陸上・駅伝

特集:第50回全日本大学駅伝

もうひとつの全日本大学駅伝 早スポOBOGが追いかけてみました!!

エンジが映えるように服はわざと暗めのものにしたそうで、ただならぬ執念を感じます

全日本大学駅伝

11月4日@熱田神宮西門前~伊勢神宮内宮宇治橋前の8区間106.8km

今年の箱根駅伝が終わったあと、同期の誰かが言いました。「引退したから、やっと駅伝をテレビで見られる!」

そう、駅伝は現地よりテレビで見る方が断然分かりやすいのです。ありとあらゆる情報をどこよりも早く教えてくれるのが駅伝のテレビ中継です。一方、早スポ時代の現地取材は、時間との闘い。レース中はラジオと身内のグループLINEで情報をかき集め、必死でカメラのシャッターを切り、ダッシュで次の撮影ポイントに向かいます(そして転んでズボンのひざに穴をあける人がいます)。だから、ゆっくりレースを楽しむなんて、とてもじゃないですができませんでした。私も次から駅伝は家でゆっくり見るぞ、と思っていました。確かに思っていました。しかし、私たちはことしも伊勢にいます。なぜ?

11月3日(土)

8時30分
男2人、女5人の早スポOBOGの4年生が、三重県のJR桑名駅東口に集合。そうです。大学のスポーツ新聞はだいたい3年生で引退なのです。四日市市出身の同期が親から借りてきてくれたミニバンに乗り込み、ナガシマスパーランドへ。日本一の絶叫コースターを「これでもか」と楽しみます。その土地の観光スポットに行けるのも、遠征の楽しみの一つです。言い遅れましたが、私たち、しょうこりもなく、全日本大学駅伝を自動車で追いかけることにしたんです。

20時すぎ
Airbnbで予約した長島町の宿に到着。絶叫コースターで精魂尽き果てましたが、お風呂(宿のお風呂から温泉が出てきて一同驚愕)に入ったあと、翌日の観戦ルートをみんなで練り始めます。ネット地図のストリートビューで、横断歩道が観戦スポットの近くにあるかどうかまで確認します。念には念を。そして、四日市っ子が親から聞いてきてくれた裏道を組み合わせていきました。持つべきものは地元民の友……! 結果、距離の短い1区はあきらめ、2~8区を回ることが決定しました。私達のスタートは第2中継所の長島スポーツランド前です。

ルートを固めたあとは、心理学科の子の卒論アンケートにみんなで答えて、ひとしきり盛り上がりました!!

お風呂上り、みんなでコースを考えます。左の男の子が着ているのは高校陸上部のジャージです
レース当日のコースを練る、ドライバーの四日市っ子。このためにパソコン持参です

11月4日(日)

6時30分
起床。2階で寝ていた男子2人は出発15分前まで起きませんでした。寝ぐせ、ついてるよ。

7時30分
宿のオーナーさんにお礼を言ってから、車で出発。中型車に7人というギリギリの移動のため、荷物は最小限に……。と言ってたら、誰ひとり一眼レフのカメラを持ってこなかった! そっか、取材じゃないんだなあ。

後部座席から見た移動中の車内。ガタイのいい男の子は助手席固定です

8時
第2中継所の長島スポーツランドに到着。向かいの松屋で朝ごはんを食べ、隣のコンビニで昼食を買い込みます。コンビニにいるときも、襷(たすき)渡しを見終わったらどの道を使って幹線道路に出るか、などシュミレーションを続けます。

8時30分
第2中継所手前に配置完了。早スポの時はあくまで取材で、選手への応援ではなかったこともあり、今回はみんなここぞとばかりに応援の準備をします。私は大学の生協で、四日市の子は早稲田大学のアシックスストアで買った早稲田パーカーを着て浮かれまくり、違う子は同じく生協で買った「W」の応援旗をおもむろにリュックから出し始めました。現役の時は厳しい意見を記事にすることもありましたが、結局早スポのみんなは早稲田が大好きなんだな、とつくづく思います。

それにしても野球にユニフォームを着て応援する文化があるように、駅伝もパーカや旗みたいな応援グッズがもっと流行ればいいのに。

左がアシックスキャンパスストアの、右が大学生協の早稲田パーカーです。気合十分!

9時過ぎ
ついに2区の選手が通過! 東海大、日本学連選抜、青学大……と次々に走ってくるのですが、生で見る選手は本当にかっこいい!!!!

取材のときは写真を撮らなくてはいけなかったため、ファインダーを介さず選手を見る経験は、ほぼありませんでした。カメラを構えているときも「前のお客さんがいきなり旗を振りだしてフレームに入ることがありませんように!!」と念じていたので、選手の走りを堪能するなんて、もってのほかでした。間近で見る彼らの走りはダイナミックで、迫力があって、息遣いまで聞こえてきます。

「極めた人の走りってこんなすごいのか!」「感動」「青学の橋詰くん頑張ってた」と、みんなで興奮混じりに言い合います(橋詰くんの必死の形相には心を打つものがありました)。ラストスパートが見られる可能性の高い中継所手前、とってもおすすめです!

