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「今も大学の延長線上」大東大の後輩らの優勝も刺激に シーホース三河・熊谷航(下)

熊谷は3年生だった2017年に、大東大はインカレ初優勝を果たした(写真は本人提供)

2019-20シーズンのBリーグ、シーホース三河の熊谷航(24)はルーキーながら41試合すべてに先発し、新人賞ベストファイブに輝いた。「特別指定選手の時から合わせると2シーズン前から狙っていたので、本当にうれしいです」。大東文化大学3年生のときにインカレ優勝を果たした“大学No.1ガード”は、自らに課してきたノルマを達成し、安どの笑顔を浮かべた。プロの舞台で自己分析と自己解決を繰り返しながら急成長を遂げた2シーズン。熊谷本人と恩師の言葉から、成長の軌跡を2回に亘(わた)って紹介する。

「PGが若いから勝てない」そこから大きな成長曲線へ シーホース三河・熊谷航(上)
静かに燃える司令塔 大東大・熊谷航

後輩の「まさかの」リーグ初制覇に刺激

大東大は熊谷が2年生だった16年に1部昇格、17年にはインカレ初制覇。熊谷卒業後の昨シーズンには、関東リーグ戦で創部51年目にして初の優勝を果たした。

「僕が卒業する時は『来シーズン、大丈夫かな?』みたいな話をしていたんですよ。モッチ(・ラミン)はいたんですけど、その下のメンバーがあまり試合に出ていなかったので、『来年勝てないだろうって勝手に心配していたんです。それが、まさかの僕らの成績を余裕で超えて優勝したのでびっくりしちゃって。3年生まで試合出てなかった子が4年生になってスタメンで出ていて、すごく頑張ったんだなって思いました。僕も負けられないと、本当にいい刺激になりましたね」

大東大の西尾吉弘監督は、選手が自分で考えて取り組むことを大事にしている。「自主性というか、成功するにしても失敗するにしても、こちらから型にはめることはせず、一度やらせてみて自分で気づかせるということを大事にしています」。とりわけ熊谷に関しては「いろんな経験を自分で消化し、成長していく力がある。熊谷が失敗から回復するプロセスを見て、僕も学ばせてもらったことが多くあります」と言う。

例えば1年生の秋のリーグ戦。熊谷は高校時代に負った全治10カ月のけがから復帰した直後で、大学のバスケにもまだ慣れていなかった。その中でいきなりのAチーム抜擢。熊谷は失敗しながらも勝つための方法を自分で考え、実行していった。3年生の末から4年生にかけてU-22の主将を任せられた時も、海外選手と対戦する中で通用する部分と課題となっている部分を理解し、試合や合宿をこなす度にレベルを上げていった。「Bリーグでもおそらく同じなんじゃないですかね」と、西尾監督は熊谷のプロでの活躍は想定内だという。

そんな大東大に対し、熊谷は「本当に自由で、やんちゃって感じ」と誇らしげに話す。

「僕も1年生の時から試合に出してもらっていましたけど、今のチームにも試合に絡んでいる1年生が多くいる。そういうところが近年強くなっている理由なんじゃないかなと思います。三河にも似た雰囲気があって、チームとしての方向性はありながら、その中で選手たちが考えてやっている部分が大きい。今でも大学の延長線上にいる感じで、自分にはこういう環境が合っていると思いますね」

プロでも生かされる、継続する力とコミュニケーション力

大学4年間で最も培われたのは「継続する力」だと熊谷は言う。チーム練習が20時に終わると、それから約2時間、自主練習に取り組んでいた。「1年生から4年生まで本当にずっとバスケを努力してきました。努力し続けるメンタルを大学時代に学んだと思います。バスケ以外のことはほとんどしてないですね。4年生の時に寮で少しゲームをしていたくらいです(笑)」

西尾監督も自主練習に打ち込む熊谷の姿をよく覚えている。「個人練習にはすごく時間をかけていましたね。彼が3年生の時からよくみんなに話していたのは、個人練習の質について。ただ残って練習しているだけじゃダメだと。質についてすごく語っていましたし、自分自身も周りから見ても明らかに分かるくらい、質を上げて練習していました」

熊谷は大東大時代、仲間とのコミュニケーションを大事にし、チームの力を高めようと奮起した(写真は本人提供)

熊谷が最も力を入れて練習したのが、ボールを持つ選手に他の選手がスクリーンをかけてディフェンスをはがし、ボールを持つ選手を生かす「ピック&ロール」だ。熊谷とモッチとのピック&ロールは、インカレ優勝をもたらす当時の大東大の大きな武器だったが、完成度を高めるまでには多くの時間と労力を要した。

「ピック&ロールは高校まではほぼやっていなくて、留学生とプレーするのも初めてだったので、まずはコミュニケーションをとって仲を深めていきました。チームにはセネガル人が2人いたんですけど、そのうちの一人は日本語があまり話せなかったので、日本語が話せるもう一人を加えてチームの戦術やフォーメーションを教えたり、映像を一緒に見たり。そういう気配りを大事にしていました」

西尾監督も熊谷の変化を感じていた。とくに主将になった4年生での変化は顕著だった。「チームレベルを上げるためには周りの頑張りが必要ということもありますが、単純にその子のことを考えて言っていた場面もあったので、人のことをすごく考えるようになったんじゃないかなと思います」

練習で培った確かなスキル。自分で考え、自己解決し続ける力。コミュニケーションを大切にしながら、個性的な選手をまとめあげた経験。大学で積み上げたこれらすべてが、プロでの成長を支える土壌となっている。「先輩たちにもビビらずに話すことができますし、19-20シーズン終盤はピック&ロールを使うことが増えていました」と、熊谷自身も大学での経験が生きていることを実感している。

「24歳は世界的に見れば若くない」

三河は5月29日、自由交渉選手リストに公示されていた柏木真介の獲得を発表した。“常勝軍団”に数々のタイトルをもたらしたベテランPGの復帰だ。熊谷にとっては、待望の良きお手本の加入であり、正PGの座を争うライバルの登場でもある。困難を成長の糧にしてきた熊谷にとっては、望むところだろうか。

「来シーズンは飛躍したいなって思っています、ざっくりですけど(笑)。みんな思っていると思うんですけど、本当に活躍したいですね。と言うのも、24歳は世界的に見れば若くない。特別指定を入れるともう3年目になるので、チームを引っ張っていかなければいけない年齢になっている。だから責任感を持ってやっていきたいなと思っています」

ベテランPGの復帰も自らの力にして、熊谷(11番)は飛躍を狙う(提供・B.LEAGUE)

20-21シーズンに向けて熊谷は今、シーズン中にはできない個人のスキルを上げることに注力しているという。

「自分のシュートに関しては(19-20年シーズン)最終戦でもまだ迷いがあったので、そこは課題です。シュートパーセンテージはそれほど気にしてなんですけど、この場面で1本欲しいという時の重要なシュート、チームを勝たせられるシュートを決められる選手になりたいです」

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