澤は福島県の強豪校である学法石川高の出身。1学年上には今年のニューイヤー駅伝1区で区間賞を取った遠藤日向(住友電工)が、2学年上には学生長距離界で注目されている阿部弘輝(明大3年)、相澤晃(東洋大3年)がいる。3人とも、高校時代から5000mを13分台で走っていたスピードランナーたちだ。

学法石川高の松田和宏監督は学生駅伝2大会の半澤を見て、「自信を持てずに走ってたように見えました」と、教え子を気遣う。「高校駅伝で2回失敗したのでトラウマがあるのかもしれませんが、勝負できる力はあるはずです。きっかけさえあれば一気にいくと思いますよ。本人も言っているように1500mだけでなく、長い距離も走れる選手です」

長い距離も走れる上で、最後のスピードがあるから半澤は強い。「400mのタイムでは遠藤の方が速かったですけど、レースのラスト100mなら半澤の方が速い」と松田監督。早大の相楽監督も、「スプリント練習をさせたら、チームでも群を抜いて速い」と、そのスピードを評価する。

スピードをどう生かすかは、レースや練習を見て選手と指導者が判断していくしかないが、半澤のスピードがあれば選択肢は多くなるだろう。この夏は駅伝でチームに貢献するため、「距離に対応する練習に取り組んだ」(相楽監督)という。その成果がどういう形で現れるのか。来シーズンの種目については、駅伝シーズンが終わってから半澤と相楽監督が話し合って決めていく。

半澤自身は駅伝で失敗した直後ということもあり、来年のユニバーシアード(学生の世界大会)を目標とは明言しなかった。松田監督は「環境に慣れたら力を発揮するはずです。将来は日本代表として、日の丸をつけて走ってほしい」と期待を込めて話している。

再起が期待できる選手

半澤は2016年の高校2年時に全国高校駅伝1区を、インフルエンザを発症した遠藤に代わって走ったが、区間最下位(47位)と大ブレーキを起こした。半澤自身もインフルエンザのかかり始めの状態で出場してしまったのだ。

だが翌シーズンの半澤は、持ち味のスピードを武器に大活躍する。インターハイ1500mで留学生選手に競り勝った。そのときの3分44秒57は高校歴代2位。21世紀に入ってからは最速タイムだった。スピードを生かして5000mでも国体6位に。12月の記録会で出した13分58秒08は昨年の高校ランク5位のタイムだった。

駅伝で失敗しても、翌シーズンに活躍する。まだ箱根駅伝が残っているが、大学1年目の駅伝失敗は、高校2年の都大路での失敗とイメージが重なる。だが本人は「うーん、そうですねえ……」と考えた後に、きっぱりと否定した。

「大学は高校とは、まったく違う世界に来てると感じてます。チームの代表として走るからには、高校時代の実績がどうだったかは関係のないことで、その日走ったレースでいかに結果を残すか。自分はまだ何も結果を残してはいないので、高校のときとイメージを重ねるのはちょっと違うかな、と思います」

相楽駅伝監督は「失敗した後の怖さを乗り越えてほしい」と半澤を起用した(撮影・西杉山亮)

高校のときに全力で取り組んでいたことと、大学生になったいま、全力で取り組んでいることは、選手にとっては大きく違うことなのだろう。具体的に見れば、それは間違いない。高校で活躍したから大学でも活躍できる、という甘い考えを自身で戒めていることも感じられた。

だが少し抽象的に見て、落ち込んだところから立ち直るという部分は、半澤が来シーズンに活躍すれば、高校2、3年のころと同じパターンになる。半澤も「そう期待していただけるのであれば、うれしいことです」と言う。松田監督は「考えることができる選手。自分で考えて立ち直ってくれると思う」と、教え子の再起を疑わない。

半澤も「ここで折れるわけにはいきません」と、逆境に立ち向かう意欲を示した。学生駅伝は厳しいスタートになったが、半澤の4年間(4years.)は始まったばかりだ。

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