関大・西川将也「緊張しい」が代打で放った勝負を決める一撃
4years.野球応援団長の笠川真一朗さんのコラムです。今回は関西学生野球リーグに足を運んだ笠川さんが、関大ー京大戦で気になった選手について書いてくれました。取材場所にあらわれたのは「関西のおもろいやつ」でした!
野球を取材できる喜び
先週から開幕した関西学生野球連盟秋季リーグ戦、2週目のカードを取材してきた。関西学生野球連盟のリーグ戦取材は人生初。どんなチームがどんな野球をするのか、そして関西の大学野球はどんな雰囲気なのか。様々な楽しみを抱きながら滋賀県・皇子山球場へと足を運んだ。
検温をして記名をして報道室に入る。仕事があるのはありがたい。大学野球を取材できる喜びはコロナのせいもあって倍増した。僕はこの土日の取材のおかげで生きてることを実感できた。そして、好きなことを仕事にして良かったと真剣に思った。
今回は開幕戦が2週目となった関西大学(以降、関大)に注目したい。関大は京都大学(以降、京大)に対し、2連勝を挙げて見事に好スタートを切った。しかし初戦は厳しい戦いに。関大は2回表に2点を先制するも直後の裏に3点を奪われる。その後も1点を追加され、7回が終わって2対4とビハインドの展開。京大の投手、原健登(4年、彦根東)の粘り強い投球を前に鋭い打球を放つも野手の正面を突く。打線がなかなか繋がらないモヤモヤとした雰囲気が伝わってきた。
しかし8回表に試合は動く。この回先頭の2番・久保田有哉(3年、福岡大大濠)が内野安打の出塁をきっかけに1死1、2塁のチャンスを作る。そして5番・久保田拓真(3年、津田学園)が左前に適時打を放って1点を返し、3対4に。次打者の坂之下晴人(3年、大阪桐蔭)が三塁に大きくバウンドする打球を放つも惜しくも1塁アウト。アウトかセーフか本当に際どかった。
チャンスで主将に打席……のはずが
これで2死2、3塁。一打出れば逆転のチャンス。でも、ここを逃したらヤバい、そんな場面。打席には主将の吉川周佑(土佐)が打席に向かう。はずだった……向かってほしかった。代打が送られた。思い描いていたイメージと違って僕はヘコんだ。
というのも吉川は主将でありながら、4年生唯一のスタメン野手。この日、スタメンでグラウンドに立ったのは同じく4年生で先発投手の高野脩汰(出雲商業)と吉川だけだった。
最後の秋のリーグ戦。4年生の責任感は人一倍だ。「最後は楽しみたい!」そんな気持ちには正直なれない。最後は勝ちたい。いや、勝たないといけない。主将である吉川の重圧は我々では到底計り知れないと思う。昨年の神宮大会に出場し、準優勝を果たした関大。あと一歩で日本一だった。あの決勝戦で敗れた悔しさをみんなが持っているチーム。そんなチームをまとめる主将は求められることも多いはずだ。だから僕は試合前から吉川に注目しようと決めていた。
ビハインドになってからの打順の巡りを考えると、終盤に必ずチャンスで吉川のところに回ってくるだろうと勝手に決めつけていて、その場面が本当に訪れた。「いけ!主将!ここや!」と見守っていたが、坂之下の打席中にネクストバッターズサークルに他の選手が現れて、吉川はベンチに帰っていった。悔しかったが仕方がない。それまでの打席であまり良い内容ではないように見えたのも事実だったから。でも主将の代わりに出てくるこの代打の選手もまた大きなプレッシャーを感じてるはず。絶対に打ってほしいと僕は正直に思った。すみません、平等に見れなくて。熱くなってました。
勝利を決める一打、「本日の主役」が登場
代打に選ばれたのは同じく4年生の西川将也(聖光学院)。大きな身体の男だった。気合が伝わってくる。初球からしっかりと振りに行ってファール。続く2球目の変化球を捉えた。レフトに大きな打球が飛ぶ。腕を目一杯に伸ばしたグラブの先を越えた。逆転のタイムリー2塁打。関大サイドは大きく沸いた。まさに「本日の主役」だ。ここ一番の場面で試合を決める。これぞ代打の醍醐味だ。本当にかっこよかった。その後も追加点を挙げて関大は7対4で初戦を逆転勝利で飾った。
試合後、僕は吉川と西川のふたりに話を聞きたかった。しかし感染防止のため、取材には規制があった。このご時世だから仕方がない。取材は各校2名までという規則だった。取材対象者は記者の多数決で決めることに。ひとりはおおよそ全員が指名したドラフト候補、関大・高野。そしてもうひとりは割れた。僕は吉川に注目していて話が聞きたかったので、吉川の名前を挙げた。もちろんすんなり通るわけがなく、平等にじゃんけんで決めることに。僕はじゃんけんが本当に強い。平等ではなく、これは圧倒的に有利な手段だと思った。しかしガッツリと負けた。自信と自惚れは紙一重だと痛感した。
