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連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

日本生命・原田拓実「社会人野球を盛り上げたい」7年目のシーズンに思うこと

チームのために、会社のために。原田さんの思いをじっくりと聞いた(写真提供・すべて日本生命野球部)

大学で野球に打ち込み、その後社会人野球に進む選手。プロを目指している人、純粋に野球を続けたい人、その胸のうちはさまざまです。今回は4years.野球応援団長・笠川真一朗さんが立正大学時代の先輩であり、社会人野球・日本生命でプレーする原田拓実選手(29)にオンラインでインタビュー。社会人野球を続ける上での思い、今この状況で取り組んでいることなどをじっくりと聞きました。

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新型コロナウイルスの影響で5月の全日本クラブ選手権、7月の日本選手権などが中止になった社会人野球。一部の地域では4月から5月に行うはずだった都市対抗一次予選も延期となるなど大きな影響が出た。しかし今月5日からオープン戦の自粛が終了し、各チームは第91回都市対抗野球大会へ向けて再スタートを切った。

ここ数年、「社会人野球を盛り上げる!」と選手がSNSなどで様々な情報や企画を発信し、徐々に注目を浴びつつある社会人野球。「知る人ぞ知る」から多くの人が社会人野球を楽しめる未来に。様々な動きを見せる選手方を見ているとファンとしてワクワクしてくる。今回は私が在籍していた立正大学の2学年上の先輩、日本生命の原田拓実さん(28、天理高~立正大)に社会人野球への思いや自身の取り組み、目標などを聞かせて頂いた。

プロを夢見るも諦めケジメ「チームに恩返しを」

原田さんは天理高時代、2008年春、2009年春、夏と3度の甲子園出場。関西屈指の大型二塁手として全国に名を馳せた。立正大では度重なるけがに見舞われながらも1年春から試合に出場し、秋からはレギュラーの座を奪いリーグ屈指の好打者として注目を浴びた。卒業後、日本生命に入社。1年目から三塁のレギュラーをつかみ、2度のベストナインに輝き日本代表にも2度選出されるなど、一気に社会人野球を代表するプレーヤーに成長した。

今季で社会人7年目を迎えた原田さん。「もともとはプロに行くことを考えて入社した。1、2年目の頃はそればっかり考えていた」と振り返る。

プロ志望だった原田さん。はじめは「プロに行く」ことだけを考えていた

立正大時代に印象に残っていることがある。原田さんの同期である千葉ロッテマリーンズの吉田裕太捕手がドラフトで指名を受けたとき、原田さんは涙を流して「あとで追いつくから」と言っていた。「けがさえなければ……」と私も思うほど魅力的な打者だった。それから日本生命でもすぐにレギュラーをつかみ、日本代表にも選出される姿を見ていると、原田さんもプロに行くと私も期待していた。

しかし2年目の終わりに指名はなく、原田さんはプロへの世界を諦めケジメをつけた。それには大きなきっかけがあった。ドラフト後に行われた日本選手権の決勝戦。自らの失策で試合終盤に勝ち越しを許してしまった。しかしチームはサヨナラで勝利し、日本選手権の優勝を決めた。原田さんのミスをチームがカバーしてくれた。「それからチームに、会社に恩返ししないといけないと感じたし、それが今でも原動力になってる。年数を重ねるたびにチームでもベテランになってきた。自分がチームを引っ張らないといけないし、後輩にも伝えていかないといけないことがある。若手の頃は自分のことだけに集中してたけど、今はそれだけじゃダメだと思ってる」。年々、チームへの思いは増すと言う。

「野球がうまくなる」ための練習を積む

そして原田さんにとっても、社会人野球全体にとっても異例の事態が起こった今回の新型コロナウイルスの影響。この時間をどう過ごしたかを聞いてみた。「大会の中止が決まった時点で、野球をうまくする時間に使おうと思った。『試合で結果を出すための練習』と『野球がうまくなるための練習』ってまったくの別物だから。温かい時期に基本練習に時間を割けることがこれまであまりなくて。シーズンに入るとプロ野球と同じで実戦が増える。結果にこだわらないといけない。そういう意味ではすごく良い時間になったし、家族と長く過ごせるのも新鮮だった」とプレーヤーとしても二児のパパとしても成長に繋がる時期だったと言う。

この期間を前向きに捉え、充実した時間を過ごした

試合で結果を残すために、野球をうまくする。打撃と守備を改めて見つめ直した。成績も安定し、波も少ないという打撃では、今の状態を残しつつさらに力強さを求めてこれまでより強くバットを振った。守備ではスローイングをさらに強く安定させるために足の重心の位置を変えた。「自分の中の感覚を変えることは怖いけど、今よりレベルアップするために新しいことに挑戦してみた」と、この時期だからやれることに懸命に取り組んだ。

