明治大・阿部弘輝、苦しんだ先でつかんだ区間賞 相澤晃と一緒に五輪を目指す
第96回箱根駅伝
1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
6位 明治大 10時間54分46秒
7区 1位 阿部弘輝(明治大4年) 1時間1分40秒(区間新)
古豪復活にかかせない男が最後の箱根路で魅せた。明治大の主将でエースの阿部弘輝(4年、学法石川)は、7区(21.3km)を1時間1分40秒で駆け抜けた。前回、林奎介(青山学院大~GMOアスリーツ)が打ち立てた記録を36秒も更新。チームは6位に入り、5年ぶりにシード権を手にした。
最後の最後でやっと上向くも、往路は回避
昨年12月14日に実施された箱根駅伝共同取材で、阿部は1区を希望していた。最後の箱根に向け、阿部は一人の選手としての勝負よりも、チームのため、シード権獲得のために全力を注いできた。エースとして自分が流れをもたらす走りをしたい。そう希望しての1区だった。
今シーズンを振り返り、阿部は「とても苦しかったし、思うように結果も残せなかった。正直、あまりいい年でもない」と言う。世界選手権を目標にしていたが、夏前に右の股関節と腸腰(ちょうよう)筋を痛め、約2カ月まったく走れなかった。ジョグを再開できたのは10月になってから。箱根駅伝予選会も全日本大学駅伝も回避し、最後の箱根駅伝にかけてきた。12月半ばにはけがの影響もだいぶ落ち着つき、気持ちも体もかみ合ってきた。それでも状態が上がりきらない。やっと上向いたのはクリスマス過ぎだった。
「個人の結果は正直どうでもよくて、シード権獲得のために何ができるかをすごく意識してきました」と阿部。往路でもいけるかもしれないという思いはあったが、山本佑樹監督から「今回は復路でしっかり区間賞をとって、シード権を獲得しよう」と言われ、7区で最終調整に向かった。
学法石川時代の同期・真船と走った最後の箱根路
今大会で山本監督は「往路に調子のいい選手を走らせて10位以内でゴールし、復路はしのぐ」という戦略を掲げていた。5区を区間5位で好走した鈴木聖人(2年、水城)の活躍もあり、明治大は往路を5位で終えた。6区の前田舜平(3年、倉敷)は順位をキープし、阿部に襷(たすき)リレー。前を行く東京国際大との差は1分だった。
阿部は1km2分50秒ペースで押しきり、最初の10kmを28分30~40秒で入った。二宮(11.6km地点)でのタイムは前回の林と同程度。目の前には学法石川時代の同期である、東京国際大の真船恭輔がいた。追い抜く瞬間、「頑張ろう」と阿部が声をかけると、真船は「ああ」ときつそうな声で応えたという。序盤、阿部は想定よりも速いペースで入ってしまい、中間の走りは少しだらけてしまった。しかしラスト3kmでもう一度ペースを上げた。この瞬間、区間新が狙えると確信したという。
続く8区の櫛田佳希(1年)もまた、学法石川出身。阿部とは学年こそ重なっていなかったが、阿部も気にかけてきた選手だ。昨年6月の全日本大学駅伝関東地区選考会では「僕が面倒見るんで」と山本監督に伝え、自分と同じ1組に櫛田を出走させた。その櫛田は阿部の姿が見えると大きく手を振り、阿部も右手を突き上げ、平塚中継所に入ってきた。櫛田と9区の村上純大(3年、専大松戸)は4位をキープし、アンカーの河村一輝(4年、大垣日大)へ。國學院大と帝京大に抜かれての6位ではあったが、目標以上の結果を全員でつかんだ。
後輩へ「さらなる結果で示してほしい」
レースを振り返り、阿部は「最後にもう一度絞り込めたところはトラックの10000mにもつながると思うので、その収穫は大きかったと思います」と口にした。勝負と考えていた後半で力を出せたことは自信につながった。その一方で「でももっと絞り込めたんじゃないかなという思いもあります。次に生かしたい」と言い、決して満足していない。
ただそれでも、目標としていたシード権を獲得できたことに対しては「非常にうれしい」と素直に口にした。
「できすぎていたところはあるけど、最後の集大成としてシード権をとれたので、気持ちよく卒業できます。シードをとれたら、あとは上がっていくだけ。誰も予想してなかったところに明治がいるって状況だったので、後輩たちは自信をもってほしい。これからは注目されるチームになると思うので、その注目をある意味、自分の走りに生かして、さらなる結果で示してほしい」
今日のレースができれば絶対できる。そう信じて、これからは明治大OBとして見守っていく。
東京五輪ではトラックに、パリ五輪ではマラソンに
前日の往路で、学法石川時代の同期でもある東洋大の相澤晃が、1時間5分57秒という区間新記録をたたき出した。阿部は事前の共同取材の場で「相澤は2区で日本人最高記録を更新すると思います」と言っていた。結果、相澤はそれをさらに超える区間新記録をもって、金栗四三杯を受賞した。「刺激にならないわけがない」と阿部。その刺激もまた、阿部の快走を引き出してくれた。
学法石川時代の同期とはいまでも仲がよく、相澤とも連絡を取り合っている。その相澤はトラックでのスピードを磨き、東京オリンピックの次、2024年のパリオリンピックではマラソン日本代表を目指すという。阿部もまた、同じ目標を掲げている。「一緒にオリンピックに出たいですし、僕もいずれはマラソンをやりたい。ただ、トラックでスピードを磨かないとマラソンで勝つのは厳しいんじゃないかな。トラックで成績を残せるようになるまではマラソンを考えず、トラック1本でやっていきたいです。マラソンは次のパリで目指します」。阿部の言葉に迷いはない。
東京オリンピックは現状、10000mで狙っている。今シーズンはけがの影響で思うように走れなかったこともあり、早々に切り替えて練習を積み、まずは日本選手権に向けて3月に記録を出す。「海外に行かないとタイムは出ないと思うので、できれば海外で1本狙いたいです」と阿部。今春からは、明治大の前主将・坂口裕之も所属する住友電工で走る。今後のレースに関しては、住友電工の指導陣とも相談して決めるという。
阿部が2年生だったとき、明治大は予選会13位で箱根を逃した。そして最後の箱根で念願のシード権をつかみ、個人としても区間新記録で区間賞を手にした。今シーズンけがに悩んだ男はこの上昇気流に乗り、さらなる高みを目指す。