取材場所に現れた「関西のおもろいやつ」
そして選ばれた取材対象者は試合を決めた代打の西川だった。僕は吉川をベースに書きたかったので西川に聞きたいことは「ネクストで吉川に声をかけられていたけど、あれは何を言われたの?」だった。しかし質問は一気に増えた。取材スペースに現れた西川が一目見てわかる「関西のおもろいやつ」だったからだ。報道陣に囲まれて「緊張するっすね!」と大きな身体で照れ笑いを浮かべる姿が完全に「関西のおもろいやつ」のそれだった。僕は芸人をやってたくらいだ。おもろいやつが大好きだ。純粋で着飾らない自然体なおもろさに興味が沸いた。
まずは逆転打を放った打席を振り返った。「レフトが足を止めてたんでアウトかと思いましたね! めちゃくちゃ嬉しかったっす!」と笑顔で振り返る。「主将の代わりにチームを背負って打席に入った」という西川は狙い通りの変化球を振り切った。自らの身体を指さして「代打でこのサイズ(186cm 92kg)。変化狙いっす! 7割変化球でくる。オープン戦でも変化球を投げられることが多かったので。ストライクをしっかり振れるように練習してきました」と当然のように言い切る。
大きな身体にイケイケの喋り。これは根性もありそうだと思って「打席は楽しい?」と聞いてみた。「楽しくないっすよ!! 緊張するんで!」と食い気味で言われた。「楽しいわけないやろ!」みたいな言い方なのがすごく良かった(笑)。西川はこちらの予想に反して「大の緊張しい」と自らを分析する。そんな彼が大切にしてることを聞くと「『真面目』と『ふざけ』の両立」と小学3年生の学級スローガンのような答えを真顔で言われて僕は笑ってしまった。最初はふざけすぎて吉川によく怒られていたらしい(笑)。
ちなみに代打に向かう西川に吉川は「あとは頼むぞ」と声をかけたそうだ。主将の思いを背負う西川は短い言葉を返した。「うるさい」と。僕は爆笑した。西川が言うには「吉川は真面目で静かで頑固。でも僕は吉川にいつもふざけてる。そういう関係です!」とのこと。このハッキリと表現できないふたりの関係が僕にはとても美しく思えた。信頼し合ってるからこその素敵な関係だ。そんなふたりはこの秋で野球を辞める。そして不思議なことに就職先も同じらしい。これからもあのネクストバッターズサークルのようなやりとりを続ける関係であってほしいなと妙に穏やかな気持ちになった。
「開き直る姿勢」は誰にも負けない
そして、そんなおもろい西川にも誰にも負けないと自負するこだわりがある。それは「開き直る姿勢」だ。緊張するなら緊張するで仕方がない。それでもここぞの場面で打つために練習は考えて一生懸命やる。打席は勝負の場所だから。
コロナの影響で練習も試合もままならない時期もあった。「何のために頑張ってきたんや」、そう思う日もあった。それでも折れずに、この日のために準備をしてきて秋を迎えた。西川はこれまでの4年間で公式戦で打席に立ったのは10打席。しかも、すべて代打出場だ。その10打席の内、なんと5本もの安打を放っている。それでも「いやぁ全部、人のいないところに打球が飛んでくれてるんで!」と笑い飛ばす。西川は紛れもないチームの貢献者であり、頼れる最上級生だ。関大・早瀬監督も「しぶとい打撃をする。大事なところで打ってくれた。期待通り。嬉しい」と初戦の活躍を見て改めて信頼を寄せた。
球場外のアップからチームを明るく照らし、グラウンドに入ると親分のような雰囲気を醸し出す。そしてひとたび打席に立つと己の緊張感を振り払い、一振りにすべてを込める。人を笑顔にすることを知っている人間は、自分が笑顔になる方法も知っている。純粋な野球少年のような西川はベンチにいる誰よりも笑っていたし、誰よりも人を笑わせていた。ベンチに1人はいてほしい逸材だ。僕は本気でそう思う。僕はこれから球場で西川を見かけるたびに声をかけるだろう。話すと元気をもらえそうな気がするから。
そして最後の秋、関大のすべての重圧を呑み込むほどの「開き直り」を見せてほしい。西川将也を応援します!
初めて取材した関西学生野球。完全にハマった。西の強烈な選手達の香りがプンプンしてたまらなかった。これからも追いかけることにした。