「スタンドとの一体感」が社会人野球の魅力

今回のコロナウイルスの影響で原田さんが寂し気に語ったことがあった。「都市対抗があっても無観客だったら寂しいな。もうそれはこんな状況だから本当に仕方がないし当然、理解してる。だけど、『スタンドとの一体感』って社会人野球の魅力のひとつで、プロとか高校野球と大学野球とはまた少し違った雰囲気がある。自分たちは会社があって野球ができてるのに、暑い中あれだけ応援してくれる社員やファンがいるのはものすごく有難い。本当にしあわせなこと。それが頑張る力になってる」

これは私も同様に感じる。あの都市対抗のスタンドのムンムンとした熱気は良い意味で異様だ。そのたしかな熱気がグラウンドで行われているプレーにも力として大きく加わっているように感じられるからだ。とにかく熱い。野球に魂を捧げたサラリーマンの情熱に心が動かされる。それがかっこよくて仕方がないのだ。それが大好きで僕は予選から足を運んでいる。「絶対に見ておかないといけない」とさえ思うほどだ。

会社のために、他の社員のために。一体感こそが社会人野球の魅力だ

そしてもちろん原田さんは、そんな社会人野球が大好きなプレーヤーのひとりだ。そして社会人野球が大好きな選手は全国に大勢いる。各企業の選手たちが垣根を超えて一致団結して、手を繋いで自分たちの大好きな社会人野球の魅力を発信していく。その活動は非常にアグレッシブで見ていて清々しい。私も心から応援しているし、どの試合も満席になるような未来を願っている。それほどかっこいいものだと知っているからだ。

社会人野球を「日本の文化」に

原田さんは「やっぱり社会人野球って楽しいから、本気で魅力を伝えていく。個人で活躍すること、チームで活躍することも魅力を伝えるうえで必要不可欠。そのために練習してる。続けていくうちにどんどん好きになっていく。それと同時に『どうすれば盛り上がるか」を考えるようになった。企業スポーツの存在意義だったり、今後の発展に向けて考えることは社会人としても野球人としても重要だと感じてるし、野球に打ち込むためのモチベーションにもなってる。企業に野球部があることって世界的に見ても珍しいことで。日本の文化になるものでありたい」と、社会人野球への強い思いを語ってくれた。

続けてこうも語る。「せっかく『都市対抗野球』という名前がついた大きな大会があるんだから、もっとそれぞれの地域に貢献したり、もっと強く根付いて地元の人を巻き込んで盛り上げていけたら最高だと思う。会社が野球部を持ってるメリットとかを十分に生かしていけたらいいなと個人的には思ってる。試合で勝ちにいくことは当然で、その思いは常に強く持ってる。でも、その勝ち負けとはまた別の部分で野球部にしかできない貢献の仕方とか役割とかあるはずで。もちろん会社の協力とかも必要で自分勝手なことはしたくないから、実現に向けてそういう部分は常に考えておきたい」。原田さんは日々、社会人野球の発展に向けて自分たちのやれること、やるべきことを模索し続ける。

社会人野球は「終わりがない」からこそ

最後に原田さんの社会人野球での目標を聞いてみた。

「散々言ってるけど、みんなで力を合わせて社会人野球を盛り上げたい。それは常に思ってる。それと個人としては10年連続都市対抗野球出場。これは自分が若手の頃に気付いたことだけど、社会人野球って終わりが見えない。学生時代は終わりがあった。高校なら3年、大学なら4年。社会人はそれがない。これも魅力のひとつで、例えば都市対抗予選。負けても敗者復活戦がある。負けたのに終わりじゃないのは、それはそれで苦しいし、厳しい。プレッシャーのかかる試合が何回も続く。もし敗者復活戦で負けたらまた必死に練習して次の年まで待たないといけない。野球をやるのが仕事だからそれと戦うのは当然のことやけど、こんなに大変なことを10年間も続けてるベテランの凄さを近くで見ていて実感した。技術はもちろん、気持ちを長く持ち続ける強さが何よりも凄い。だから10年連続都市対抗は自分の中でも大きな目標。達成したい」と今後の目標を語ってくれた。

レジェンドを目指して、原田さんは努力を怠らない

10年連続都市対抗野球に出場する選手は社会人野球の世界でも一握りで、社会人野球の世界においてレジェンドとなる。東京ドームのグラウンドで表彰を受ける選手を観客席で見ているとものすごくかっこよく見える。原田さんがその目標を達成する瞬間を私も心から楽しみにしている。

そして原田さんが大学生や社会人野球でプロを目指したように、同じ思いでプロを目指す大学球児に向けてメッセージをくれた。

「プロに行けなかったのは悔しかった。でもプロに行った人に負けてるかと言われたら、そうは思わない。でも現実、プロに行けてない。自分がその世界に行ってないから分からないけど、目指せる限りは後悔のないように目指してほしい。僕も行きたかったけど、目指して頑張ったことに後悔はない。でも……社会人野球もめちゃくちゃ楽しいよ」と微笑んだ。

世界は違えど、社会人野球も野球を一生懸命するのが仕事だ。
会社に給料を貰って野球をしている。
私はそんな社会人野球の選手を尊敬しているし、本当にかっこいい。

終わりのない戦いを、もう7年間も続けてきた原田さん。
今日も自分のため、人のために汗を流し、社会人野球を盛り上げる。

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