そしてお目当ての早稲田の宍倉健浩選手(2年、早稲田実)が東洋、法政、順大と集団を作ってやってきました。

「ししくらー!」「ワセダー!」

早スポ時代は年下の選手でも呼び捨てにしたり、あだ名で呼んだりせず、「○○選手」と呼ぶようにしよう、というルールがありました。引退したいま、気兼ねなく応援できる喜び。ああ、うれしい。宍倉くんが、早稲田が頑張っている姿を見られる幸せを、じっくりかみしめます。はぁ~、かっこいい。

車に戻って道路に出ると、道端に現役の早スポ部員が! 車に乗ったOBに手を振る現役記者、という謎な光景ができあがりました。

9時15分すぎ
コースの国道23号線を離れ、東海道の方に出て選手とは別ルートで走り始めました。しかし、30分をすぎると片側一車線しかない東海道が混み始めてしまいます。次の目的地である鈴鹿の第4中継所には間に合わないのかと思っていると、

「早稲田の中谷(なかや)が快走を見せています!」

ラジオから神の声が!! なんと、13位でタスキを受けたスーパールーキー中谷雄飛くん(1年、佐久長聖)が、3位集団に追いついてしまったのです! 「うそだろ」「怪物」「中谷くんが3区にいてくれてよかった……」。私たちが引退してから入学した選手なので取材したことはありませんが、評判以上の走りに車の中がざわめきました。スーパールーキーというか、もはや宝。

10時
10時15分に先頭が通過予定の第4中継所には、どうにも間に合わない。そう判断した私たちは、中継所は通過して近鉄の白子駅あたりで5区の選手を待ち構えることに。ここから、渋滞との戦いが始まるのです……。

10時45分
やっとのことで白子に到着。しかし白子の先頭通過予定時刻は10時40分前後なので、かなり遅れてしまいました。残念ながら5区の選手はおらず。駅のあたりを走ると、観戦後と思わしき各大学の旗を持った人たちが……。うらやましい。

ここで私たちは東海道に別れを告げる決断をします。箱根駅伝でお世話になる国道1号線ですが、車で移動するいま、片側一車線の東海道は向いてませんでした。国道55号に逸れて迂回する作戦に変更です。

しかし。ラジオから悲報が流れてきます。太田直希選手(1年、浜松日体)から襷を受けた5区の半澤黎斗選手(1年、学法石川)が苦戦を強いられ、順位を10位まで落としてしまったようです。1年生が苦しんでるのは心が痛みます。頑張れ……。ズルズルと順位が落ちてしまうときのダメージは、見てる側も本当に大きいんです。なのにラジオ中継の合間、お通夜状態の車内に流れる西野カナの『会いたくて会いたくて』。なんでこのチョイス……。

11時30分
そして、私たちのドライブにも暗雲が立ち込めます。予定していた第6中継所、そしてその先のJR松阪駅周辺で先回りをしようとしていましたが、そこにも間に合わないことが判明します。東海道の渋滞が響き、予定していたポイントをぜんぜん回れません。地図アプリで空いている道を探して向かいますが、選手にはなかなか追いつけず。もはや「選手ってほんとに速いんだねえ」と感心するしかない我ら一同。図らずも彼らのスピードを体感することができちゃいました。松阪駅も間に合わなかった私たちは、予定していた終着ポイントである近鉄宇治山田駅に向かうことに。

12時34分
国道23号線に合流して宇治山田駅に向かう途中で、前方に「報道車」、そして「監督車」が出現。ここで選手と同じか、または追い越したことを確信しました。なんとなく、監督車に手を振ってみます。む、むなしい。

13時
宇治山田駅に到着! 思えば2区を見てから4時間近く車に乗りっぱなしでした。事前に予約しておいた宇治山田駅近くの駐車場に車を停めた私たちは、駅前のローソン伊勢岩淵店でアンカーの選手たちを待ち構えることにしました。するとローソンの前で、1つ上(社会人1年目)の早スポの先輩に遭遇するというミラクルが。社会人になっても駅伝の魅力からは逃れられなかったようです。

みんなで8区の清水歓太選手(4年、中央中等)を応援し、その後バスでゴール地点の伊勢神宮内宮へ向かいます。すると神宮会館の前で取材終わりの現役に会うという、これまたミラクルが。後輩のみんなは、心なしかやつれてました。私たちも去年はこんな感じだったんだろう。

ゴール後、伊勢神宮内宮にて。「W」ポーズで写真を撮ってもらって、早稲田ファンであることがまるわかりでした

………………………………………………

結論から言うと、今回のチャレンジはあまりうまくいきませんでした。レース中は道路状況が読みにくいため、車での移動は至難の業であると言えます。全日本を現地観戦したいならば、現役時代やっていたように、コースとほぼ平行に通っているJR、近鉄を最大限に利用するのが確実だとつくづく思いました。

けれども今回のチャレンジは最高に楽しかった。早スポ時代の思い出が詰まった駅伝に新しいかたちで触れることができ、たくさんの発見を得ました。「現役時代の電車移動とはまた違う、かつ面白いことがやりたい」という私の無鉄砲な投げかけに応え、集まってくれた同期のみんなのバイタリティに感謝です。

テレビ中継は確かに見やすいです。順位もタイムもすぐに把握できます。しかし、テレビのフレームに映ってるものが試合のすべてではない、とも思うのです。先頭の青学をテレビが映しているとき、そのずっと後ろで孤独な一人旅をしている選手がいる。その懸命な姿が放送されることはありません。私は、確かに聞いた選手の息遣いが忘れられません。お茶の間でテレビを見ているだけだった、絶対に聞こえなかった音。そんな“フレームの外”の出来事を、これからも自分の目で見ていきたい。そう思います。

2区の宍倉くんを応援したあと、誰かが言いました。「気のせいかもだけど、宍倉くん、自分たちの目の前でスパートかけた気がする!」。まあ気のせいだと思いますが。もしかしたら……気のせいじゃないかもしれません。“選手のこんなかっこいい走りが見られた!”。このドキドキを味わうために、私たちは伊勢に来たのです。早稲田が、そして駅伝が大好きだから。

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