地域貢献もBリーグを見すえた表現力も 筑波大バスケ部がYouTubeで目指すもの
新型コロナウイルスの影響で大学バスケも大会が中止・延期となり、現在も多くのチームは練習を再開できていない状況だ。今シーズンにインカレ連覇を狙う筑波大学も各自が家でできるトレーニングに切り替え、来るべき開幕に備えている。その中で新たに始めた取り組みもある。YouTube「つくばすけっと」の開設だ。「試合会場では見られないような選手の姿を発信していきたいです」。発起人で学生コーチの伊藤大樹(3年、金沢泉丘)は笑顔でそう話した。
蹴球部にならい、学生主体の組織を構築
YouTubeを始めるという案自体は前々からあった。Bリーグでも様々なチームがYouTubeをしており、「こんなことをうちでもできたら楽しそうだよね」と伊藤も選手たちと話していたという。3月にはコロナの影響で練習ができなくなり、家で過ごす時間が増えた。こんな時だからこそ、地元・つくば市のみなさんに支えられてきた僕たちにできることがあるんじゃないか。その思いから、「つくばすけっと」はスタートした。
昨冬のインカレ終了後、チームは新体制に移行する際、新たな部局制度を設けることにした。参考にしたのは同じ筑波大の蹴球部(サッカー部)。蹴球部には総務や会計、運営など複数の部局があり、部員はこれらの局に一人一つ以上所属している。バスケ部にもこうした学生主体の組織基盤が必要だと考え、選手全員がどこかの局に所属する部局制度を始めた。SNSやYouTubeなどの広報活動は広報局、地域のミニバスを支援するスクール局、部内のイベントを企画して親交を深める企画局などがあり、伊藤たちスタッフは一つの局だけでなくマルチにサポートしている。
選手の面白さをどう伝えるか
「つくばすけっと」は広報局の管轄ではあるが、現在は伊藤が企画立案から編集まで一人で担っている。撮影には基本的に部内のビデオカメラを使っているが、場合によっては選手個人のスマホで撮影する。流れとしてはまず、企画を考え、出演してほしい選手に打診。選手からもアドバイスをもらい、ブラッシュアップしたら撮影だ。「撮影直後は選手もちょっと不安そうなんですけど、でも目立つのが好きな選手も多いので(笑)。出演している選手自身が面白いと思えることをやりたいです」
学生コーチの業務柄、ビデオカメラやPCを触る機会は多かったものの、動画編集はあまり経験がなかった。「編集ソフトに慣れるまではちょっと時間がかかってしまったけど、今はだいぶ慣れてきたし、今後はもっと頻度よく動画をアップできると思います」と伊藤。編集で一番こだわっているのは選手の面白さをどう伝えるか。「普段から選手と接しているから面白いなと思うところが分かっているんですけど、それを見てくださっている人に届けるにはどうしたらいいのかっていつも考えています」。難しいなと思いながらも、だからこそ楽しい。
編集する際、筑波大OBのBリーガーでYouTuberでもある山本柊輔(2020-21シーズンは三遠ネオフェニックス)や青木太一(19-20シーズンは東京サンレーヴス)の動画も参考にしている。とくに青木は伊藤が1年生だった時の4年生。当時から人を引きつけるようなセルフプロデュースに長(た)けていた先輩の姿は、Bリーグを目指す学生にとっても学ぶところが多いと感じている。
動画の内容は出演する選手以外には秘密にしているが、部長で監督の吉田健司さんには掲載前に内容を確認してもらっている。その吉田さんは「横地(聖真、1年、福岡大大濠)が面白いね」などと学生主体の取り組みに寄り添ってくれているという。動画の公開をチームメートも楽しみにしており、素直な感想を伝えてくれる。また視聴者からのコメントには選手個人へのコメントの他、企画のリクエストもある。「筑波大が面白いことをしているっていうコメントもあって励みになります」と伊藤は言う。
Bリーガーになってからも生かせる表現力を
チームを応援してくれている方に素の選手の姿を届けたいと思いながら始めたYouTubeだが、地域貢献も大きな目的の一つだ。5月9日に掲載した「【飯テロ注意】『食レポやって』と無茶振りしたら選手はできるのか!?」の動画は、コロナ禍で苦しむつくば市内のお店を応援するべく企画したもの。「いつも支えてくださっている方々に何か還元できるような、もっとつくば市の方々とつながれる企画を一番やりたいです」と伊藤は言う。YouTubeで収益化ができるようになれば、そのお金はつくば市に寄付をする予定だ。
また、今後を見すえた狙いもある。大学卒業後、Bリーグなどの舞台で活躍する選手にもなれば、メディアに露出する機会は増える。カメラの前でも自分の意見をしっかり伝えられるか。そうした練習の場にもなればと伊藤は考えている。伊藤は1年生の時から学生コーチとしてAチームに帯同しており、将来はBリーグのコーチになるという夢がある。自らの経験値を上げる一方で、選手にもたくさんのファンに愛される選手になってほしいと思いながら企画を考えている。
PC環境が整ったこともあり、今後は週1~2回の頻度で更新を予定している。みんなで練習ができない今は各自が家でできる動画を配信しているが、練習が再開されればバスケそのものの企画も実施していく。筑波大バスケ部は外部スタッフも含めると全員で56人いる。現在はAチームの選手がメインではあるものの、今後は全員が出演できる企画も作っていきたいと考えている。
みんなの胸にあるのは「インカレ連覇」
条件がそろえば、関東の大学バスケは10月3日より1回戦総当たりでリーグ戦を実施する予定だ。例年であればその後、チーム最大の目標であるインカレが続く。前回大会で3年ぶり5度目の優勝を果たした筑波大にとって、練習が中止になった中でも「連覇」の思いはぶれない。
日々のトレーニングもオンラインを通じてともに取り組み、何度もミーティングを重ねては、一人ひとりが今できることに向き合っている。伊藤自身も今はみんなに会えず寂しい思いはあるが、「でもみんな仲がいいから、オンラインゲームでつながっていたり、Instagramのストーリーズでちょっかいを出し合ったりしているようです」と笑いながら教えてくれた。
「試合会場では見られないような選手の姿をこれからもどんどん発信していきます。大会が始まれば実際に試合会場に足を運んでいただき、応援してくださるとうれしいです」。学生主体で取り組む筑波大バスケ部の新しい形がここにある。